埼玉県毛呂山町の鎌北湖は農業用貯水池として造られた静かな湖だ。晩秋になれば湖を囲む山々が紅葉に染まり、湖の北岸に並んだモミジが美しい景観を見せる。紅葉が見頃の十一月下旬、鎌北湖を訪ねた。
晩秋の鎌北湖
晩秋の鎌北湖
埼玉県毛呂山町の南西部に位置する鎌北湖は農業用の貯水池として造られた湖だという。山々に抱かれるようにひっそりと横たわり、その静かな様子から「乙女の湖」の異名もある。晩秋になれば湖を囲む山々が季節の色に染まり、美しい錦秋の景観を見せてくれる。それに加えて湖の北岸に沿ってモミジの木が植えられており、それらのモミジが紅葉に染まって湖を彩る景観が素晴らしい。

鎌北湖は、やはり堤体上から眺めるのが最も美しいのではないかと思える。谷筋に沿って湖が奥へと入り込み、その周囲に山々の稜線が重畳する景観が素晴らしい。晩秋になれば山々は紅葉し、この季節ならではの表情を見せる。季節も深まれば日差しは浅く、湖南岸の山肌は暗く陰り、北岸の山肌は日差しを照り返して輝く。日が高くなる時刻、南の岸部に立つ木々にも山々の間から日が差し、陰った山肌を背景に浮かび上がる。静かな湖面は日差しに輝く紅葉の木々を映し、ときおり風に揺れる。日差しの向きは刻々と変化し、それにつれて景観の表情も変わってゆく。いつまで見ていても飽きない。
晩秋の鎌北湖
晩秋の鎌北湖
晩秋の鎌北湖
堤体上からも湖北岸に並ぶモミジの見事な紅葉が見えている。北岸に沿った道路を辿って行けば、その景観を間近に楽しむことができる。モミジは湖の水面と道路との間の斜面から幹を伸ばしており、道路から見れば目の高さに紅葉の枝々が広がる。モミジの向こうには鎌北湖の水面が横たわり、湖とモミジとの取り合わせが風趣に富んだ景観を見せる。基本的に南向きにモミジを見ることになるから日差しは逆光となり、陰った山肌を背景に透過光に輝く美しいモミジを堪能することができるのもいい。

当然のことだが、北岸を辿る道路は曲がりくねっている。辿って行けばモミジと日差しの関係はさまざまに変化し、景観の表情はさまざまに変わる。その変化が楽しく、“次にはどんな美しい風景が見られるのだろう”という期待を持たせてくれる。そしてその期待に充分に応えてくれる素晴らしさだ。歩いても歩いても次から次に美しい紅葉の風景が現れ、飽きることがない。
晩秋の鎌北湖
晩秋の鎌北湖
湖北岸のモミジは奥に設けられた第二駐車場の辺りまで続く。紅葉の風景を楽しみながらのんびりと往復してみるのがお勧めだ。往きと帰りとでは景観の印象も違う。時間をかけて歩けば、時間の経過に伴う日差しの変化によって、また異なる表情の景観を楽しめるだろう。訪れる時刻のそれぞれに興趣ある風景を見ることができると思うが、やはり最も日が高くなるお昼前後がお勧めだろうか。
晩秋の鎌北湖
鎌北湖東岸の山肌は「四季彩の丘公園」という公園になっており、木々の間を縫うように散策路が設けられている。第一駐車場奥に設けられた入口から散策路へと辿って行けば、ここでも美しい紅葉を楽しむことができる。日当たりの具合によるものか、鎌北湖北岸のモミジほどには鮮やかな紅葉に染まっていないようだが、木々に包まれた山間の小径を彩るモミジの風情がいい。
晩秋の鎌北湖
晩秋の鎌北湖
散策路を辿って高所に至れば、錦秋に染まった鎌北湖と周囲の山々を一望する。その景観もやはり見ておきたい。鎌北湖を見下ろす高所に設けられた四阿脇、鮮やかに紅葉したモミジが印象的に立っている。そのモミジと共に眺める鎌北湖の景観も美しい。

モミジ以外にもさまざまな樹木が秋の色に染まり、日差しの向きによっては見事な景観を演出して目を奪う。公園内の散策路はかなりの高低差があるが、さまざまな秋景色との出会いを楽しみつつゆっくりと巡りたい。
晩秋の鎌北湖
晩秋の鎌北湖
晩秋の鎌北湖
鎌北湖北岸のモミジの景観や「四季彩の丘公園」からの眺めを堪能し、最後にもう一度堤体上からの眺めをゆったりと楽しもうと腰を降ろしていると、鎌北湖に訪れた若いカップルがスワンボートを借りる様子が目に入った。彼らの借りたスワンボートがゆっくりと湖に漕ぎ出して行き、静かに木々の色を映していた湖面に小さな航跡を描く。真っ白なスワンボートが秋の日を弾く様子も景観のアクセントになって素敵だ。カップルの乗ったスワンボートはやがて湖の奥へと小さくなっていった。湖面を滑るボートの上から眺める紅葉もきっと素晴らしいものに違いない。

鎌北湖は春の桜の名所としても知られているが、紅葉の名所としても名高く、観賞に訪れる人の姿も少なくない。紅葉が見頃の休日には「紅葉まつり」も開催されて賑わうようだ。そうした賑わいの好きな人は「紅葉まつり」に合わせて訪ねてみるのもいいが、個人的にはやはり静けさの中のしっとりとした風情が鎌北湖の魅力なのではないかと思う。
参考情報
本欄の内容は鎌北湖関連ページ共通です
交通
鎌北湖の最寄り駅はJR八高線毛呂駅だが、駅から4kmほどの距離がある。月曜〜土曜(祝日と年末年始を除く)には毛呂山町町内循環バス「もろバス」が運行しているようだが、便数は少ない。

車で訪れる場合には毛呂山町中心部から県道30号を南に数百メートル行ったところの「鎌北湖入口」交差点から県道186号で西へ辿ればよい。遠方から訪れる人は関越自動車の道鶴ヶ島ICや坂戸西スマートIC、圏央道の圏央鶴ヶ島ICなどから、まず毛呂山町中心部を目指すとわかりやすい。

鎌北湖には堤体を渡った湖東側に第一駐車場が、湖の北岸を西へ進んだ奥に第二駐車場が設けられており、駐車スペースも合計で200台ほどで比較的余裕がある。

飲食
鎌北湖は山々に囲まれた静かなところだ。お弁当持参で訪れて、湖を眺めながらのランチがお勧めだ。

第一駐車場脇に軽食と釣具を商う店が建っており、うどんやそば、カレーなどの軽食が可能のようだ。

周辺
県道30号から鎌北湖へ向かう県道186号沿いには長閑な田園風景が広がっている。鎌北湖から歩くと少し距離があるが、余裕があれば足を延ばして里山散歩を愉しむのも悪くない。その田園地帯の一角には毛呂山総合公園がある。公園は春の桜が美しい

鎌北湖の北側、阿諏訪川の源流付近には獅子ヶ滝が、また鎌北湖の南側、宿谷川の上流部には宿谷の滝がある。どちらも鎌北湖から車で直接行くことはできず、少し戻ってそれぞれの道へ辿らなくてはならないが、これらの滝も余裕があれば立ち寄っておきたい。
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