春の大谷木（埼玉県毛呂山町）

埼玉県毛呂山町の南西部に大谷木という地区がある。東西に長く、ほとんどを山林が占める地区だが、東側では鎌北湖から流れる大谷木川の河畔に平地が横たわり、毛呂山総合公園の北側では地形が開いて毛呂山町の中心部へと続いている。大谷木地区は長閑な田園風景の広がるところで、特に毛呂山総合公園西側の大谷木川河畔では春になると桜やハナモモが風景を彩り、たいへんに美しい景観を見ることができる。春爛漫を満喫しながらの田園散歩に絶好の場所だと言っていい。

桜の咲く季節に大谷木地区を訪れたなら、まず毛呂山総合公園に立ち寄っておきたい。毛呂山総合公園は体育館やグラウンドなどを設けた公園だが、体育館の北側周辺を中心に桜が数多く植えられていて、美しい景観を見せてくれる。公園の東側の丘の裾を辿る散策路脇ではハナモモの花を見ることもできる。春の彩りを探してのんびりと園内を一巡りしてみるのがお勧めだ。

毛呂山総合公園の北西側を県道186号が通っている。公園の北側と西側を通る道が県道186号と交わり、変則的な交差点を成している。この交差点の北側に「大谷木農村公園」と名付けられた小さな公園がある。公園は木立のある広場が設けられているだけの簡素なものだが、園内に数本の桜の木があって、なかなか美しい景観を見せる。

「大谷木農村公園」という名が気が利いている。周辺は長閑な田園風景が広がるところで、まさに古き佳き農村の風景が楽しめる。そうした風景と共に見る園内の桜が良い風情だ。特に公園から少し北に離れて、少し逆光気味に見てみるときの景観などは風趣に富んで素晴らしいものだ。春の大谷木散歩の際にはぜひ大谷木農村公園にも立ち寄っておきたい。

大谷木農村公園から県道186号を西へ辿り、大谷木川を小さな橋で渡ると、道脇の畑の脇に数本の桜が咲いている。畑には菜の花が黄色い花を咲かせている。日を浴びた桜の仄かなピンクと菜の花の黄色、そして春空の青が美しいコントラストを見せる。

真っ直ぐに延びる県道186号を少し西に進むと、左手（南側）、大谷木川の岸辺に印象的に一本の桜が咲いているのが見える。緑の山々を背景に立つ桜の凛とした姿が素晴らしい。近くの民家や背後の山々に建つ送電鉄塔の姿も風景の一部となって興趣に富んだ景観を成している。美しい風景である。

県道186号から大谷木川を小さな橋で渡って南へ歩を進めることができる。大谷木川の南側から見る“一本桜”も美しい。春の日差しを順光で浴びて、輝くような美しさだ。手前の畑の菜の花や背景に見える丘と丘裾の農家が、春の農村風景の興趣を感じさせてくれる。

南側の丘の裾に桜が並んで咲くところがある。周辺には広場のような場所が設けられているが、毛呂山総合公園の駐車場であるらしい。近くまで行くと大谷木川の河岸より少し高みになっていて、河畔の田園風景を見渡すことができる。素敵な風景である。

県道186号を西へ辿っていけば、県道の周囲には畑地が横たわり、その中に農家らしい家々が点在している。長閑な農村風景だ。県道の右手（北側）の畑地の中にハナモモの木がある。鮮やかなピンクの花が桜とはまた違った春の風趣を演出する。背後の丘の緑や農家の建物などと一緒に見る景観に良い風情が感じられる。

県道186号はほぼ真っ直ぐに西へ延びているが、大谷木農村公園から400mほどのところで緩やかなカーヴを描く。そのカーヴの横手の民家の周辺に桜やハナモモが数多く咲くところがある。桜は民家の敷地内に植えられているもののようだ。道路の反対側にもハナモモが咲いている。

東側から少し離れて眺めると桜やハナモモの色彩が凝縮して見えてたいへんに美しい。背後の山々、緩やかにS字カーヴを描く道路、道路に沿った電柱と電線、端正に刈り込まれた道脇の植え込みなどが、桜やハナモモと見事に調和して素晴らしい春の農村風景を見せてくれる。大谷木地区の春景色の中でもぜひ見ておきたい景観のひとつだと言っていい。

カーヴを過ぎたところ、民家の西側の畑地にもハナモモが咲いている。白い花、ピンクの花、赤い花、さまざまな色のハナモモが畑地の中に咲き誇っている。その向こうに丘の木々や民家の屋根が見え隠れする。畑地の中には作業中の地元の方の姿がある。美しい春景色だ。

県道186号から南へ、畑地の中を辿る道へ入り込んでみればさらに田園風景の風情を楽しむことができる。畑地の中に農家が点在する風景は長閑で美しい。その風景の中を蛇行しながら流れる大谷木川の河畔に桜の木がある。ヤマザクラではなくソメイヨシノのようだが、近くの家の人が植えたものか。緑の中に咲く姿が美しい。

大谷木中央公会堂から県道186号に戻る道の途中にハナモモが咲いている。畑には菜の花が咲き、その向こうには県道脇の家の桜やハナモモが見えている。春空には少し雲が浮かび、それらの織り成す色彩のコントラストがたいへんに美しい。

大谷木中央公会堂の辺りから県道186号をさらに西へ辿っていけば1kmと少しで鎌北湖だ。鎌北湖も桜が美しく、名所として知られている。余裕があれば足を延ばしてみるのもお勧めだ。

長閑で穏やかな田園風景を桜やハナモモが彩る春景色が、この季節の大谷木の魅力だと言っていい。気の向くままにルートを選んで、春の田園風景を楽しむといい。田園散歩の好きな人にはお勧めの、春の大谷木である。

散策の際は農地などの私有地に立ち入らない、写真を撮る際には地元の方々のプライバシーに配慮するなど、地元の方々のご迷惑にならないよう充分に気をつけたい。

毛呂山町大谷木地区を訪れるなら毛呂山総合公園を目指すとわかりやすい。最寄り駅はJR八高線毛呂駅で、駅から2kmほどで毛呂山総合公園に着く。

大谷木地区にはコインパーキングなどは無いので、車の場合には毛呂山町中心部の駐車場に車を駐め、徒歩で訪ねよう。毛呂山総合公園をメインに訪ねるなら公園駐車場を利用すればよいだろう。

大谷木地区には飲食店もコンビニエンスストアもない。毛呂山総合公園にも売店やレストランはない。飲食店は毛呂山駅周辺に戻って探そう。お昼時を大谷木地区で過ごすつもりならお弁当持参が賢明だ。駅周辺のお店でおにぎりやサンドイッチなどを購入してから向かうのも一案だ。毛呂山総合公園などに場所を見つけて花見ランチを楽しもう。

毛呂山総合公園も春は桜が美しい。大谷木地区散策と共に楽しもう。

県道186号を西へ（山間部へ）辿っていけば鎌北湖も遠くない。鎌北湖も桜の美しいところだ。散策の足を延ばすのもお勧めだ。

少し距離があるが、西阿諏訪川源流付近の獅子ヶ滝や宿谷川上流部の宿谷の滝なども立ち寄っておきたいところだ。車で来訪したときに余裕があれば訪ねてみよう。