埼玉県飯能市、中心市街の南西側に位置する丘陵地に美杉台という美しい住宅街が広がっている。この辺りは1980年代の初めまでは山林だったところだ。1980年代の中頃に住宅地として造成され、1989年(平成元年)に中心部(現在の美杉台四丁目の辺り)の105棟が分譲され、“街びらき”が行われて美杉台の歴史が始まった。比較的新しい街だが、それだけに街並みは美しい。
その美杉台の街の中央を貫くように延びるバス通りはモミジバフウの並木だ。モミジバフウは落葉樹で、秋になると美しい紅葉に染まる。近年、その見事さが評判を呼び、景観を楽しみに訪れる人も増えている。美しい住宅街に延びていく紅葉のモミジバフウ並木は評判に違わず素晴らしいもので、深まっていく季節の風情を存分に味わいながらの散策が楽しめる。
美杉台は一丁目から七丁目まである。四丁目の辺りが中心部と言ってよく、最初に分譲が行われたのも四丁目の辺りだ。四丁目とその北側の五丁目を境をバス通りが通っている。このバス通り、美杉台中学校のある角の交差点から東へ、モミジバフウ並木になっている。
美杉台中学校角から500mほど東へ辿ると美杉台公園横の交差点で、そこから東側は美杉台一丁目になる。モミジバフウ並木のバス通りはそのまま一丁目の街の中を抜け、大きく南向きに曲がり、やがて飯能駅南側から延びてきた美杉台通りに至るのだが、その手前、美杉台小学校の先辺りまでモミジバフウの並木が続く。
モミジバフウは漢字では「紅葉葉楓」と書く。フウ科フウ属の落葉高木で、葉の形が「モミジ(カエデ)」に似ているために「モミジバフウ」の名がある。北アメリカ原産の樹木で、「アメリカフウ」とも呼ばれる。日本には大正時代に渡来したという。
モミジバフウは秋の紅葉が美しい。その年の気候によって多少前後するが、通常関東では10月下旬から11月上旬に美しい紅葉に染まる。
美杉台のモミジバフウ並木の西端部は美杉台中学校南西側の交差点付近だ。交差点の北東側には「あさひ山展望公園」がある。そこから東北東の方角へ真っ直ぐに延び、少し南寄りに曲がって美杉台公園横に至る。美杉台公園横で大きく南向きに曲がり、南に向かって降り、美杉台小学校横を過ぎて、その先の交差点付近まで、距離は約1.2km、美しいモミジバフウ並木が続く。秋の風情を堪能できる1.2kmである。
並木道というものは、真っ直ぐに延びていく景観を正面から見るのが最も美しいものだが、車の通行のある一般道だとなかなかそういう視点で楽しめないものだ。美杉台のモミジバフウ並木はところどころで曲がっているために、うまく場所を選べば真っ直ぐに延びる並木道を正面から見る(写真に撮る)ことができるのが嬉しい。さらに丘陵地を造成した住宅街であるため、特に一丁目では並木道は緩やかな坂道になっていて、景観のアクセントになっているのもいい。
モミジバフウの並木は、日当たりなどの環境の差によるものか、個体差もあるのか、木によって紅葉の進み方が違う。紅葉の盛りで美しい朱色に染まった木もあれば、まだ緑を残したもの、すっかり落葉してしまっているものもある。さまざまな色彩が混じり合う様子も美しい。日差しを浴びて輝く姿を見上げたり、遠くへ視線を向けて景色を楽しんだり、路面の落ち葉を楽しんだり、紅葉のモミジバフウ並木の魅力に飽きることがない。のんびりと楽しみたい並木道である。
モミジバフウ並木の北側、美杉台五丁目の街をぐるっと回るようにほぼ半円形を描いて延びる通りがある。あさひ山展望公園と美杉台中学校の間から五丁目の街を回り、美杉台公園西側でモミジバフウの並木道(バス通り)へ至っている。
この通りはトウカエデの並木だ。気候や時期などの条件に恵まれれば、トウカエデの紅葉も楽しめる。併せて歩を進めてみるのもお勧めだ。
トウカエデは「唐楓」と書く。ムクロジ科カエデ属の落葉高木で、一般的に「モミジ」として親しまれている樹木と同じ属である。大気汚染や乾燥、剪定などへの耐性が強いので、公園内の樹木や街路樹として多用される樹木だ。秋には紅葉するが、環境によって紅葉の状態に大きく差があるようで、見事な紅葉に染まるものもあれば、きれいな紅葉に染まらずに落葉してしまうものもある。
美杉台五丁目のトウカエデ並木も、美しい紅葉に染まったもの、まだ緑を保ったものなどが混在している状態だが、それはそれで色彩のグラデーションが美しい。日差しの向きによって紅葉の美しさは大きく違い、さまざまな表情を楽しめる。この並木道ものんびりと時間をかけて楽しみたい。
モミジバフウやトウカエデの並木以外にも、美しい紅葉を楽しむことができる。五丁目の街の中に延びる遊歩道ではケヤキやハナミズキの紅葉が日差しを浴びて輝いていた。逆光の中に輝くケヤキの黄色やハナミズキの赤が素晴らしい。モミジバフウ並木やトウカエデ並木を堪能した後は、住宅街の中に延びる遊歩道にも足を延ばしてみたい。
せっかく美杉台を訪れたなら、あさひ山展望公園にも立ち寄っておきたい。あさひ山展望公園は美杉台五丁目の西端部、美杉台の西北端に近い辺りに設けられている。丘陵地の高台を生かした立地で、その名のように爽快な展望を楽しめる公園だ。頂上の展望台からモミジバフウ並木やトウカエデ並木も少し見えている。美杉台中学校の向こう、遠くに連なる丘陵の稜線は飯能市から入間市、青梅市にかけて横たわる加治丘陵か。眺めを楽しんでいると時の経つのを忘れる。
モミジバフウやトウカエデの並木の美しい美杉台は、紅葉の季節にはぜひ訪れてみたいところだ。紅葉の並木に彩られた道を歩くのは楽しく、秋の休日を満喫できるだろう。街自体もたいへんに美しく、街歩きの好きな人でも楽しめる。