埼玉県飯能市に能仁寺という曹洞宗の寺がある。本堂北庭の「池泉鑑賞蓬莱庭園」が名園として知られる。境内は四季折々に美しいが、特に秋の紅葉の見事さが有名だ。木々が紅葉に染まった十一月下旬、能仁寺に参拝した。
埼玉県飯能市、中心市街の西側に武陽山能仁寺という曹洞宗の寺がある。飯能市の指定文化財の「池泉鑑賞式蓬莱庭園」が名園として知られ、また四季折々に美しい景観を見せてくれる寺として写真愛好家などの人気も高い寺である。特に秋の紅葉はその見事さでも広くその名を知られ、多くの参拝者を迎えて賑わう。
寺伝によれば、室町時代後期の1501年(文亀元年)、武蔵国高麗郡加治(現在の飯能に相当する)の武将中山家勝が斧屋文達師を招いて小庵を結んだのが始まりだそうだ。家勝が没した後、子の中山家範が父の菩提を弔うために本格的な寺院を創建したものという。家範の子である照守は徳川家康に引き立てられ、その庇護のもとで寺院も発展した。家範が没して百年ほど後、常陸下館藩の大名であった黒田直邦が老朽化した寺堂を再建、伽藍を完成させたという。
1868年(慶応4年)5月、能仁寺は「飯能戦争」の舞台となった。天野八郎と対立して彰義隊を離れた渋沢成一郎が振武隊を結成、能仁寺に陣を張ったのだ。しかし官軍の攻撃 に僅かな時間で勝敗は決し、振武隊は敗走、寺も焼失した。境内地に「飯能戦争」について解説した案内板が設置されているから、訪れた時には目を通しておきたい。現在の本堂は1936年(昭和11年)に再建されたものだ。以後復興を続け、現在は山門、位牌堂、大書院、鐘楼、大庫院が完成している。
能仁寺を参拝した際には、やはり名園として名高い本堂北庭「池泉鑑賞式蓬莱庭園」を拝観しておきたい。本堂北庭は面積324坪(約1071平方メートル)、天覧山の南斜面の立地を活かして自然の木々と借景とし、背後に枯滝を組み、その下に池泉を配した構成である。立体感があり、豪放な印象を伴いながらも落ち着いた佇まいの庭園である。この本堂北庭は飯能市指定文化財、見学するには拝観料が必要である。
能仁寺は四季折々の景観が美しい寺としても知られているが、特に秋の紅葉は素晴らしい。山門から続く参道沿いにモミジの木が多く植えられ、見事な景観を見せてくれるのだ。参道脇には石灯籠が並び、石灯籠と紅く染まったモミジとが織り成す景色が実に風趣に富んでいる。
モミジの中には明らかに大ぶりの葉のものもあったから、イロハモミジだけでなくオオモミジやヤマモミジなども植えられているのだろう。イロハモミジの繊細な美しさもいいものだが、オオモミジやヤマモミジの紅葉も艶やかな印象が魅力的だ。中にはまだ紅葉に染まりきらず、オレンジ色のモミジも混じっているが、それも景観のアクセントになっていて良い風情だ。のんびりと時間をかけて寺社の紅葉が見せる味わいを楽しみたい。
能仁寺は、境内地には自由に入れるが、本堂北庭の見学には所定の拝観料が必要だ。詳細は公式サイト(頁末「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)を参照されたい。
能仁寺は飯能駅(西武池袋線)から約1.5km弱、徒歩で20分強、東飯能駅(西武池袋線、JR八高線)からは約1.8kmほど、徒歩で30分弱といったところか。
能仁寺には参拝者用駐車場が用意されているから、車で来訪することもできる。
遠方から訪れる人は圏央道狭山日高ICを利用すれば便利だ。狭山日高ICから能仁寺まで7km強、通常なら15〜20分ほどで着く。
能仁寺には観光客向けのレストランなどは設けられていない。食事は場所を移して楽しもう。飯能駅周辺の市街地へ移動すればさまざまな飲食店がある。
能仁寺の北側の丘陵は天覧山だ。手軽に登れるから足を延ばしてみるのもお勧めだ。
能仁寺から南へ300mほど辿れば飯能河原だ。バーベキューを楽しむ人たちで賑わうところだが、河岸の散策を楽しむのもいい。
町歩きの好きな人なら飯能市街の散策も楽しい。町のあちこちに昔の風情を感じさせる建物が残っている。
飯能河原の南側の丘陵地には美杉台という住宅地がある。美杉台の中を抜けるバス通りはモミジバフウの並木で、
秋には美しい紅葉に染まる
。紅葉の時期に訪ねてみたい。
能仁寺
飯能河原
晩秋の飯能河原
紅葉の美杉台