東京都千代田区、皇居北西側に位置する千鳥ヶ淵は東京都内で最もよく知られた桜の名所のひとつだ。濠を覆い尽くすように咲き誇る桜は見事なものだ。桜が満開となった四月の始め、千鳥ヶ淵を訪ねた。
春の千鳥ヶ淵
千鳥ヶ淵は現在の皇居、すなわちかつての江戸城を取り囲む濠の一部だ。皇居の北側に位置する北の丸公園の西側の濠が千鳥ヶ淵と呼ばれるところで、その形が千鳥に似ているというのでその名で呼ばれるようになったものという。千鳥ヶ淵の土手にはソメイヨシノやヤマザクラなどの桜が多く植えられており、春の花期には水面を覆い尽くすほどに見事に咲き誇る。その景観の素晴らしさは都内の桜の名所の中でも屈指のものと言ってよく、毎年数多くの花見客で賑わっている。
春の千鳥ヶ淵
春の千鳥ヶ淵
千鳥ヶ淵の桜はまったく圧倒的な美しさだ。濠の土手を埋め尽くし、水面に届きそうなほどに枝を張った桜が濠を春色に染め上げる景観はまさに圧巻だ。北側から眺めれば緩やかな曲線を描いて並ぶ桜の並木が逆光に霞み、南側から眺めれば順光を照り返して輝く。千鳥ヶ淵の西側の岸辺には緑道が沿っており、緑道を歩けば頭上を桜が覆い、水面に向かって垂れ下がる枝の向こうに対岸の桜が見える。対岸は北の丸公園に茂る木々の緑が背景となって色彩のコントラストが美しい。碧の水を湛えた濠にはボートが浮かび、景観にアクセントを添える。都心の直中だから桜の向こうには高層のビルが見え隠れするが、それもまた東京の桜の名所としての興趣のひとつだろう。

有名な桜の名所だけあって花見客はたいへんに多い。近隣から花見に訪れた人たちだけでなく、桜の時期にあわせて東京観光に訪れた人も少なくないようだ。濠西側の千鳥ヶ淵緑道は人で溢れ、立ち止まってゆっくりと眺めることもままならないほどだ。緑道は「左側通行」、すなわち濠側は北から南へ向かう一方通行の措置がとられ、しかも立ち止まらずに歩くように指示がなされ、溢れる花見客に対応していた。
春の千鳥ヶ淵
春の千鳥ヶ淵
千鳥ヶ淵の桜を堪能するベストポイントはどこだろう。北側の岸辺から逆光の中に霞む景観も美しい。桜に包まれながら緑道を歩き、対岸の桜を眺めるのも素晴らしいものだ。南側のボート乗り場横へと降りてゆくと、水面近くから北への眺めが望める。この眺めが陽光を照り返して輝く桜を堪能するには絶好のものだろう。しかしやはり千鳥ヶ淵の桜を楽しむ最高の場所は濠に浮かぶボートの上かもしれない。ボート乗り場には順番を待つ人たちの行列が並ぶ。今回訪れた時には時間の余裕がなかったためにボートに乗るのは諦めたのだが、ボートの上から濠の両岸に咲き誇る桜を見上げるのはきっと素晴らしいものに違いない。千鳥ヶ淵は夜桜も楽しめる。照明に浮かび上がる桜は幻想的な美しさであることだろう。
参考情報
交通
千鳥ヶ淵へは都営新宿線九段下駅、東京メトロ東西線九段下駅、東京メトロ半蔵門線九段下駅が近い。駅から少し西へ歩けば千鳥ヶ淵の北端だ。東京メトロ半蔵門線半蔵門駅からも一キロ足らずの距離だ。

都心の市街地なので車での来訪はあまりお勧めしないが、九段下駅周辺や千鳥ヶ淵の西方、内堀通りの西側に民間駐車場が点在している。北の丸公園内にも有料駐車場があるが桜の季節には終日満車状態が続くに違いない。

飲食
千鳥ヶ淵西側の千鳥ヶ淵緑道は緑道自体も狭く、また花見の人たちがたいへんに多いため、シートを広げてお弁当を食べながら花見を楽しむといったことはできない。千鳥ヶ淵では花見散歩だけを楽しみ、食事はまた場所を変えて楽しもう。九段下駅周辺から靖国通りの市ヶ谷駅近くに飲食店が数多く点在している。

周辺
北の丸公園も特に田安門付近の桜が見事だ。また靖国通りを挟んだ北側は靖国神社で、ここも桜の名所として知られている。靖国神社からさらに西へ足を延ばせば外濠公園、外濠の土手に桜が植えられ、ここも桜の名所だ。併せて散策を楽しむのもいい。
桜散歩
東京23区散歩