千鳥ヶ淵の桜はまったく圧倒的な美しさだ。濠の土手を埋め尽くし、水面に届きそうなほどに枝を張った桜が濠を春色に染め上げる景観はまさに圧巻だ。北側から眺めれば緩やかな曲線を描いて並ぶ桜の並木が逆光に霞み、南側から眺めれば順光を照り返して輝く。千鳥ヶ淵の西側の岸辺には緑道が沿っており、緑道を歩けば頭上を桜が覆い、水面に向かって垂れ下がる枝の向こうに対岸の桜が見える。対岸は北の丸公園に茂る木々の緑が背景となって色彩のコントラストが美しい。碧の水を湛えた濠にはボートが浮かび、景観にアクセントを添える。都心の直中だから桜の向こうには高層のビルが見え隠れするが、それもまた東京の桜の名所としての興趣のひとつだろう。
有名な桜の名所だけあって花見客はたいへんに多い。近隣から花見に訪れた人たちだけでなく、桜の時期にあわせて東京観光に訪れた人も少なくないようだ。濠西側の千鳥ヶ淵緑道は人で溢れ、立ち止まってゆっくりと眺めることもままならないほどだ。緑道は「左側通行」、すなわち濠側は北から南へ向かう一方通行の措置がとられ、しかも立ち止まらずに歩くように指示がなされ、溢れる花見客に対応していた。