東京都文京区小石川の播磨坂は桜の名所として知られている。五百メートルほどの長さの通りに三列の桜の並木が続く。桜が満開の四月初め、播磨坂を訪ねた。
播磨坂桜並木
播磨坂桜並木
東京都文京区小石川四丁目の北西側、小石川五丁目との境に沿って播磨坂(はりまざか)という通りがある。北東側の端は都道436号との「植物園前」交差点(すぐ北側に東京大学大学院理学系研究科附属植物園があるため、交差点に「植物園前」という名がある)、南西側の端は国道254号(春日通り)との「小石川五丁目」交差点、両者を繋いで500メートルほどの長さの通りだ。その名に「坂」の文字があるように、地形的には「植物園前」側が低く、「小石川五丁目」側が高く、緩やかな坂道を成している。広い通りの真ん中には中央分離帯を兼ねた遊歩道が整備されており、遊歩道の中には小川も設けられている。この通りの両脇の歩道と中央の遊歩道とに、三列に桜並木が続く。春には見事な桜景色となり、都内の花見の名所のひとつに名を連ねている。
播磨坂桜並木
播磨坂桜並木
播磨坂桜並木
播磨坂はそもそもは戦後復興事業に於ける土地区画整理事業に伴って都市計画道路環状三号線の一部として造られたものという。「播磨坂」の名は江戸時代にこの辺りに松平播磨守(まつだいらはりまのかみ)の上屋敷があったことに由来するものらしい。桜は1960年(昭和35年)に道路が舗装された際、当時の「全区を花でうずめる運動」の一環として中央部と両脇の歩道に植えられたものという。当初、中央部は単なる中央分離帯で幅の狭いものだったそうだが、1995年(平成7年)に現在のような遊歩道として整備されたものらしい。

播磨坂に設置された案内パネルの記述によれば、1995年(平成7年)に遊歩道が整備された時、播磨坂の桜は127本だったそうだ。1960年(昭和35年)に植えられたのは約150本だったそうだから、さまざまな理由で少し数が減ったのだろう。当時植えられた若木も地元の人たちによって育てられて齢を重ね、見事な枝振りの桜並木に成長している。1971年度(昭和46年度)からは毎年四月初めに「文京さくらまつり」が開催され、多くの花見客を集めて都内の桜の名所として知られるようになった。
播磨坂桜並木
播磨坂桜並木
三列の桜並木が見せる景観は見事なものだ。桜は大きく枝を張り、特に中央の遊歩道を歩けば桜の天蓋に覆われたような印象になる。播磨坂の名のように通りは緩やかな坂道で、さらに緩やかに曲がっているため、桜並木が単調にならず、辿って行くにつれて景観の印象が変わるのもいい。

播磨坂の遊歩道は中央部の「播磨坂桜並木」交差点で途切れており、つまり東西に分かれており、西側(坂を登った方)は「洋風ゾーン」として西洋風に整備され、東側(坂を下りた方)は「和風ゾーン」としてせせらぎなどを設けて和風庭園風に整備されている。「洋風ゾーン」の整然とした印象も悪くないが、やはり桜には和風の景観が似合っているかもしれない。またこの遊歩道には三体の彫刻作品も展示されており、それらの作品と桜との取り合わせが見せる興趣も悪くない。
播磨坂桜並木
播磨坂桜並木
播磨坂桜並木
播磨坂桜並木は中央部の遊歩道を辿っての花見散歩が最も楽しめるものだと言っていいが、通り両脇の歩道を歩いてももちろん見事な桜を楽しむことができる。歩道側から見る遊歩道の桜並木も美しく、遊歩道内を歩いているときとはまた違った表情で楽しめる。両脇の歩道を歩けば桜並木と街の景観との取り合わせの妙が楽しく、“桜の咲く街”の景観を存分に堪能できる。街歩きの好きな人にとっては素敵な春散歩のひとときだろう。

桜が満開となった四月初めの土曜日、播磨坂には大勢の花見客の姿があった。遊歩道にはシートを広げて花見を楽しむグループや家族連れの姿があり、その傍らを花見散歩の人たちが行き交っている。遊歩道の「洋風ゾーン」ではベンチ状に造られた外縁部に腰を降ろして桜を楽しむ人の姿も少なくない。

播磨坂桜並木は長さ500mほど、往復しても1kmほどだ。ときどき足を止めつつ、のんびりと歩いても1時間かからないだろう。通り全体が穏やかな春の空気に包まれた印象の播磨坂桜並木、存分に春散歩の愉しみを味わうことができる。評判に違わぬ“花見の名所”である。
参考情報
交通
播磨坂へは東京都メトロ丸ノ内線茗荷谷駅が近い。駅から国道254号(春日通り)を東南方向へ400メートルほどで「小石川五丁目」交差点、播磨坂桜並木の西側の端だ。

茗荷谷駅周辺から東京大学附属植物園南側にかけて時間貸し駐車場が点在しているが小規模のものがほとんどだ。車での来訪は避けた方が無難だ。

飲食
播磨坂の通り沿いにも飲食店がいくつかあるが数は少ない。茗荷谷駅周辺には数多くの飲食店があるので、飲食店を探す場合は移動した方が選択肢が増えるだろう。

お花見に訪れるのであれば、お弁当と敷物を持参して通り中央部の舗道脇に場所を見つけるのがお勧めだが、人気の場所なので混雑するのは避けられない。余裕を持ってでかけよう。

周辺
播磨坂の北側には東京大学附属植物園、いわゆる小石川植物園がある。余裕があれば是非併せて訪ねてみたい。

東京大学付属植物園の東側を回り込んで北東へと辿れば白山神社まで徒歩で20分ほど。紫陽花の名所として知られている。紫陽花の季節には訪ねてみたい。

茗荷谷駅の北側には筑波大学東京キャンパス文京校舎があるが、その横は東京教育大学跡地を利用して造られた「教育の森公園」という公園になっている。公園横の道路は桜並木になっており、春には静かなお花見が楽しめる。
桜散歩
東京23区散歩