東京都大田区の西端、多摩川左岸の丘陵に多摩川台公園がある。園内には古墳群があり、自然林が残る。桜や紫陽花の名所としても知られる。紫陽花が見頃を迎えた六月半ば、多摩川台公園を訪ねた。
多摩川台公園
多摩川台公園は東京都大田区の西端辺り、田園調布の町の南端部に位置している。公園は多摩川左岸の丘陵地に造られており、河岸に沿って750mほどの長さで細長く延びている。この辺りは多摩川が北西から南東に向かって流れているところで、公園もそれに沿って北西から南東の方角へ細長く延びている形だ。面積は6.7haほどというからなかなか広い。
多摩川台公園
公園を構成しているのは基本的に木々の茂る丘陵地で、多摩川河畔に位置してはいるものの“河岸”特有の開放感というものには乏しい。丘陵の中には古墳が含まれ、立ち入りが制限されているところもある。公園のほとんどは樹林地で占められ、その樹林の中を縫うように散策路が延び、随所に広場などが置かれている。公園の南東端、東急多摩川駅に近い辺りには「あじさい園」や「四季の野草園」、「水生植物園」といった施設が設けられ、公園のアクセントになっている。
多摩川台公園
公園内には開放感溢れる芝生広場のようなものはなく、その広さを体感する場面は少ないが、南東端から北西端まで歩けば相応の距離があり、公園の規模を実感する。木々に包まれての散策はなかなか楽しく、場所によって木々の隙間に多摩川の流れを眺望できるのも素敵だ。その緑濃い様相はここが東京都大田区、しかも田園調布の街に隣接しているということを忘れさせてくれる。
多摩川台公園
公園の南東端に位置する「あじさい園」では紫陽花が見頃を迎えていた。紫陽花を目当てに訪れる人も少なくないようだ。園内に設置された案内板によれば、「あじさい園」は隣接する「野草園」や「水生植物園」とともに1987年(昭和62年)に開設されたものだそうで、園内には7種類、3000株ほどの紫陽花が植えられているという。案内板には西洋アジサイやガクアジサイ、タマアジサイなどといった代表的な品種の説明が写真とともに載せられている。
多摩川台公園
「あじさい園」は決して広くはないが、斜面となった地形を巧みに利用して造られており、その中に咲く3000株の紫陽花はなかなか見応えのあるものだ。咲き誇る紫陽花の中を縫うように散策路が設けられており、さまざまな表情を楽しむことができるのもいい。散策路が直線的でなく、曲線を描いているのも柔らかな印象を与えてくれている。散策路にはベンチが設けられ、北側には四阿も設けられている。四阿は少し高所になっており、そこからは「あじさい園」のほぼ全景が見渡せるのがいい。
多摩川台公園
「あじさい園」は東急線の線路に近いために電車の音がけっこう大きく響くのが難点だが、木々に包まれてしっとりとした佇まいはなかなか素敵だ。四阿でお弁当を広げるグループの姿もあった。紫陽花の花を楽しみながら散策路を巡ってのんびりと過ごすのがお勧めだ。
多摩川台公園
「あじさい園」の北西側には「野草園」と「水生植物園」が隣接している。この区域はかつての「調布浄水場」の跡だそうだ。多摩川の水を汲み上げて周辺地域の飲み水を供給していた施設だ。「野草園」と「水生植物園」は浄水場だった頃の姿がわかるように整備されたものといい、「水生植物園」はかつての沈殿池、「野草園」はかつての濾過池だったところなのだそうだ。浄水場だった頃の姿を想像しながら歩くのも楽しい。
多摩川台公園
「野草園」には四季の野草と地被植物が植えられているそうで、派手さはないが素朴で落ち着いた佇まいだ。「水生植物園」には池が設けられ、文字通り湿性植物が植えられている。池には木道が渡り、池に育つ植物を間近に見ることができる。訪れたときにはスイレンの花やハンゲショウなどを見ることができた。散策に訪れる人の姿も少なくないようで、木道の隅の木陰にシートを広げてくつろぐ家族連れの姿もあった。
多摩川台公園
多摩川台公園
多摩川台公園
「あじさい園」と「野草園」、「水生植物園」を除けば、公園の大部分は木々の茂った丘で占められており、その丘の周囲を巡るように散策路が辿り、ところどころに広場が設けられている。

公園内の“丘”は古墳であるらしい。「亀甲山古墳」や「多摩川台古墳群」、そして「宝莱山古墳」と、公園内にはさまざまな古墳が残されている。これらの古墳を保存しておくことも公園の造られた目的のひとつなのかもしれない。「亀甲山古墳」は「きっこうさん」ではなく「かめのこやま」と読む。大田区から世田谷区にかけての古墳群のうちで最大の前方後円墳だそうだ。五世紀前半の築造らしいが、詳細は不明らしい。「多摩川台古墳群」は八基からなる古墳群で、六世紀前半から七世紀中頃にかけて築造されたものらしい。「宝莱山古墳」は「亀甲山古墳」に次ぐ規模の前方後円墳で、四世紀に築造、この地域で最古のものだそうだ。それぞれの古墳には解説板が設置されている。興味のある人は目を通しておくといい。
多摩川台公園
多摩川台公園
「亀甲山古墳」の南西側、すなわち多摩川に面した方には「展望広場」が設けられている。“広場”と言うより広く造られた散策路といった様相だが、その名が示すように木々の隙間から多摩川の姿を望める。広場の端にはベンチが置かれ、特に眺めの良い場所には四阿も設けられており、一休みする人の姿も少なくない。

「あじさい園」から「展望広場」を通り抜けると「多摩川台古墳群」と「運動広場」だ。「運動広場」とは言っても特にグラウンドとして整備されているわけではなく、平地のスペースが広がっているだけだ。脇の方には管理事務所と古墳展示室が置かれており、この辺りが多摩川台公園のメインエントランスという位置付けなのだろう。「運動広場」の北側には木々の間に四阿や遊具を設置した一角があり、地元の子どもたちの遊ぶ姿があった。
多摩川台公園
多摩川台公園
「多摩川台古墳群」の脇を抜けて散策路を北西側に辿っていくと「虹橋」だ。田園調布の街と多摩堤通りとを繋ぐ道路が抜けて公園を分断しているため、それを繋ぐために設けられている橋のようだ。「虹橋」を渡ると樹林地を抜けて「自由広場」が設けられている。この「自由広場」にはブランコや滑り台、ジャングルジムといった遊具類が設置されており、親に連れられた小さな子どもたちが遊んでいる。

公園の最も北西側の端部は「宝莱山古墳」だ。周辺は「山野草の道」と名付けられた散策路が巡っている。「宝莱山古墳」の区域は公園内でも別区画のように扱われているようで、フェンスで囲まれており、昼間しか立ち入ることができない(開門閉門の時間は季節で異なる)。
多摩川台公園
多摩川台公園
多摩川台公園はその中に古墳を残す以外には特筆するほどの特徴のある公園ではない。しかし古墳の丘には木々が茂り、その緑濃い様相はなかなか魅力的なものだ。初めて訪れる人なら公園の南西側、多摩川に面した側の散策路を歩いてみるのをお勧めしたい。木々の緑に包まれて歩き、ときおり木々の隙間に見え隠れする多摩川の流れを眺めながらの散策はなかなか楽しい。多摩川の姿がよく見える場所もあり、悠然と流れる多摩川の姿と、広々とした河岸の風景が一望できる。なかなか爽快な眺めだ。

多摩川台公園には桜の木も多く、春の花見の名所としてもよく知られている。桜の季節や新緑の頃、紫陽花の頃などが訪れるにはお勧めだが、それ以外の季節にもしっとりとした緑の中の散策が楽しめるだろう。
宝莱公園
多摩川台公園の北西端から田園調布の街の中を北へ数十メートル歩くと宝莱公園という小公園がある。街の中の小さな公園だが、園内には木々が茂り、池も抱えている。公園散策の好きな人なら足を延ばしてみるのもいい。梅林や藤棚もあり、それぞれの花期に訪れるのがお勧めかもしれないが、しっとりとした緑に覆われた宝莱公園もなかなか素敵だ。
参考情報
本欄の内容は多摩川台公園関連ページ共通です
交通
多摩川台公園は東急東横線、東急多摩川線の多摩川駅が至近だ。駅の改札を出て西へ、徒歩1分ほどで公園入口に着く。

公園には駐車場はない。民間駐車場も公園付近にはない。多摩川駅から数百メートル東へ行くと環八通りで、環八沿いには民間駐車場が点在しているようだが、規模の小さなものがほとんどのようだ。車での来訪はあまりお勧めしない。

飲食
公園内にはレストランや売店などはない。多摩川駅の周辺には飲食店があるが、数は少ない。田園調布駅の周辺や環八沿いなどには飲食店が点在しているようだ。少し足を延ばしてみるといい。

多摩川台公園には芝生の広場などはなく、ピクニック気分でシートを広げてアウトドアランチを楽しむには不向きかもしれない。園内の随所にベンチや四阿があるから、2、3人程度ならお弁当を広げる場所を見つけることもできるだろう。桜の時期にお花見に訪れるのならレジャーシート持参が必須だ。

周辺
言うまでもないが、公園の西側には多摩川が流れている。河岸の散歩を楽しんでみるのもいい。

多摩川台公園の北側、田園調布の住宅街の中には宝来公園が、また東急線多摩川駅の東側には田園調布せせらぎ公園がある。どちらも小さな公園だが、公園散策の好きな人なら併せて訪ねてみるといい。

多摩川台公園の南側には浅間神社が建っている。さらに中原街道を渡って南へ、旧六郷用水に沿った散策路を辿って東急多摩川線沼部駅まで歩いてみるのも悪くない。

街歩きの好きな人なら田園調布駅を中心に田園調布の街を歩いてみるのも楽しめる。田園調布の駅からさらに北へ一駅で自由が丘だ。街歩きの好きな人は散策の足を延ばしてみるのをお勧めする。
紫陽花散歩
公園散歩
東京23区散歩