東京都小金井市の小金井公園内の「江戸東京たてもの園」は、文化的価値の高い歴史的建造物を移築、復元、保存、展示する施設だ。園内の「東ゾーン」には商店の建物などが集められ、昭和初期の商店街が再現されている。寒さの厳しい一月半ば、江戸東京たてもの園を訪ねた。
江戸東京たてもの園/東ゾーン
江戸東京たてもの園/東ゾーン
東京都小金井市、東京都立小金井公園内に「江戸東京たてもの園」という施設が設けられている。1993年(平成5年)に東京都江戸東京博物館の分館として設けられたもので、その名から推測できるように文化的価値の高い歴史的建造物を移築し、復元、保存、展示している施設だ。

園内は三つ“ゾーン”に分けられてそれぞれに価値ある建築物が保存展示されているが、特に「東ゾーン」には昭和初期に建てられた商店が集められており、往時の商店街の再現が試みられている。
江戸東京たてもの園/東ゾーン
江戸東京たてもの園/東ゾーン
江戸東京たてもの園の「東ゾーン」は南北に真っ直ぐに延びる園路を中心に、その両脇に建物を配する形で構成されている。中央部の園路は「下町中通り」と名付けられ、昭和初期の東京下町の商店街が再現されているというわけだ。展示されている商店の建物はほとんどが昭和初期に建てられたものだ。おそらく関東大震災からの復興の際に建てられた建物なのだろう。

“商店街”らしく、荒物屋や生花店、文具店など、多様な商店が並んでいるが、ただ単に建物だけを保存展示しているのではなく、それぞれの店舗が扱っていた商品や室内の調度品なども展示されているのが楽しい。中には“よくこんなものが残っていたな”と思うような昔の日用品もあったりして、興味深く見学していくことができる。それぞれの建物には簡単な解説に間取り図を添えた案内パネルが設置されているのも嬉しい。一棟ずつ、丹念に見学していきたい展示である。
江戸東京たてもの園/東ゾーン
丸二商店は荒物店で、現在の千代田区神田神保町に昭和初期に建てられたものという。建物はいわゆる「看板建築」で、銅板に覆われた前面部の意匠がなかなか洒落た印象だ。この建物で昭和20年代中頃まで商売を行っていたという。
江戸東京たてもの園/東ゾーン
内部は昭和10年代の荒物屋が再現されており、食器や鍋釜の類い、箒などの日用品が並べられている。今ではすっかり見ることのなくなったものもあって、丹念に見ていくのは楽しい。炭を運ぶための台十能などは、若い人が見ても何をするための道具なのかわからないのではないだろうか。それらの商品はずいぶんとぞんざいに並べられているように思う人もあると思うが、昔の店先はこのようなものだった。売る側も買う側も鷹揚な時代だったのだ。
江戸東京たてもの園/東ゾーン
大和屋本店は港区白金台の目黒通り沿いにあった乾物屋だそうだ。建物は1928年(昭和3年)に建てられたもので、当時の状態が復元されている。煙草の販売も行っており、店舗前面部分に煙草屋の造作が取り付けられていたという。こうした煙草販売の造作を取り付けた店舗が、昭和30年代頃までは町に残っていたような記憶がある。昔を知る人には懐かしい景観ではないだろうか。
江戸東京たてもの園/東ゾーン
店舗内部は戦前の乾物屋の様子が再現されているそうで、鰹節や昆布、スルメなどの海産物をはじめ、豆や鶏卵などが並べられている。樽に入った豆類はもちろん量り売りだ。壁面の棚には缶詰なども並べられている。
江戸東京たてもの園/東ゾーン
武居三省堂は明治初期創業の文具店だそうである。1927年(昭和2年)に建てられたという建物は、これも「看板建築」で、茶色のタイルを全面に張った前部と、上部のマンサード屋根が特徴的だ。
江戸東京たてもの園/東ゾーン
内部は昭和30年代の様子が再現されているという。武居三省堂はそもそも筆・墨・硯といった書道用品の卸を中心にした商いだったそうだが、後に絵筆や文具の小売りも行うようになった。それでもやはり主力商品は筆・墨・硯だろうか。店先の中央部を占めて置かれているのはそうした書道用品だ。
江戸東京たてもの園/東ゾーン
小寺醤油店は現在の港区白金で大正期から営業していた酒屋だそうである。“醤油店”を名乗っているのは創業者が醤油醸造元で修行したからだそうで、当時は酒屋が味噌や醤油を販売するのは珍しいことではなかったという。

建物は1933年(昭和8年)当時の状態が再現され、店舗は昭和30年代後半の柄杓と漏斗による量り売りの時代を再現してあるとのことだ。
江戸東京たてもの園/東ゾーン
「下町中通り」の北端部は突き当たりで、子宝湯という銭湯が建っている。足立区千住で営業していた銭湯だそうである。1929年(昭和4年)に建てられ、その年の10月から営業を開始したという。唐破風を載せた玄関が神社や仏閣を思わせるが、この建物は施主が出身地の石川県から気に入った職人を連れてきて造らせたという。
江戸東京たてもの園/東ゾーン
子宝湯は東京の銭湯を代表する形式なのだそうだ。案内パネルの解説には“贅を尽くした造り”とあるが、壁面の富士の絵や高く造られた天井、洒落た意匠の浴槽などなどを見ると確かに“贅を尽くした”印象がある。当時の銭湯は庶民にとって一種の非日常空間だったのかもしれない。
江戸東京たてもの園/東ゾーン
内部は昭和30年代の様子が再現されているとのことで、入浴料金を記した張り紙や脱衣所壁面上部に並んだ町の商店の広告看板、額に入れられて掲げられた「入浴者心得」など、丹念に見ていくとそれぞれに興味深く飽きない。
江戸東京たてもの園/東ゾーン
子宝湯の西隣に建っているのは鍵屋という名の居酒屋だ。現在の台東区下谷にあった。伝えられているところによれば創業は1856年(安政3年)だそうで、当初は酒問屋だったという。後に酒の小売りも始め、戦後の1949年(昭和24年)から居酒屋の営業を開始した。手頃な値段で静かに飲むことができるというので、地域の人々や職人、芸人らに支持されていったらしい。
江戸東京たてもの園/東ゾーン
お品書きの札が整然と並ぶ様子や壁面上部に掲げられた“カブトビール”のポスター額、招き猫の鎮座する神棚の様子など、復元された店内の様子が素敵だ。
江戸東京たてもの園/東ゾーン
江戸東京たてもの園は近代の建築物に興味のある人なら一度は訪ねてみるべき施設と言っていいが、その中でも昭和初期の商店などが集められた「東ゾーン」の一角は“昭和レトロ”な魅力も感じられて、そうしたレトロな事物に心惹かれる人も楽しめるだろう。お勧めである。
江戸東京たてもの園/東ゾーン
江戸東京たてもの園/東ゾーン
参考情報
江戸東京たてもの園は入園料が必要だ。入園料や開園日など、詳細は江戸東京たてもの園公式サイト(頁末「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)を参照されたい。

交通
江戸東京たてもの園へはJR中央線の武蔵小金井駅や東小金井駅、西武新宿線の花小金井駅などからバスを利用すればいい。いずれも数分の乗車時間で着く。

車で訪れる場合は小金井公園の駐車場(有料)を利用すればいい。小金井公園は人気のある公園で、休日には駐車場も混み合い、周辺の道路も渋滞する。余裕を持って出かけた方がいい。

遠方から車で訪れる場合は、中央自動車道の調布ICや、関越自動車道・東京外環自動車道の大泉ICが最寄りだ。調布ICからは10km弱、大泉ICからは10km強の距離がある。ルートがわかりにくいので、土地勘の無い人はナビの使用をお勧めする。

飲食
江戸東京たてもの園の中に食事の可能な店がある。歴史的な建造物を利用したお店で食事を楽しむのも素敵なひとときだ。

小金井公園内にもそばやうどんの楽しめる店がある。また手ぶらで利用できるバーベキュー場もある。陽気の良い季節ならお弁当を持参して公園内で青空ランチを楽しむのもお勧めだ。

周辺
江戸東京たてもの園を訪れたなら小金井公園内の散策も楽しもう。桜や新緑の季節は特にお勧めだ。

小金井公園の南側には玉川上水が流れている。上水沿いを散策してみるのも楽しい。
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