東京都福生市の北東部。玉川上水の岸辺に福生加美上水公園という公園が設けられている。木々が茂って緑濃く、玉川上水と共に散策を楽しむのに好適な公園だ。すっかり秋めいた十月初旬、福生加美上水公園を訪ねた。
東京都福生市の北東端に近い辺り、福生加美上水公園という公園が設けられている。面積は約1ha、玉川上水の右岸側(西側)の岸辺に南北に長く横たわっている。園内は木々が茂って緑濃く、四季折々に美しい景観が楽しめる。公園は玉川上水沿いの緑地とほぼ一体化しており、上水の風情を楽しみつつの散策が楽しい。樹林の表情が美しい公園である。
福生加美上水公園の「加美」は「かみ」と読む。この辺りの昔の字名であるらしい。そもそもは「上(かみ)」だったものが「加美」に転じたものという。現地の名標には「福生加美上水公園」と記されているが、正式には「多摩川緑地福生加美上水公園」という名称のようだ(本頁内では「福生加美上水公園」と表記する)。
福生加美上水公園は、その名に「上水」の文字があることからもわかるが、玉川上水沿いに設けられた公園だ。玉川上水の右岸側(西側)、上水に沿って南北に長く横たわっている。そのほとんどが樹林地で、ところどころに広場が設けられているという構成だ。園内には南北に貫いて堤状に土が盛られた地形が続いているが、これは上水の新堀を開削した際の土が盛られた跡だという。
その“堤”の上を散策路が辿っている。ちょっとした“尾根道”の風情である。散策路には随所にベンチが設置されている。園内は整備が行き届き、荒れた印象はまったくない。地元のボランティアの人たちによって日常的な整備が行われているようだ。そうした人たちの尽力に感謝しつつ散策を楽しみたい。
園内の樹林は基本的に“雑木林”と言っていい。さまざまな樹木が茂る園内は四季折々に美しい表情を見せてくれるだろう。春の新緑や秋の紅葉の頃などは、特に散策に好適な時期だろう。
中西悟堂「野鳥村」構想の地
福生加美上水公園は中西悟堂が「野鳥村」を構想した地だという。中西悟堂は1934年(昭和9年)に「日本野鳥の会」を創設した詩人・歌人で、野鳥研究家でもあった。中西は1895年(明治28年)に石川県金沢市に生まれ、1922年(大正11年)に最初の歌集を発表している。1926年(昭和元年)に千歳烏山(現在の東京都世田谷区烏山)に移り住み、野鳥や昆虫の観察を始めたという。1944年(昭和19年)、福生(現在の福生加美上水公園内)に移り、日本初の野鳥研究所を兼ねた「野鳥村」を構想したが、残念ながら戦局悪化のために実現することはなかった。1984年(昭和59年)、88年の生涯を終えている。野鳥愛護と自然保護に尽力した半生だった。
玉川上水旧堀跡
福生加美上水公園の西側、公園に沿って南北に続く窪地は、玉川上水旧堀跡である。玉川上水は1654年(承応3年)に完成したが、多摩川の洪水被害で上水の土手が崩壊することが少なくなかった。そこで1740年(元文5年)、約600mの新しい水路が造られた。その新堀が現在の玉川上水である。玉川上水旧堀跡は学術的にも貴重なもので、福生市の史跡に指定されている。福生加美上水公園南端部の広場横に簡単な解説を記したパネルが設置されている。ぜひ目を通しておきたい。
玉川上水
福生加美上水公園を訪ねた際には玉川上水にも注目して散策を楽しむのがお勧めだ。というより、玉川上水沿いの道とセットで楽しんでこその福生加美上水公園の魅力である。「玉川上水旧堀跡」の解説パネルに添えられた地図を見るとよくわかるが、福生加美上水公園は玉川上水の新堀と旧堀の間に位置している。福生加美上水公園と玉川上水は切り離せない関係と言っていい。
福生加美上水公園と玉川上水との間には狭いながらも車両も通行可能な道路が通っている。通行する車両に気をつける必要はあるが、普段はほとんど通り抜ける車もなく、のんびりとした散策を楽しむことができる。道路と上水の間にはフェンスが設けられているので加美上水橋や新堀橋の上から眺めてみるといい。両岸に木々の茂った上水の姿はなかなか興趣のあるものである。
福生加美上水公園北端部で、新堀橋が上水を跨いでいる。「新堀橋」という名に玉川上水の歴史を感じる。新堀橋からさらに上流側へも玉川上水沿いの道が続く。新堀橋上流側は車両通行不可の歩行者専用路だ。車に気をつける必要も無く、のんびりと散策が楽しめるのが嬉しい。新堀橋から600mほどで堂橋、堂橋から300mほどで玉川上水第三水門、さらにそこから400mほどで羽村堰だ。さまざまに表情を変えながら続く上水沿いの道を辿ってみるのも楽しい。
福生かに坂公園
福生加美上水公園の南側、多摩川の河岸に福生かに坂公園という公園が設けられている。“隣接している”と言っていいほど近いから、併せて訪ねてみるといい。福生かに坂公園は広場を中心に構成された公園で、河岸の立地で広々とした印象が楽しい。多摩川の河原に降りてゆくこともできるから多摩川の流れを眺めて過ごすのも一興だ。
福生加美上水公園は緑濃い表情が美しく、散策路として好適な公園だ。面積は1haほどで特筆するほど大きな規模ではなく、行楽地的な性格もないが、玉川上水沿いの道や福生かに坂公園など、周辺と併せて散策を楽しむスポットして考えれば魅力は大きい。玉川上水そのものやその歴史に興味のある人なら一度は訪ねておきべき場所のひとつと言っていい。四季折々の表情を訪ねたい公園である。
福生加美上水公園に訪れるにはJR青梅線福生駅が近い。福生駅西口から公園まで約1km、15分ほどで着く。
福生加美上水公園には来園者用駐車場は設けられていない。車で訪れる場合は福生駅周辺のコインパーキングなどに車を止め、徒歩で向かうといい。
遠方から車で訪れる場合、圏央道日の出ICが近い。日の出ICから都道165号を東進、道なりに進めば4kmほどで福生駅だ。
福生加美上水公園園内はもちろん、周辺にも飲食店はない。飲食店は福生駅周辺に戻って探そう。
陽気の良い季節なら、おにぎりやサンドイッチを持参して、福生加美上水公園や福生かに坂公園でランチタイムを過ごすのも楽しい。
福生加美上水公園はその名が示すように玉川上水沿いに設けられた公園だ。玉川上水沿いにさらに足をのばして散策を楽しむのもお薦めだ。玉川上水の上流側へ辿れば、1kmと少しで
羽村堰
だ。羽村堰まで足を延ばしてみるのも楽しい。
多摩川緑地福生加美上水公園(福生市)
多摩川緑地加美上水公園周辺(福生市観光協会)
羽村堰