「ママ下湧水」は東京都国立市の南西部、多摩川にほど近い辺りにある。「ママ」とは「崖」を意味する古語であるらしい。同じく崖を意味する古語で「ハケ」という言葉があるが、この地域では「ママ」という言葉も残っているということなのだろう。「ママ下湧水」とは、だから「崖下の湧き水」という意味で、昔からこの辺りでは青柳崖線の崖下の湧き水を「ママ下湧水」と呼んでいたそうである。現在「ママ下湧水」として知られている湧水のある場所は「上(かみ)のママ下」と呼ばれていたそうで、昭和の初めまで、この湧水を利用してわさびも作られていたらしい。湧水の脇には「国立市四軒在家土地区画整理組合」の名で「上(かみ)のママ下」についての簡単な解説を記したパネルを設置した石碑があり、そうしたことが書かれている。
前述のパネルにも記されているが、「ママ下湧水」の周辺は「ママ下湧水公園」として自然環境が保全されている。「公園」とは言っても、湧水やその周辺の自然の保全が目的であるから、住宅街の中に設けられた街区公園などとは異なり、遊具や広場などは設けられていない。そもそも公園の範囲すら判然としないが、おそらく湧水と湧水から流れる小川、青柳崖線の斜面林などが公園として保全の対象になっているのだろう。周辺は住宅地が広がり、中央自動車道や甲州街道(都道256号)も近く、すぐ横には都道20号も抜けるところだが、そのような立地にこれほどの自然環境が残っているのは貴重なことだと思える。地元の人は今でも湧水で野菜を洗ったりするそうである。