東京都立川市の南端部、根川緑道という遊歩道が整備されており、桜の名所として知られている。根川緑道の西、残堀川の河岸にも桜並木が延びている。桜が見頃を迎えた三月末、根川緑道と残堀川を訪ねた。
春の根川緑道
東京都立川市の南端部、多摩川河岸に近い辺りに根川緑道という遊歩道がある。かつて根川という小川が実際に流れていたそうだが、時代の変化と共に姿を消し、その流路跡に人工的なせせらぎを設けて遊歩道として整備されたものが現在の根川緑道だ。根川緑道の沿道には柴崎体育館や球場、陸上競技場などが点在しているが、それらすべてが立川公園という広域公園の一部であるらしい。
春の根川緑道
根川緑道は残堀川が新奥多摩街道をくぐるところの脇を起点とし、東へ延びて市境を越えて国立市に入る辺りまで1.4kmほど続いている。途中、都道149号や新奥多摩街道、甲州街道(都道256号)といった幹線道路と交差し、その下をくぐってゆく。それらの幹線道路との交差によって根川緑道はほぼ均等に四つの区間に分かれ、西からそれぞれ「Aゾーン」、「Bゾーン」、「Cゾーン」、「Dゾーン」と名付けられている。
春の根川緑道
春の根川緑道
根川緑道は「Aゾーン」から「Dゾーン」に至る全区間が桜の並木で、花見の名所として知られている。そもそもは1935年(昭和10年)に当時の根川の改修工事が行われた際に堤に桜が植えられ、それ以来花見の名所になったというから、その歴史もなかなか古い。もちろん1935年(昭和10年)当時のままの景観が残っているわけではないが、それでも緑道の桜は年月を経たらしい大木が多く、春の花期には見事な景観を見せてくれる。桜が見頃を迎える時期には大勢の花見客が訪れ、散策を楽しむ人たちが行き交う中、桜の下にシートを敷いてのんびりと花見を楽しむグループや家族連れの姿も多い。
春の根川緑道
春の根川緑道
全区間を歩いても1.5kmに満たない、短い緑道だが、その桜並木が見せる景観は圧巻の見事さだと言っていい。西側の「Aゾーン」から東側の「Dゾーン」まで、根川緑道の景観は区間によって少しずつ印象が違い、それに応じて桜景色の印象も違う。全区間を歩くとその印象の違いも楽しい。桜の咲く景観を楽しみながらのんびりと散策を楽しみ、どこかに場所を見つけて桜を眺めながらのランチタイムを楽しむのが、根川緑道での花見のお勧めだろう。もちろん花見散歩だけでも、“花見ランチ”だけでも充分に楽しめる。まさに花見の名所である。
春の根川緑道
日野橋北側の「日野橋」交差点の1kmほど西、残堀川が新奥多摩街道の下をくぐるところの北側に、根川緑道の起点がある。ここから都道149号立川日野線と交差するところまでが「Aゾーン」である。「Aゾーン」の西端部には高度処理水を用いた水の噴出口が設けられ、その水が根川緑道の小川となって東へ流れてゆく。
春の根川緑道
小川は自然のせせらぎを模して作られており、岸辺には水辺の植物が茂っている。河岸には遊歩道が設けられ、その遊歩道に大きく枝を張った桜が並ぶ。緩やかに曲がりながら流れてゆく小川と、それに沿う遊歩道、それらを覆うように咲き誇る桜が美しい風景を織り成している。遊歩道には随所に四阿が置かれ、ところどころで小川を跨ぐ小橋の意匠も良い風情で、そうしたものと桜との組み合わせも興趣に富んだ風景を見せる。
春の根川緑道
春の根川緑道
遊歩道には花見散歩を楽しむ人たちが行き交っている。遊歩道が少し広くなったところは小公園のような佇まいで、設置されたベンチに腰を降ろしてのんびりと花見を楽しむ人の姿もある。緑道の脇には住宅街が迫っているが喧噪感は感じられず、のんびりと穏やかな春の空気に包まれている印象だ。春爛漫の空気感を味わいながら、ゆったりと花見散歩を楽しむのが「Aゾーン」には適しているように思える。

「Aゾーン」から西へ出れば残堀川の河岸で、河岸の桜並木が西へ続いている。散策を楽しむ人たちの多くは根川緑道から残堀川の河岸への散歩にも足を延ばしているようだ。
春の根川緑道
春の根川緑道
春の根川緑道
都道149号立川日野線と交差するところから新奥多摩街道と交差するところまでの区間が「Bゾーン」だ。「Bゾーン」は根川緑道の中央部分という位置付けだ。沿道北側には柴崎体育館が建っている。

柴崎体育館前は遊歩道が少し広く、広場のように整備され、ベンチが置かれている。ベンチには腰を降ろしてくつろぐ人たちの姿があり、その傍らを散策の人たちが行き交う。広場はもちろん大きな桜に覆われ、春爛漫の日差しが降り注いでいる。
春の根川緑道
春の根川緑道
柴崎体育館前から少し東へ行くと、道路をアンダーパスでくぐってゆく。目の前には新奥多摩街道が斜めに横切っているが、その北側に小さな公園がある。公園は立川公園の一部として設けられた広場だ。その脇の緑道では桜の下にシートを広げて花見ランチを楽しむグループの姿がある。若いお母さんたちのグループのようで、子どもたちが周りで遊んでいる。子どもたちはあまり桜には興味がなさそうだ。それもまたのんびりとした春の光景と言っていい。
春の根川緑道
春の根川緑道
新奥多摩街道をくぐって東側に出れば「Cゾーン」だ。「Cゾーン」は緑道の南側外縁部が小高い堤を成し、中央部は少し低くなって遊歩道が辿っている。南側の堤体上には桜の大木が並んでいる。なかなか見事な桜で、大きく枝を張って遊歩道を覆い、桜色の天蓋を被せたような景観を見せている。遊歩道は花見散歩の人たちが行き交い、堤の上には桜の下にシートを敷いて花見を楽しむ人たちのグループがある。

根川緑道で腰を据えてのんびりと花見を楽しむなら、この「Cゾーン」が最も適しているように思える。堤が小高くなっているから遊歩道を歩く人たちを見下ろす位置になり、人々の行き交いが多くてもあまり喧噪感を感じないのがいい。
春の根川緑道
「Cゾーン」の中央部には遊歩道の北側に池がある。池を臨んで木製のデッキも設けられている。デッキには三脚を据えてカメラや双眼鏡を構えた人たちの姿があったが、どうやら池にカワセミが飛来するらしく、それを待っている人たちのようだった。その人たちに混じってしばらく池の辺で待っていたが、残念ながらカワセミに出会うことはできなかった。
春の根川緑道
春の根川緑道
春の根川緑道
都道256号(甲州街道)の東側は「Dゾーン」だ。「Dゾーン」は甲州街道東側の多摩川河岸に設けられた市営球場と陸上競技場の北側に沿っている。水の流れは“川”と呼んで差し支えない姿で、その河岸に遊歩道が沿っている。河岸の桜はますます見事で、両岸に並ぶ桜並木が大きく枝を張って川面を覆い、美しい春景色を見せてくれている。河岸の遊歩道から眺める景観も素晴らしいが、川面近くに降りてみるとまた表情が変わる。川面近くから桜並木を見上げれば、包み込まれるような桜景色を味わうことができる。

川の左岸川には堤の下の“河川敷”と呼べる部分に平たいスペースがあり、シートを広げて花見を楽しむ人たちのグループが並んでいる。河岸の遊歩道を行き交う人たちから見下ろされる形になってしまうのが少しばかり難点だが、ここも花見を兼ねたアウトドアランチを楽しむのに良い場所だろう。
春の根川緑道
春の根川緑道
「Dゾーン」のほぼ中央、市営球場と陸上競技場の境目に当たるところで川を橋が跨ぎ、それによって「Dゾーン」はさらに二つの区画に分けられている印象だ。橋の東側、すなわち根川緑道の東端部では桜並木が右岸側だけになり、散策を楽しむ人の姿も比較的少ないようだ。
春の根川緑道
さらに東へと辿ってゆくと、根川貝殻板橋という風雅な意匠の橋が川を跨いでる。この根川貝殻板橋を過ぎれば東側は市境を越えて国立市、ここが根川緑道の東端だ。根川貝殻板橋近くの左岸に、ハナモモの花が鮮やかに咲いていた。
春の根川緑道
春の根川緑道
根川緑道の西端部は残堀川に接している。残堀川は瑞穂町箱根ヶ崎の狭山池を水源とし、武蔵村山市、昭島市、立川市を流れ、都道149号が多摩川を跨ぐ立日橋付近で多摩川に合流している。昭和記念公園の中を流れている、あの川が残堀川である。途中、真っ直ぐな流路を描いたり、屈曲したりするのは大部分が人工的な流路であるからだ。根川緑道西端部近くで残堀川を立川橋が跨ぎ、新奥多摩街道が通っている。そこから上流側の富士見町三丁目付近まで、残堀川河岸には桜並木が続く。

根川緑道西端部から残堀川河岸に出ると、川の両岸に見事な桜が咲き誇っている。河岸には両岸ともに遊歩道が沿っているが、桜は遊歩道を覆って川の上へと張り出し、遊歩道は“桜のトンネル”状態だ。残堀川は護岸工事が施されて、巨大な溝のような様相だが、川底には土砂が堆積し、そこに菜の花が繁茂して黄色く染め上げている。菜の花は上流から土砂と共に種が流れてきて根付いたものだろう。春の青空の下、桜並木と菜の花の競演のような景色が楽しめる。
春の根川緑道
春の根川緑道
立川橋から上流側へ数百メートル辿るとJR中央線の橋梁をくぐり、そこからさらに100メートルほど行くと「馬場坂下橋」という小さな橋が架かっている。馬場坂下橋から上流側では桜並木は右岸側だけになる。馬場坂下橋から200メートルほどで、今度は「山中坂下橋」という橋が架かっている。橋の名が「○○坂下橋」なのは、川の左岸側が段丘崖を成しており、河岸に降りる坂があるからだ。山中坂下橋の横では山中坂が段丘崖を下っている。山中坂の途中には道沿いに小さな祠が祀られており、その前に大きな桜が一本立っている。興趣に富んだ風景だ。
春の根川緑道
春の根川緑道
春の根川緑道
山中坂下橋からさらに200メートルほど上流側へと辿ると滝下橋だ。この辺りまで来ると、散策を楽しむ人の姿もすっかり少なくなる。滝下橋の袂、左岸側には富士見台第2公園という小公園がある。段丘崖を活かして造られた公園で、河岸には広場が設けられている。その広場の河岸側に大きな桜が並ぶ。対岸なら眺める景観も素晴らしく、広場の中から眺めるのも素晴らしい。

滝下橋から200メートルほど上流側へと進むと、残堀川の屈曲点だ。昭和記念公園の中を流れて、ここまでほぼ南下してきた残堀川が、ここで直角に流路を変え、東向きに流れてゆくことになる。この付近でも河岸には桜並木があり、少し広くなった遊歩道は小公園のような佇まいを見せている。

残堀川の屈曲点のすぐ西側では新奥多摩街道の「富士見町六丁目」交差点から北上してきた「富士見通り」が「富士見高架」で段丘崖を一跨ぎにしている。残堀川河岸から小径を抜けて富士見通り下へと辿り、設けられた階段で富士見高架へ上がると、すぐ北側に奥多摩街道との「富士見町三丁目」交差点がある。そこから「富士見通り」を北へ辿れば1kmほどでJR青梅線西立川駅、その北には昭和記念公園が広がっている。
春の根川緑道
春の根川緑道
立川橋から富士見町三丁目の屈曲点まで、1kmを少し超えるほどの距離だ。のんびりと往復しても1時間かからない。もちろん片道だけでも充分に楽しめる。桜並木の風景は立川橋から馬場坂下橋までの区間が最も見事で、西へ行くほど桜並木が疎らになる印象だが、それぞれに異なる表情の興趣ある桜景色を楽しむことができる。全区間を歩いてみるのがお勧めだが、根川緑道の散策と併せて楽しむのなら馬場坂下橋までを歩いても充分にその魅力を堪能できるだろう。

JR中央線の橋梁が残堀川を跨ぐ辺りでは桜並木と橋梁を通過する中央線の車両を一枚の写真に収めようとカメラを構える人の姿も多かった。鉄道写真趣味の人たちなのだろう。咲き誇る桜並木の向こうを通過する中央線の姿は、確かにフォトジェニックだ。その人たちを真似てカメラのレンズを向けてみたが、慣れていない身では納得のできる写真を撮影することはできなかった。
春の根川緑道
春の根川緑道
根川緑道も残堀川も、素晴らしい桜景色を楽しめるところだ。根川緑道だけでも充分に花見散歩を堪能することができるが、やはり残堀川の桜並木にも足を延ばすのがお勧めだ。それぞれに異なる表情の桜景色が楽しめるのがいい。根川緑道だけでも「桜の名所」と呼ぶに相応しいが、残堀川の桜並木も併せて、その魅力はさらに増すと言っていい。
参考情報
交通
根川緑道へは多摩都市モノレール柴崎体育館駅が至近だ。駅を降りるとすぐ南側に根川緑道が東西に延びている。ちょうどAゾーンとBゾーンとの境に当たるところだ。JRの立川駅から都道149号(多摩都市モノレールの下)を南へ辿っても1kmほど、15分ほど歩けば着く。JR南武線西国立駅から南へ歩けば20分強で根川緑道の東端へ着く。

またJR青梅線西立川駅から南へ辿れば十数分で「富士見町三丁目」交差点、そこから残堀川へ降りれば東へ桜並木が続いている。西立川駅南口からまず東へ向かって何度か交差点を折れながら残堀川の西側を南へ下るとわかりやすい。

根川緑道には来訪者用の駐車場は用意されておらず、車で来訪する場合は立川駅周辺に点在する民間駐車場を利用しなくてはならない。新奥多摩街道などを利用して立川駅南口を目指し、駐車場を探すといいだろう。

飲食
根川緑道には特に東側のゾーンにシートを広げてお花見を楽しむことのできるスペースがあり、お弁当持参でのお花見がお勧めだ。

根川緑道沿いには飲食店などはないが、新奥多摩街道沿いにファミリーレストランなどが点在している。お弁当持参でない人は緑道から新奥多摩街道へ出てお店を探せばいい。もちろん立川駅周辺に移動すればさまざまな飲食店があって選択肢が増える。

周辺
柴崎体育館の北側には立川公園の一部として花菖蒲園が設けられている。小さな花菖蒲園だが、花の見頃の6月に訪ねてみるのもいい。

根川緑道の東端部から青柳崖線に沿って東へ足を延ばし、「ママ下湧水」と呼ばれる湧水や周辺の農風景の景観を楽しむのもお薦めだ。

立川駅の北西側には広大な敷地の国営昭和記念公園が広がっている。多摩都市モノレールで柴崎体育館駅から北立川駅まで移動すれば便利だ。また残堀川桜並木の西端部分近くの「富士見町三丁目」交差点から北へ20分ほど歩けば昭和記念公園の西立川口へ着く。根川緑道から残堀川河岸へと辿り、そのまま昭和記念公園を目指すのも悪くない。
桜散歩
東京多摩散歩