国道220号沿いに並ぶ商店の間を入り込むとわずかな広場があり、広場の奥には一段高くなって小さな白い建物が建っている。日南線の日向北方駅だ。もちろん無人の駅で、駅舎とも言えない小さな待合所の建物には椅子が幾つか設置されているだけだ。待合所を出ると狭いホームが緩やかな曲線を描く線路に沿って延びている。
快晴の夏の朝、次の列車にはまだしばらく時間があり、ホームにも待合所にも広場にも人の姿は無い。ホームの隅で朝顔が咲いている。線路の向こうの道路脇には小さいながらサルスベリが植えられていて紅色の花を咲かせている。道路向こうの民家の庭にフェニックスなどの南国の樹木が植えられているのが、いかにも南九州の駅という感じがする。
日向北方駅は片側使用のホームがあるだけの小さな駅だが、待合所も駅前の広場も整然としていて荒れた印象などはない。地元の人の手で清掃などが行われているのかもしれない。広場の片隅の自転車置き場には数台の自転車が置かれている。日南線の利用客が置いていったものだろうか。ホーム側の壁面には「ようこそ おかえりなさい 串間市へ」の言葉とともに
都井岬の野生馬の写真などが添えられたパネルが架けられ、列車を降りてくる人々を出迎えている。
駅名は「日向北方(ひゅうがきたかた)」だが、この辺りは単に「北方」という名の地区だ。かつての福島町の中心から見て北方にある集落という意味の名だが、「北方」という駅名は他県にもあったために「日向北方」という駅名になったものだろう。駅のすぐ南に福島川と大平川の合流点がある。駅の周辺、すなわち北方地区はこのふたつの川の流域の平野部にあたり、駅近辺には多少商店なども並ぶが、周囲は基本的にのどかな田園の風景が広がっている。駅の北には串間神社があるが、観光地としてはそれほど有名であるわけではないように思える。駅は昭和10年の開業という。