国道220号を辿って
榎原の集落に差し掛かると、国道に面して建つ
榎原神社の大きな鳥居が目にはいる。その鳥居とは国道を挟んで反対側に、民家の間を入ってゆく道がある。道は行き止まりの道で、奥に榎原駅がある。榎原駅は赤い三角屋根が印象的な駅舎で、時折鉄道趣味の書籍などで紹介されることもあるが、今では無人駅となって侘びしげな風情を漂わせている。
三角屋根の下が待合所と改札口で、横に伸びた部分はかつて駅の事務に使われていたところだが、ガランとした室内は少しばかり荒れた様子もうかがえる。駅舎の横手の片隅にはかつて使われていた器具が打ち捨てられたように置かれており、朽ちてゆくままに錆びて草が絡まっている。時代に置き去りにされ、忘れられてゆくような印象が寂しい。
改札口を抜けると、一段下がってホームがある。改札口からホームへは階段とスロープとが繋いでいる。スロープの傍らにサルスベリが咲いている。駅の部分で線路はちょうど切り通しを抜けるような地形で、駅舎と林とに挟まれて沈み込むようにホームが横たわっている。相対式ホームの交換可能駅で、さらに引き込みの線路も一本あるがレールは錆びて夏草に埋もれている。
榎原は山あいの集落で、すこしばかり西に行けば串間市との境へ至る。国道220号と日南線は寄り添うようにして榎原を抜けて日南市と串間市とを繋ぐ。地図を見ると、国道と線路の寄り添う様子と、さらにその両者が日南市側でも串間市側でも川に沿って造られていることがよくわかる。榎原と
日向大束との間は市境の峠越えなのであって、それは太平洋岸と志布志湾岸とを繋ぐ峠越えでもある。
駅の北には
榎原神社があり、地元の人々の信仰を集めている。榎原の駅もかつては神社への参拝客で賑わった時代があったのだろうか。今では神社への参拝客のほとんどが車で訪れ、駅から参道を歩く人の姿を見ることもない。榎原駅と言えば昔は日南線の主要駅のひとつであったような記憶があるが、すでにその面影はない。