南郷駅前で国道220号を離れて国道448号を辿り、のどかな田園風景の広がる中を栄松方面へと向かうと、やがて「南郷プリンスホテル」を示す案内が現れる。十字路となった交差点を左に折れると、尾根を越えた先にホテルが建っている。国道からはホテルの建物はまったく見えず、知らなければ「こんなところにホテルがあるのだろうか」と思ってしまうかもしれない。このあたりは「城浦」という地名があるが、目井津港南側の山上にかつて城があったことに由来するのかもしれない。
目井津から栄松にかけての海岸線は尾根の斜面がそのまま海に落ち込む形となって続き、荒々しい磯辺のところどころに小さな砂浜を抱えている。平地部から尾根によって隔てられているために、ホテルが建つ以前は海岸に訪れるのはなかなか容易ではなく、細い小径を辿って尾根を越えなくてはならなかった。昔、友人たちとこの海岸にやってきたことがあった。林の中へ分け入ってゆく小径の脇に自転車を置き、小径を辿って尾根を越えて浜辺へ降りていった。人の姿の無い浜辺はシークレット・ビーチのような雰囲気があって楽しかったことを憶えている。
今ではホテルへのアプローチの道路が造られ、海岸へも容易に近づくことができるが、海岸に面した部分はホテルの敷地となっていて駐車場もホテルのものしか用意されていない。そのために海岸を訪れる人々もホテル利用者がほとんどで、ホテルの前の浜辺はホテルのプライベート・ビーチのような意味合いになっている。浜辺は海水浴も可能だが、シャワーなどの設備もホテルのものしかない。逆に言えば、ホテル利用者にとっては外来者に邪魔されずにのんびりとしたひとときを過ごすことのできる場所だと言うことができるだろう。