八王子市長沼町〜日野市平山
長沼町から平山へ
Visited in October 2006
秋のよく晴れた日、八王子市長沼町から日野市平山の町にかけて歩いた。長沼町は北野街道の周辺を中心に住宅が建ち並んでいるが、その中に長閑な田園風景を残している。かねてからのんびりと歩いてみたいと思っていたのだ。京王線長沼駅を降り、帰路は平山城址公園駅から電車に乗ろうという予定で、特に北野街道の南側の山裾を辿って歩いてみよう。
水田の広がる中を小径が南へ延びている。小径は小川に沿っている。その小径の風情がとてもいい。車一台がようやく通れるほどの道幅しかなく、道脇は小川と田圃だというのに小径にはガードレールが無い。きっと昔からの道だったのだろう。もちろん舗装はされているが、ガードレールの無い小径の見せる景観がなかなか素敵だ。
道脇の小川の岸辺に石碑のようなものが建っている。よく見ると「観世音」の文字がある。水田を背景にぽつりと建つ様子がいい。小径を進んでゆくと道脇の竹藪からうるさいほどのスズメの声が聞こえてきた。ずいぶんと多くのスズメが集まっているようだ。「雀のお宿」というわけだろうか。
「長沼口」の横手に六社宮という神社がある。境内には大きなイチョウの木があり、秋の黄葉の美しいところだ。六社宮の横を通り抜けてさらに小径を進んでゆくと長沼公園西側の谷戸に入ってゆく。右手には住宅が並んでいるが左手は公園の林が迫り、その下に小川が流れている。小川は公園内の谷戸から流れ出た流れのようだが、たいへんに澄んだせせらぎだ。水の匂いを感じながら流れを覗き込んでいるとアメンボの姿を見つけることができた。
せせらぎに沿ってさらに奧へ進んでゆけば長沼公園の「殿ヶ谷の道」と呼ばれる辺りへと抜け出ることができる。時間と体力が許せば長沼公園を一回りするのもいい。
小径は山裾に沿うように延びる。道脇には昔からの農家らしい佇まいの家々が並んでいる。今は北側に真っ直ぐに北野街道が抜けているが、この小径がきっと古来の道なのだろう。山裾に沿う小径は未舗装の部分もあり、雨上がりだったこともあり、山の北側で日陰になっていることもあってか、少々ぬかるんでいる。未舗装のぬかるんだ小径は少しばかり懐かしい感じがする。
「下谷戸公園」という小公園の横を抜けてさらに進むと、周辺はすっかり住宅街の様相だ。南側の山の斜面にも住宅が並んでいる。道なりに進んでゆくとやがて北野街道へと出た。北野街道のすぐ北側を京王線の線路が走り、その向こうに浅川が迫っているのが家々の間から見える。北野街道の舗道を東へ進む。道脇には数本のイチョウが並んでいるが、まだ黄葉には早い。
南側には木々の茂る斜面が迫っている。誘われるままに道を辿ってみる。尾根の先端部分を回り込むような形で谷戸部に入り込む。木々の茂る斜面は「平山京王緑地」だ。面積は3haほどで、京王電鉄から寄贈されたものという。緑地の中を辿る小径を登ってゆけば尾根の上に達し、尾根の向こう側には都立平山城址公園があるが、今回は立ち寄らずにそろそろ平山城址公園駅を目指そう。
この辺りは平安時代の武将、平山季重(ひらやますえしげ)縁の土地で、現在の平山城址公園駅付近に居館があったという。駅近くの宗印寺には季重の墓があり、平山城址公園入口に近い尾根の上には季重を祀った季重神社が建っている。次の機会にはそれらをゆっくりと見て回ることにしよう。
京王線長沼駅から平山城址公園駅へと歩いたが、八王子市長沼町と日野市平山の町とはやはり浅川近くまで張り出した尾根によって隔てられているという印象があった。その辺りに市境があるのは、やはり昔から土地を分かつところだったからなのだろう。次の機会には平山季重縁の事物を訪ねて平山城址公園駅周辺をもっと丹念に歩いてみたい。