横浜線沿線散歩街角散歩
日野市平山
平山の町
Visited in September 2007
平山の町
日野市平山、京王高尾線平山城址公園駅の南側の一帯は、平安末期から鎌倉初期に源氏に仕えた武将平山季重(ひらやますえしげ)縁の土地として知られている。秋の気配が漂い始めた九月中旬、平山城址公園駅を降り、日野市平山の町を歩いた。
平山城址公園駅前
平山城址公園駅を降りると、駅の南側はロータリーになっている。静かな駅だ。ときおりバスがやってきて幾人かの乗客が乗り降りする。駅前には「七生丘陵散策西コース」や「平山季重の道」といった散策コースの案内板が設けられている。「七生丘陵散策西コース」は平山城址公園駅から南へ向かい、宗印寺や季重神社などの平山季重縁の場所を巡った後に丘陵地を西に辿り、多摩動物公園駅を経て高幡不動へと至る散策ルートで、このうちの多摩動物公園駅までが特に「平山季重の道」とされているようだ。

平山季重という武将は1136年(保延2年)にこの地で生まれた。平山氏は武蔵七党のひとつである西党に属していた一族で、季重の父である直季がこの平山の地に居を構え、平山姓を名乗るようになったという。平山季重の時代は源氏が覇権を握ろうとしていた頃だ。1159年(平治元年)、源義朝が決起、世に言う「平治の乱」で、平山季重も源氏方の武将として参戦したが、負け戦に終わっている。時を経て1180年(治承4年)、伊豆に流されていた源頼朝が遂に決起、平山季重は頼朝に従って活躍、その後には義経に従い、木曽義仲討伐の宇治川の戦いや、さらに屋島の戦い、壇ノ浦の戦いでも名を馳せた。1212年(建暦2年)、73歳で没したという。

平山季重の居館は現在の京王線平山城址公園駅付近にあったらしい。駅前ロータリーは1884年(明治17年)から1967年(昭和42年)まで平山小学校があった場所で(現在の平山小学校は平山二丁目の丘の上に位置している)、それ以前は大平山大福寺という寺の地所だったという。大福寺は1500年代の天正年間に平山氏の末裔が先祖の供養のために建てた寺という。大福寺が廃寺となった後、境内の墓碑などは宗印寺に移されている。駅南側の平山図書館敷地内には平山季重遺跡之碑があるらしいのだが、残念ながら訪れたとき(2007年9月)には平山図書館が複合施設への建て替えの工事中で見ることができなかった。
宗印寺
駅から南へ辿り、北野街道を越えて細道をさらに南へ入り込むと宗印寺がある。宗印寺は豊臣軍の八王子城攻めの際に亡くなった侍大将中山勘解由の子、中村照守が建立した寺で、明治になって大福寺が廃寺となったときに大福寺を併合した。本尊は聖観世音菩薩で、武相四十八観音霊場の第四十四番札所になっている。その際に平山季重の墓も宗印寺に移されており、これは東京都の旧跡に指定されている。また木造平山季重坐像や木造薬師如来坐像(平山薬師)といった日野市の有形文化財も安置されている。
平山城址公園入口
宗印寺の横手から裏手の林の中を登ってゆく小道がある。林の木立からはまだ蝉の声が聞こえている。登りきって林を出ると丘の上に広がる平山二丁目の住宅地だ。ちょうど丘の端に当たるところで、西方へ眺望が開けている。住宅地の端を廻って尾根道へと登り、少し西へ進むと京王線の駅名にもなった都立平山城址公園だ。公園は尾根の南側斜面に広がっており、雑木林を残した自然溢れる公園になっている。公園入口には石垣と白塗りの壁が設けられているが「城址」とは言っても城郭があったわけではなく、かつてこの辺りに平山氏の物見台があったとの言い伝えがあるということから名付けられたものらしい。この辺りでは尾根筋が日野市と八王子市との市境になっており、平山城址公園は実は日野市ではなく八王子市堀之内に位置している。
季重神社
平山城址公園入口から尾根道を少し西へ進むと道の北側に小さな社が建っている。平山季重を祀った季重神社だ。季重神社は日奉神社とも呼ぶそうだが、平山氏が属した武蔵七党のひとつである西党を興したのが日奉宗頼(ひまつりのむねより)であることに由来するのだろう。そもそもは平山氏の居館があったと伝えられる浅川河畔にあった稲荷社をこの地に移し、元からここにあった小さな祠と合祀したものであるらしい。季重神社は近年になって建て替えられ、現在の社は2005年(平成17年)に完成したものという。神社の周囲は平山京王緑地という名の緑地で、鬱蒼と木々が茂っている。
平山の町
季重神社から尾根道を西へ進もう。尾根道からは木々の間から北方へ視界の開けるところもあり、浅川河畔の見事な眺望が楽しめる。蝉の声と爽やかな風に包まれながら尾根道散策を楽しんだ後は小道を辿って平山六丁目の町へ降りてゆこう。斜面に広がる住宅地を抜けて降りてゆくと、昔ながらの佇まいを残す道に出る。道脇にはお地蔵様や馬頭観音が祀られていたりする。細く曲がりくねった道の表情には、新興住宅街の真っ直ぐな道にはない風情があって、ただ歩くだけで楽しい。平山六丁目の町をのんびりと歩き、そろそろ駅に向かって帰路を辿ることにしよう。
季重神社まで行った後は「七生丘陵散策西コース」に従って多摩動物公園駅方面へ向かってもよかったが、今回は平山の町、特に平山六丁目辺りを中心に歩いてみた。京王線の平山城址公園駅を拠点に、平山季重縁の場所を訪ねながら平山城址公園へと至るのはなかなか楽しい散策コースだ。桜の頃や新緑の頃、あるいは秋の紅葉の頃はさらに楽しめるだろう。
平山の町