八王子市山田町〜緑町〜子安町〜北野町
山田川
Visited in October 2018
八王子市の中心部近くを山田川という川が流れている。山田町に源を発し、緑町から子安町へと流れ、北野町で浅川に注ぐ。かねてから山田川に沿って歩いてみたいと思っていた。良いお天気に恵まれた十月の末、ようやく機会を設けて山田川に出かけた。
「めじろ台駅」交差点から300mほどのところの交差点の角に「めじろ台富士見公園」という小公園がある。めじろ台富士見公園に立ち寄っていこう。めじろ台富士見公園は小さな街区公園だ。広場の中に各種の遊具類が設置してある。土曜日のお昼前だったが、公園の中に人の姿はなかった。
富士見橋から西を見ればめじろ台駅の様子がよく見える。めじろ台駅を発着する上り下りの電車が富士見橋の下を幾度となく通り過ぎてゆく。電車ファンならしばらく見ていたくなる風景だろう。この辺りからは「富士見」の名のように西の方角に富士山の姿も見えるはずだが、残念ながら現在では線路脇に建つ建物によって遮られ、富士見橋の上からは見ることができない。
この橋の南東側の袂からの眺望がいい。眼下に京王線の線路がまっすぐに延び、その向こうに山田町の町並みが横たわる。さらにその向こうに八王子駅南口に建つ「サザンスカイタワー八王子」の姿も見える。この風景も、電車好きならずっと見ていたくなる風景なのではないだろうか。
めじろ台東公園も「街区公園」に類別される公園だが、1ha近い面積を有し、街区公園としては大きな公園と言っていい。公園は中央部に運動広場を設け、その周囲に樹林のある広場を設けた構成だ。街区公園としては広い面積を有するのは運動広場が設けてあるからだ。運動広場ではちょうど子どもたちの野球の試合が行われていた。
この交差点から、山田川が始まっている。交差点から東へ、道路の南側に山田川が沿っており、交差点角に「一級河川 やまだがわ 上流端」と記された標識が立っている。もちろん“流れ”としてはさらに上流部に源流域があるはずだが、残念ながらここより上流部は暗渠になっていて辿ってゆくことができない。河川管理としての山田川の上流端は、この場所というわけだ。
山田橋を過ぎると山田川は蛇行しながら住宅地の中を東へ流れてゆく。広園寺の南側辺りでは蛇行する山田川の様子を見ることができるが、その先は川に沿った道はない。十字路へ戻って、そこから山田川の南側を東へ進もう。
道脇には野菜の無人販売所もある。ピーマンや春菊、小松菜、ナスといった野菜が、一袋100円で並んでいた。“無農薬栽培なので一部の野菜に虫がいることがある”そうである。なるほど、虫がいるかもしれないというくらい、新鮮で美味しい野菜なのだ。近所に住んでいれば毎日でも通ってみたい販売所である。
その都道506号が月見橋で山田川を跨ぐ。月見橋とはなかなか風雅な名だ。月見橋の南東側の袂に小さな祠がある。破損したものか、今ではただの石版にしか見えないが、祠に祀られているのはお地蔵様か。花が供えてあり、今でも地元の人たちに大切に守られている様子が窺える。
山田川の南に沿って100mほど道が続いているが、この道もやがて川沿いから離れ、その先は行き止まりになっている。途中、北へ逸れる道がある。北へ向かうと赤根橋(あかねはし)で山田川を渡る。橋の上から見る山田川は深く掘られた大きな溝という様相だ。渡った先は小さな十字路で、山田川の北側を川に沿って道が続いている。その道を辿ってゆこう。
赤根橋から100mほど行ったところで、道は八王子市緑町霊園の中へと入ってゆく。墓所の中を一般道が横切っている形だ。お墓が並ぶ中を進んでゆく。霊園の中央付近には萬福寺という寺が建っている。
丘裾に沿った道を100mほど行くと、右手、南側の住宅地の中へ入り込む道がある。奥へと入り込んでゆくと、100m足らずで山田川の河岸に出た。河岸の道が霊園の中に入った辺りで山田川から離れていたが、これでまた山田川に沿って歩くことができる。
川の風景を眺めながら、ときおりカメラを構えながら歩いていると、近所にお住まいの方らしい高齢の女性に出会った。挨拶を交わし、そのまま世間話に花を咲かせた。「この辺りは自然が残っていていいですね」というと、「そうなんですよ、これからは紅葉の時期で、とってもきれいですよ」とおっしゃっていた。もう10月の末、河岸の木々はそろそろ秋の色に染まり始めている。河岸の木々に季節の移ろいを感じながら日々を送ってらっしゃるのだろう。素敵な暮らしである。
山田川左岸の道はこの先で行き止まりになっているようだ。木之根橋を渡って山田川の右岸側へと移動する。右岸側にも河岸に沿った道はないが、左岸側より山田川に近いルートで下流側へと進むことができる。
ここから丘へ登る坂道を上ってゆくと、右手(東側)に緑町公園がある。緑町公園へ立ち寄ってゆこう。
すでに10月も末、園内の木々もそろそろ秋の色に染まり始めていた。日差しを浴びて輝く黄葉が美しい。
国道16号はたいへんに交通量が多い。さすがは“二桁国道”である。市街地の東側を通る八王子バイパスが無料化されて以来、八王子市中心部を通り抜けてさらに北へ向かう車の通行は減ったが、それでも国道16号の交通量は多い。黄金橋を渡った北側に横断歩道がある。信号が変わるのを待って国道16号を横断する。
黄金橋から山田川に沿ってさらに下流側へと辿ろう。黄金橋から80mほどで万代橋、平成2年(1990年)に完成した橋だという。万代橋を過ぎて山田川は下流側に向かって左手、北方向へと緩やかに曲がっている。万代橋から130mほどで堀川橋、子安公園通りが東西に抜けている。
子安公園通りの北側、山田川の左岸側に子安公園という公園が設けられている。広場を中心に構成された公園だが、ソメイヨシノやベニシダレ、カンザンといった桜が植栽されており、春には美しい景観を楽しむことのできる公園だ。子安公園の横で、山田川は大きく流れが曲がり、ほぼ東へ向かって流れてゆくようになる。
栃ノ木橋上を通るのは、とちのき通りだ。とちのき通りはJR八王子駅南口から真っ直ぐに南へ延び、子安の坂を登って丘の上で国道16号に至っている。それほど交通量は多くないが、八王子市街中心部の主要路だ。
とちのき通りを南へ辿った先、子安の丘の上には八王子医療刑務所があったが、同施設は2018年(平成30年)1月に昭島市へ移転、閉所となった。跡地の利用については八王子市で検討されているようだ。
観音橋を通る道路を北へ辿ると道路沿いに何軒かの商店が建っている。ちょうど10月の末、八王子南口の商店街もハロウィンで賑わっているようだ。仮装した子どもたちの姿も少なくなかった。
藤井人道橋から50mほどで藤井橋だ。この藤井橋、少し特徴的な形をしている。ここはちょうど野猿街道(都道160号)が山田川を跨ぐところで、そこへ子安公園通りの「市立三中」交差点から北上してきた道路が交わる。藤井橋はその双方の道路を通している。台形の形状をした、かなり幅の広い橋なのだ。藤井橋は1987年(昭和62年)2月に完成したものというから、その時にこのような形の橋として架けられたのだろう。藤井人道橋が架けられたのも同じ1987年(昭和62年)2月だ。おそらくこの時期に山田川の護岸工事が行われ、その際に同時に架けられたものと思うが、ますます興味を覚える。
小野路橋から100m近く下流側に架かる橋は西山田川橋、西山田川橋から200mほど辿れば山田川橋がかえで通りを通している。かえで通りは北は国道20号の「明神町」交差点、南は野猿街道と子安公園通りとが交わる、いわゆる“子安の五差路”とを繋ぎ、JRの中央線と横浜線の線路をアンダーパスでくぐってゆく。八王子駅の東側で線路の南北を繋ぐ重要な道路で、常に交通量の多いところだ。山田川橋は1985年(昭和60年)3月の完成、藤井橋や小野路橋より少し早いのは、主要路であるためか。
山田川河岸の道路は山田川と共に横浜線の線路をくぐってさらに続く。左岸側の道路は車両の通行のできない道だ。右岸側の道路は車両の通行可だが、幅員に制限があるようだ。その道を抜けて、さらに下流側に辿ってゆこう。
なぜこのような橋名となったのだろう。どうやら河川改修工事に伴って橋が架けられた際、尽力した事業家の名から「宇」の文字を採って命名されたものらしい。推測だが、おそらくその事業家の屋号が○に宇の字の「まるう」だったのではないか。それにしても“丸囲み文字”をそのまま橋名に使用して、それが採用されてしまうところが驚きである。鷹揚な時代だったのだろう。
そのすぐ北側に線路を渡る踏切がある。「北野9号踏切」である。踏切を渡って線路の東側へ進む。線路の東側には道路が沿っており、中和田橋が線路と並んで山田川を越えている。中和田橋からさらに山田川の河岸を辿ってゆこう。
横浜線の線路をくぐってから500m足らずの区間で、京王線の線路を踏切で渡り、今度は中央線の線路だ。電車好きの人にはお勧めの散策コースと言っていいのではないか。
トンネルのような様相の線路下を抜けて進むと、舗道には樹木が植栽されていたり、植え込みが設けられていたり、潤いのある景観が演出されている。そのお陰で殺風景になりがちな線路下の風景が柔らかな印象になっているように思える。JRの線路をくぐってすぐのところに橋が架かっているが、この橋は使用されていないようだ。さらに小さな橋が2本、山田川と河岸の舗道とを一跨ぎにしている。
それを過ぎてさらに進むと、やがて石田橋、北野公園通りが山田川を斜めに越えてゆく。そのすぐ東側で北野公園通りは八王子バイパスと交差する。「新浅川橋南」交差点だ。交差点のすぐ北側で八王子バイパスは中田橋で山田川を越えてゆく。山田川河岸の舗道は北野公園通りも八王子バイパスもアンダーパスにはなっておらず、「新浅川橋南」交差点の横断歩道を利用しなくては横断することができない。回り道して八王子バイパスの東側へ移動することにしよう。
八王子バイパスから下流側に辿れば百数十メートルで上河原橋だ。この辺り、山田川の右岸にはさまざまな事業所の敷地が並んでいる。上河原橋からも西東京生コンクリート株式会社の設備が見えている。山田川河岸の舗道には木々が植栽され、風景が殺伐とした印象になるのを防いでいる。舗道にはベンチも設置されており、ちょっとした緑道といった佇まいである。
すぐ下流側で浅川を跨ぐのは浅川水管橋だ。構造としてはランガー橋か。白い三連のアーチがなかなか美しい姿だ。
浅川河岸には「多摩川から8.4K」と表記された距離標が設けられている。浅川はこの先、日野市を貫くように流れ多摩川に注ぐ。今回の“山田川散歩”もここが終点である。ここから南へ辿れば京王線の北野駅まで1kmと少しだ。のんびりと北野駅へ向かい、帰路を辿ることにしたい。
今回、かねてから歩いてみたいと思っていた山田川の河岸を、ようやく機会を設けて歩くことができた。山間の渓流を思わせる緑町付近、巨大な溝の様相の下流域と、さまざまな表情を見せてくれて興味深く、さまざまな発見もあり、楽しい散策だった。