岩手県盛岡市鉈屋町には昔ながらの町家の風景が残る。町歩きの楽しいところだ。一角には「もりおか町家物語館」が設けられて観光客を迎えている。夏の暑さの残る九月上旬、盛岡市鉈屋町を訪ねた。
鉈屋町界隈
岩手県盛岡市の市街地の一角、盛岡駅の南東側の北上川河畔に「鉈屋町(なたやちょう)」という町がある。盛岡市公式サイトによれば、“京都の富豪鉈屋長清が当地に来て、釶屋山(しゃおくさん)菩提院という寺を建立したことに由来する”という。菩提院は後に内加賀野に移り、この寺院の前も鉈屋町と称したために二つの鉈屋町が存在したこともあったということだが、1812年(文化9年)に改められ、この地を鉈屋町として城下の一町としたのだそうだ。
鉈屋町界隈
鉈屋町の辺りは良質の湧水に恵まれたために酒、味噌、醤油などの醸造業が盛んで、また北上川の水運を頼ることができたために商人や職人が多く住んでいた地域だった。鉈屋町の通り沿いには今も古い時代を偲ばせる「盛岡町家」が残り、一角には昔ながらの“洗い場”の様子を残す「大慈清水」も残され、風情ある景観を見せる。のんびりと町歩きを楽しむのにいいところだ。
鉈屋町界隈
もりおか町家物語館
鉈屋町のほぼ中央辺り、「もりおか町家物語館」という施設が建っている。2014年(平成26年)に開館した施設で、「懐かしの賑わいに出会う」がコンセプト、地域の案内所や地域文化の情報発信の場などの役割を担っている。
もりおか町家物語館
六つのエリアから構成された敷地内には、母屋、文庫蔵、浜藤の酒蔵、大正蔵の4棟の建物があり、それぞれに役割が与えられている。母屋は総合案内所とお休み処、喫茶スペース、文庫蔵は資料展示室で、二階には絵本コーナーもある。浜藤の酒蔵は舞台機能を持った集会室(ホール)で、市民団体への貸し出しも行われている。大正蔵は「時空(とき)の商店街」と名付けられた展示と販売のスペースだ。
もりおか町家物語館
文庫蔵は昭和前期の建物、浜藤の酒蔵は江戸末期〜明治前期に建てられたもの、大正蔵はその名の通り、大正時代の建物だそうで、それぞれの建物時代も見所の一つとなっている。
もりおか町家物語館
中でも大正蔵の展示品が目を引く。“昔懐かしい盛岡の賑わいや風情を再現した”というフロアには昔懐かしいブリキのおもちゃや琺瑯看板、昔の映画ポスターなどが展示されており、レトロファンには感涙ものの内容だと言っていい。レトロなものの好きな人ならぜひとも訪れてみるべき施設だろう。
もりおか町家物語館
大慈清水
「もりおか町家物語館」から通りを200mほど北西へ(盛岡市中心部方向へ)辿ると、通り沿いに「大慈清水」と言う湧き水がある。湧き水は生活用水として使用するために設備が整備され、使用の際の注意書きなどが設けられている。
大慈清水
湧き水は四段に分けられて溜められ、それぞれに使用用途が決められている。最も上段の「一番井戸」が「飲料水」、その下が「二番井戸」で「米とぎ場」、次は「三番井戸」の「野菜・食器洗い場」、最も下の段の「四番井戸」が「洗濯物すすぎ場」である。
大慈清水
この「大慈清水」は江戸時代には湧水池だったようだ。明治初期、有志によって大慈寺境内の湧水を木管で引き、原型が造られた。1920年(大正9年)に鉈屋町用水組合が設立され、1927年(昭和2年)に大慈清水用水組合に改称、本格的な工事を行って現在の姿になったものという。残念ながら1976年(昭和51年)に湧水が涸れてしまい、現在は井戸に変わっている。「平成の名水百選」のひとつである。
大慈清水
参考情報
交通
鉈屋町は盛岡駅の東南、2〜3km離れたところに位置している。歩けない距離ではないが、バスを利用すると便利だ。「南大通り二丁目」バス停で降りれば近い。

車で訪れる場合、土地勘がないと場所が少しばかりわかりづらいが、「もりおか町家物語館」を目的地にナビ設定するといいだろう。遠方から来訪する場合は東北自動車道盛岡ICから向かえばいい。

「もりおか町家物語館」に無料駐車場が用意されている。

飲食
鉈屋町周辺にはほとんど飲食店がない。鉈屋町から北へ辿って八幡町〜中ノ橋通辺りまで足を延ばせばいろいろな飲食店が建っている。

周辺
鉈屋町の北方、中ノ橋通には「岩手銀行赤レンガ館」や「もりおか啄木・賢治青春館」が建っている。そこから西へ中津川を渡れば盛岡城跡公園だ。散策の足を延ばしてみるのも楽しい。中津川沿いの遊歩道を辿ってみるのもお勧めだ。

北上川に沿うように北西側に向かえば安倍館町に明治期の政治家阿部浩が建てた邸宅が残る。「もりおか町家物語館」から5kmほどの距離だ。

有名な小岩井農場は盛岡市街地の西方に位置し、鉈屋町から20km近い距離がある。車なら30分ほどで着くだろう。
町散歩
岩手散歩