宮崎県宮崎市の中心市街の北方、宮崎神宮の北側に位置して宮崎県総合博物館が建っている。宮崎の自然や歴史、民俗などの資料を総合的に保存、展示する施設だ。八月半ば、宮崎県総合博物館を訪ねた。
宮崎県宮崎市、市街中心部から北に約3km、宮崎神宮の北側に宮崎県総合博物館が建っている。と言うより、20haを超える広大な宮崎神宮の境内地の一角に建っている形だ。“総合”と冠することからもわかるが、宮崎の動植物や地質、歴史、民俗などの資料を総合的に保存、展示している施設だ。さまざまな資料が工夫を凝らして展示されており、興味深く見学してゆくことができる。本館の横には県内の古民家を移設した民家園も設けられており、国指定重要文化財の古民家も残されている。宮崎を訪れた際にはぜひ見学しておきたい施設だ。
宮崎県総合博物館の歴史は、戦後間もなくの1951年(昭和26年)3月、県立博物館の設置が県議会で議決されたことに始まる。それを受けて同年4月には県立博物館が設置され、6月に宮崎神宮の徴古館を借用して開館した。宮崎神宮の境内地内に新たに総合博物館が建てられたのは1971年(昭和46年)のことである。本館横手には1972年(昭和47年)から1978年(昭和53年)にかけて宮崎県内各地から特色ある4軒の古民家を移築し、民家園が設けられた。1973年(昭和48年)には当時の天皇皇后両陛下が、1977年(昭和52年)には当時の皇太子殿下ご夫妻が視察に来られている。
1995年(平成7年)には宮崎神宮南西側に総合文化公園が開園したのに伴い、園内に宮崎県立美術館が開館し、美術部門が移管されている。翌1996年(平成8年)には埋蔵文化財センターも分離されている。1998年(平成10年)、宮崎県総合博物館はリニューアルオープンし、展示面積は以前の約3倍、展示資料も約10倍に拡大された。2001年(平成13年)には開館50周年を迎え、現在に至っている。
宮崎県総合博物館本館は2階建て、2645平方メートルの展示面積に約8000点の資料を展示している。1階にはエントランスホールと自然史展示室が設けられ、2階には歴史展示室と民俗展示室、特別展示室が設けられている。エントランスホールから自然史展示室へ進み、それから2階へと上がって歴史展示室、民俗展示室を順番に見学してゆくのが一応の“順路”だ。
エントランスホールから自然史展示室へと足を踏み入れると、照葉樹林の実物大ジオラマが出迎えてくれる。樹林の中には鹿の姿があったり、樹上に大きな蜂の巣がぶら下がっていたりと、なかなか臨場感のあるジオラマである。
さらに進んでゆくと、「宮崎の水辺」、「宮崎の大地」と展示コーナーが続く。宮崎平野を支える地層といった内容はかなり詳しく説明がなされていて興味が尽きない。特に青島周辺に見られる独特の景観「鬼の洗濯板」については、その成り立ちなども解説されているから、ぜひ見ておきたい(宮崎県総合博物館では「鬼の洗濯板」ではなく「鬼のせんたく岩」と呼称されている)。
地質の展示の先にはさまざまな動物の剥製や化石が展示されている。残念ながら宮崎県では恐竜の化石は発見されていないが、恐竜や翼竜、魚竜、始祖鳥などの全身骨格も展示されていて目を引く。全長11mのティラノサウルスの全身骨格などはなかなかの迫力だ。
2階に上がって歴史展示室に入ると、まず目に飛び込んでくるのが大岩の上から崖下の獲物を狙う古代の人の姿を象った模型だ。手に槍を持って獲物に狙いを定めるのは父親だろう、その横で片膝をついて崖下を覗き込むのは母親、後ろに下がって父親の姿を見守るのは子どもという設定か。父親の槍が狙う先は、実は1階展示室のジオラマ内の鹿という設定だ。なかなか気が利いていて心憎い演出である。
歴史展示室には他にも人形を使って古代の人々の暮らしを再現したジオラマや、各種の土器や埴輪なども展示され、さらに古代から近世にかけての日向国(現在の宮崎県)の文化や風土も紹介されており、興味深く見学してゆくことができる。
民俗展示室は「民俗へのいざない」、「山にくらす」、「里にくらす」、「海にくらす」、「いのりとまつり」といったテーマに沿って展示コーナーが設けられている。これが圧巻の展示である。民俗資料の展示というと、通常は解説を添えた資料が展示スペースに並べられているだけというものも少なくないが、ここでは人形を使って実際にどのように農具や漁具、生活用具が使用されていたのかが再現されている。これによってまさに昔の人々の暮らしのひとこまを覗き見るような感覚で直感的に理解が深まる。展示されている資料群も素晴らしい充実ぶりである。これほど楽しい展示はなかなか他に無い。
民俗展示室内の一角には歴史展示の一部として昭和30年代の文化住宅と広場が再現されている。父と母、娘二人の家族が暮らす宮崎市内の住宅という設定で昭和30年代の文化住宅を再現したものという。室内にはミシンや扇風機なども置かれているが、土間には竈(かまど)があり、風呂は五右衛門風呂である。住宅前の広場には丸形ポストが建ち、その横には紙芝居屋の自転車が置かれている。駄菓子屋の店先を再現したコーナーもある。レトロなものの好きな人にもお勧めの展示だと言っていい。
「いのりとまつり」のコーナーは、何と言っても宮崎の神楽である。荘厳な雰囲気を感じさせる演出の展示で、壁に掛けられた神楽面が幽玄の空気を漂わせている。
本館の奥、東側に敷地を設けて4軒の古民家を移築、展示しているのが民家園である。展示されているのは五ヶ瀬町の「旧藤田家住宅」、高原町の「旧黒木家住宅」、椎葉村の「旧清田家住宅」、西米良村の「旧黒木家住宅」の4棟。このうち五ヶ瀬町の「旧藤田家住宅」と高原町の「旧黒木家住宅」の2棟は国指定重要文化財、椎葉村の「旧清田家住宅」と西米良村の「旧黒木家住宅」の2棟は県指定有形文化財である。
五ヶ瀬町の「旧藤田家住宅」は宮崎県北西部に位置する五ヶ瀬町から移築復元したもので、建てられたのは1787年(天明7年)、県内で確認されたものの内で最古という。“九州山地中央部に残る民家の古い形式を伝える数少ない建物”だそうである。
高原町の「旧黒木家住宅」は高原町にあった郷士(ごうし)の建物を移築復元したもので、宮崎県南西部に分布する分棟型農家の典型だそうである。1834年(天保5年)から2年をかけて建てられたもので、郡奉行の御用宿を勤めたことがわかっているという。
椎葉村の「旧清田家住宅」は椎葉村にあった清田家住宅を移築復元したもので、宮崎県北西部に分布する並列型農家の典型という。建てられたのは1864年(元治元年)だそうである。
西米良村の「旧黒木家住宅」は西米良村にあった黒木家住宅を移築復元したもの。外観や間取りに古い西米良の農家の形が残っているという。言い伝えによれば1821年(文政4年)頃に建てられたものらしい。
古民家に興味のある人なら4棟の古民家を見て回るのは楽しいひとときだろう。各古民家は室内に上がって見学することもできる。それぞれの古民家をじっくりと見学していこう。
民家園ではボランティアの方々が古民家の管理を担っている。茅葺き屋根の保存のために囲炉裏で火を焚いたり、来園者の案内などが主な仕事だという。訪れたときはボランティアの方に案内をお願いしてみるといい。いろいろと楽しいお話を聞かせてもらえる。
宮崎県総合博物館は、言うまでもなく宮崎県の自然や歴史、風土、文化に焦点を定めて数々の資料の展示保存が行われており、宮崎に生まれ育った人にとっては郷土への理解を深めるための素晴らしい博物館だ。宮崎県外の人、例えば観光に訪れた人にとっても興味深く見学していくことができるだろう。また、“宮崎の”という前置きが無くても楽しめるような、普遍的な意味を持つ資料も少なくない。“宮崎の歴史や風土”というだけでなく“日本の歴史や風土”の一部であることを強く実感する。
博物館というと少しばかり堅苦しい印象もあるが、人形を使って昔の道具の使われ方が再現されていたり、ジオラマをうまく使って展示されていたり、さまざまに工夫されていて楽しく見学することができる。宮崎に観光に訪れた人も、宮崎に暮らす人も、ぜひ一度は訪ねてみるべき博物館である。
宮崎県総合博物館の常設展は入館無料だ。特別展などが開催される場合は、その都度観覧料が定められる。併設された民家園も無料で見学できる。その他、開館日や開館時間などの詳細については公式サイト(頁末「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)を参照されたい。
宮崎県総合博物館の最寄り駅はJR日豊本線の「宮崎神宮」駅、駅から徒歩15分ほどで着く。宮崎駅からは3kmほどの距離がある。宮崎駅からバス路線を利用してもいい。
宮崎県総合博物館には来館者用の駐車場があり、150台分ほどの駐車スペースが用意されている。通常は問題無く駐車することができるだろう。
宮崎県総合博物館は宮崎神宮の北側に位置している。市街中心部の「橘通3丁目」交差点から国道10号(江平通り)を1kmと少し北へ進み、神宮参道へと左へ逸れて宮崎神宮を目指し、宮崎神宮の敷地裏手へと回り込めばいい。
遠方から訪れる人は宮ア自動車道宮崎ICから国道220号を北上し、まず宮崎市街中心部を目指すとわかりやすいだろう。
宮崎県総合博物館にはカフェやレストランは併設されていない。周辺にも飲食店は少ない。飲食店は市街中心部に戻って探すのが賢明だ。
宮崎県総合博物館の南側、広大な敷地に鎮座するのは宮崎神宮だ。宮崎県総合博物館からそのまま遊歩道を辿って行ける。ぜひ立ち寄って参拝しておこう。
宮崎神宮の南西側には宮崎県総合文化公園があり、園内には宮崎県立美術館などが建っている。併せて訪ねてみるのもいい。
宮崎県総合博物館の北西側には数百メートル離れて宮崎県立平和台公園がある。宮崎県総合博物館の駐車場から平和台公園の駐車場まで2km足らずだ。はにわ園や古墳などを見学しておきたい。
宮崎県総合博物館から3kmほど南、「橘通3丁目」交差点周辺から南側にかけてが宮崎市の中心部だ。数多くの商業施設が建ち並んで繁華な佇まいを見せる。南北に抜ける国道220号(橘通り)の中央分離帯にはワシントン椰子が植えられ、南国的な雰囲気を漂わせている。町歩きを楽しみながら1kmほど南へ歩けば大淀川河岸に出る。河岸に設けられた橘公園を散策するのもお勧めだ。フェニックスの樹影が宮崎らしい風景を見せてくれる。
宮崎県総合博物館から東へ約6kmで海岸に設けられたみやざき臨海公園に着く。夏は海水浴場として賑わうところで、広場やマリーナも設けられている。南ビーチ前に建つ「The BEACH BURGER HOUSE」も人気で、ぜひ訪ねておきたい。
宮崎県総合博物館
宮崎神宮
橘通界隈
橘公園