東京都青梅市の中心部近く、JR青梅線東青梅駅の北東側の吹上(ふきあげ)地区に「吹上しょうぶ公園」という公園が設けられている。この辺りは青梅市街の北方に広がる霞丘陵の一角で、谷戸地を利用して造られた公園の周囲には緑濃い丘陵地帯が広がっている。そもそも谷戸地を保全する目的で公園が整備されたものという。かつては水田として耕作されていた谷戸地を荒廃や開発から守るために公園として整備されたもののようだ。
吹上しょうぶ公園ではその名が示すように水田の跡地を利用して花菖蒲田の育成が行われており、花菖蒲の名所として広く知られている。250種以上の品種の花菖蒲が緑濃い谷戸に咲き誇る様子はたいへんに美しい。例年、花菖蒲が花期を迎える5月末から6月下旬にかけて「吹上しょうぶまつり」が開催され、大勢の観賞客を迎えて賑わっている。
吹上しょうぶ公園は全体面積2.1ヘクタールという。なかなか広い。“谷戸”であるから両脇には木々の茂った緑の尾根が横たわり、その中に抱かれるようにして水田の跡地を利用した花菖蒲田が設けられている。植えられている花菖蒲は250品種を超えるという。花菖蒲は品種によって開花期も異なるから公園内の花菖蒲がすべて一斉に咲き揃うというわけではないが、それでもその規模は大きく、花菖蒲の咲き誇る谷戸を見渡す景観は見事なものだ。
園内には木道が設けられ、あるいは畦道を利用した散策路が整備され、咲き誇る花菖蒲と緑濃い里山の風景を楽しみながらゆったりと散策を楽しむことができる。園内は谷戸の地形だから周囲を木々の緑に囲まれ、人工的な建造物が視界に入らないのが嬉しい。
花菖蒲は区画を分けて品種別に植えられており、それぞれの品種の名を見ながら観賞してゆくのが楽しい。花菖蒲に詳しくない身では品種はおろか、“江戸系”、“伊勢系”、“肥後系”、“長井古種”などの区別もままならないが、あまり難しく考えずに花の美しさを楽しめばよいのだろう。
区別と言えば、アヤメ、カキツバタ、ハナショウブの三種は花がよく似ていて素人目には区別がつきにくいが、吹上しょうぶ公園内の随所にこの三種の区別の仕方を解説した案内板が立てられていた。興味のある人は見ておくといい。
木道を辿りながらゆっくりと園内を巡って花菖蒲を楽しむのは素敵なひとときだ。各品種毎に一輪一輪の花菖蒲を愛でるのもよく、周囲の景観と共に“花菖蒲の咲く風景”として楽しむのもいい。場所によってさまざまな表情が楽しめて飽きない。美しい構図を探してカメラを構えるのも楽しい。花菖蒲の風情を存分に堪能できる。
吹上しょうぶ公園の入り口前には池がある。この池では睡蓮の花を見ることができる。赤や白の睡蓮の花が緑の葉の上で陽光を浴びる姿がとても美しい。
池の岸辺や駐車場脇の舗道などには紫陽花も植えられており、紫陽花もそろそろ開花を迎えている。それほど数は多くないが、紫陽花も併せて楽しんでおこう。公園(有料区域)内、入口脇には「剣の舞」や「紅」といったヤマアジサイが植えられている。ぜひ見ておこう。
吹上しょうぶ公園の最大の魅力は花菖蒲と緑濃い里山の風景との取り合わせにあると言ってもいい。端正な日本庭園で観賞する花菖蒲も良いものだが、このような里山風景の中に咲く花菖蒲にもとても良い風情がある。花菖蒲の美しさとともに谷戸の空気感を楽しみながらの散策がお勧めだ。花菖蒲の好きな人、花の好きな人ならぜひ訪れたい名所と言っていい。