東京都青梅市の中心市街は“昭和レトロ”な町として人気だ。さらに「昭和の猫町」と謳い、あちこちに猫のオブジェが置かれている。秋も深まった十一月中旬、「昭和の猫町」を訪ねた。
青梅/昭和の猫町
JR青梅線青梅駅の南側、住江町から本町、仲町にかけての辺りが青梅市の中心市街だ。町には細い路地があったり、旧青梅街道沿いには古い建物らしい店舗が建っていたり、“昭和レトロ”を感じさせる町として人気だ。さらに「昭和の猫町」と謳い、町のあちこちに猫のオブジェや猫をテーマに描いたパロディ看板などが置かれ、散策の目を楽しませてくれる。町歩きの好きな人にはお勧めの町である。
青梅/昭和の猫町
青梅市の中心市街はかつて手描き映画看板が飾られた町として人気を集めていた。映画看板絵師の久保板観氏の協力によって、さまざまな昔懐かしい手描きの映画看板が町を彩っていたのだ。しかし2018年(平成30年)に久保板観氏が亡くなられて継続が困難になり、町に飾られていたほとんどの映画看板が撤去されて今は無い。現在、町のところどころで目にする映画看板風のパネルは往時の名残だろう。
青梅/昭和の猫町
映画看板が町を飾っていた頃から、青梅市の中心市街は“昭和レトロ”を町の魅力として推し(一説には“昭和レトロ”という言葉・概念そのものが青梅発祥であるとも言う)、さらに「昭和の猫町」を謳ってあちこちに猫のオブジェなどを置いて魅力創出に努めてきた。映画看板がなくなって以後、町の猫オブジェは増えているようだ。町を挙げての「昭和の猫町」である。
青梅/昭和の猫町
猫のオブジェは青梅市中心市街のあちこちで目にすることができるが、まず訪ねておきたいのはやはり「にゃにゃまがり」である。細い路地が何度も折れ曲がって続いている。要するに「七曲がり」なのだが、何しろ“猫町”なので「にゃにゃまがり」である。
青梅/昭和の猫町
「にゃにゃまがり」は青梅駅から数十メートル南へ下ったところを西へ入り込んだところに“入口”がある。「昭和の猫町 にゃにゃまがり」と記した看板が設けられているから、すぐにわかる。そこから民家と民家の間を道とも呼べないような細い路地が奥へと続いている。この路地の狭さ、迷路のように入り組んだ様子だけでも街歩きの好きな人にはたまらないものだろう。
青梅/昭和の猫町
その路地横の民家の壁などに、さまざまな猫のオブジェが飾られている。猫の形の板のオブジェや招き猫の置物、猫を描いた絵画など、さまざまなものがあるが、おそらく同じものがずっと置かれているのではなく、ときどき別のものに変えられているものもあるのだろう。訪ねるたびに違っているのであれば、それも楽しい。
青梅/昭和の猫町
「にゃにゃまがり」は地元の人にとっては単なる路地で、人によっては近道としての役割もあるのだろう。ときおり地元の人(らしい人)が通り抜けていく。「にゃにゃまがり」を西へ通り抜けると、やがて旧青梅街道と図書館とを繋ぐ道に抜け出る。“入口”から200mほど、路地歩きの好きな人には何とも楽しい200mである。
青梅/昭和の猫町
路地歩きの好きな人には本町の伊勢屋とうふ店前の路地もお勧めだ。青梅駅前から仲通を東へ進み、永山公園通りの手前で南へ入り込んでいくと、伊勢屋とうふ店前から旧青梅街道へと抜ける路地がある。家々に挟まれて延びる細い路地で、距離は短いが興趣に富んでいて楽しい。
青梅/昭和の猫町
この路地脇の壁面を利用して猫のパロディ看板が飾られている。「時計仕掛けのオレンジ」や「ゴーストバスターズ」、「ジョーズ」など往年の名作映画のポスターを題材にしたものは、かつて「映画看板の町」だったことの名残だろうか。
青梅/昭和の猫町
伊勢屋とうふ店の佇まいも素敵だ。1912年(大正元年)の創業だそうだ。昔から実直な商いを続けて地元に愛されてきた店らしい佇まいだ。
青梅/昭和の猫町
永山公園通りを北へ、すなわち旧青梅街道から永山公園へ向かって進み、青梅線の線路を越えた右側に「夏への扉」という店名のカフェがある。店の建物は昭和初期に歯科医院として使われていたものという。店の外観も店内の様子もレトロな風情で素敵だ。「夏への扉」とは素敵な店名だが、店主がSF好きで、ロバート・A・ハインラインが1957年に発表した名作「夏への扉(The Door into Summer)」が由来だという。
青梅/昭和の猫町
「夏への扉」の看板にも猫があしらわれているが、これはおそらく「昭和の猫町」とは直接の関連はない。ハインラインの著作「夏への扉」にはピートという名の猫が重要な役割で登場する。店の看板等にあしらわれている猫は、このピートだろう。期せずして「昭和の猫町」のコンセプトに合致してしまったということに違いない。
青梅/昭和の猫町
「夏への扉」は基本的にカフェだが、カレーやサンドイッチなどの軽食も可能だ。特にカレーは人気のようだ。カレーはチキンカレーと野菜カレーの二種がある。どちらもスパイシーで美味しい。
青梅/昭和の猫町
店内からは窓下に青梅線の線路が見える。食事やお茶を楽しみながら青梅線を眺めるのも楽しい。「夏への扉」を目的に青梅を訪れる人もあるようで、すっかり“青梅の名店”のひとつになってしまったようだ。
青梅/昭和の猫町
旧青梅街道沿い、住吉神社参道入口脇に「住吉神社前」バス停がある。バス停には木造の小屋風の待合所があり、「おうめ猫町一丁目」と書かれたプレートが取り付けられ、内部の壁面にも店舗や商品の広告を模したパロディー広告が貼られている。なかなか楽しく、これも青梅を訪れた際にはぜひ見ておきたい。
青梅/昭和の猫町
青梅/昭和の猫町
青梅の町を歩いているとあちこちで猫をあしらった看板などを見つけることができる。気の向くままに足を運んで、そうした猫のオブジェや看板などを見つけるのも楽しい。こうした演出に面白みを感じる人なら、存分に楽しむことのできる青梅散歩である。
青梅/昭和の猫町
青梅/昭和の猫町
旧青梅街道沿いを中心に青梅の町には古そうな店構えで商いを続ける店舗が数多く残っている。まさに“昭和レトロ”の町である。「昭和の猫町」のさまざまな演出に作為的なもの感じて魅力的に思えない人でも、昔ながらの風情を残す町並みの景観には心惹かれるのではないだろうか。町歩きの好きな人ならぜひ訪ねておきたい青梅の町である。
青梅/昭和の猫町
青梅/昭和の猫町
参考情報
本欄の内容は青梅市街関連ページ共通です
交通
電車で来訪する場合はJR青梅線青梅駅を利用するのがいい。駅から歩いてすぐだ。駅舎そのものも“昭和レトロ”な意匠だから電車で訪れるのも楽しい。

車での来訪なら駅周辺に民間の駐車場が点在しているからそれらを利用するといい。

飲食
青梅駅周辺にさまざまな飲食店が点在している。それらのひとつを選んで食事や一休みのひとときを楽しむといい。

周辺
青梅駅周辺にはたいへんに見所が多い。駅前から青梅街道を西へ辿ると道脇には旧稲葉家住宅などが建ち、古い宿場町の雰囲気を堪能できる。また“青梅”の地名の由来となった梅の木があるという金剛寺など、寺社も多い。

駅前から南へ降りてゆくとすぐに多摩川で、河畔には青梅市立美術館が建つ。大きく蛇行する多摩川に囲まれた対岸は「釜の淵公園」で、春は桜、夏は川遊びなどで賑わう。公園の一角には郷土博物館も建っている。

青梅駅北側は丘陵地で、ハイキングコースも整備されているようだ。東方へ少し離れるが東青梅駅北方には花菖蒲が有名な「吹上しょうぶ公園」やツツジの名所として知られる「塩船観音寺」などがある。それぞれの花の季節なら足を延ばしてみるのもお勧めだ。
町散歩
東京多摩散歩