東京都あきる野市留原(ととはら)地区の南部に小峰公園という都立公園が設けられている。秋川の南に横たわる秋川丘陵の中に位置しており、都立秋川丘陵自然公園の中心とも言える公園で、「小峰ふれあい自然郷」の名でも知られている。小峰公園は留原地区の共有の草刈場として使われていた山林を公園として整備したものだそうで、1990年(平成2年)に開園、11haほどの面積を有している。公園は三つの尾根と二つの谷戸から構成され、昔ながらの里山風景を楽しんだり、尾根道のハイキングを楽しんだり、豊かな自然を存分に楽しむことができる。
初めて小峰公園を訪ねたなら、まずは「小峰ビジターセンター」に立ち寄っておきたい。「展示ホール」内では地域の自然についてのさまざまな資料が展示されている。季節毎の情報発信やハイキングコースの案内なども行っている。小峰公園散策に出発する前に立ち寄って予備知識を得て、公園のリーフレットなどももらっておこう。
「小峰ビジターセンター」から西側へ進んで行くと、尾根と尾根に挟まれた谷戸に「ふれあい広場」と名付けられた広場が設けられている。谷戸の地形だからあまり開放感はないが、緑に包まれて落ち着いた空気感がいい。広場脇には民家風の休憩舎も設けられており、のんびりとピクニック気分で楽しむのに好適なところだと言っていい。
「ふれあい広場」の南側、谷戸の奥まったところは湿地で、谷戸田も残されており、湿地の動植物を観察することができる。谷戸田は稲作を体験するプログラムなどに使用されるようだ。体験プログラムに興味のある人は問い合わせてみるといい。
谷戸の最も奥まったところは「ひのき広場」だ。その名が示すようにヒノキの林だ。大きく育ったヒノキが頭上を覆い、木漏れ日の落ちる広場はひっそりとしている。ちょっとした森林浴気分だ。園路の脇には沢が流れ、いかにも谷戸の奥という佇まいだ。小峰公園を訪れた際には、ぜひ「ひのき広場」まで足を運んでみよう。
「ふれあい広場」の東側は小峰公園の中央部を貫く尾根だ。「桜尾根」と名付けられており、ソメイヨシノやヤマザクラの大木が並んでいる。1928年(昭和3年)に地元の人たちによって桜の苗木が植樹され、桜山と呼ばれて親しまれてきたところだという。今でも桜の名所として知られているが、四月の末になればもちろん桜の花は終わっており、ところどころでヤマツツジが緑濃い風景に色彩を添えている。
「桜尾根」を辿る尾根道はかつては五日市から八王子へ通じる往還で、旧留原村への出入口に当たっていた。尾根道脇には庚申塔などが祀られており、人々の往来があったことを物語っている。こうした庚申塔には魔除けの意味もあった。魔物が村に入ってこないようにと祀ったのである。要するに疫病などの災いが自分たちの村に入ってこないようにとの願いである。
「桜尾根」を南へ辿ると、緩やかに坂を上り、次第に高所へ向かっていき、小峰公園南端部を東西に延びる尾根道に至る。あきる野市と八王子市との市境の尾根である。この尾根に「展望広場」が設けられている。「展望広場」は標高290mほど、北へ眺望が開け、五日市の町や奥多摩の山々を眺めることができる。四阿も設けられているから、眺めを楽しみつつの一休みにもいい。
公園南端部の尾根を西へ辿っていけば「里山尾根」が北へ延び、東へ辿っていけば「ほおじろ尾根」が「桜尾根」東側の「冒険広場」へと降りている。尾根筋を辿ってのハイキングも楽しい。園内のすべての尾根道を歩いても、それほどの時間はかからない。慣れていない人にもお勧めのハイキングコースだ。
「桜尾根」の東側にも小さな谷戸がある。谷戸には「冒険広場」と名付けられた広場があり、子どもたちのための遊具類が設置されている。遊具は“ターザンロープ”や滑り台、幼児用のスプリング遊具など、一般的なものだが、何しろ緑に包まれた谷戸の立地が住宅地の中の公園とは違うところだ。
「冒険広場」の北側には秋川街道(都道32号)に面して「けやき広場」が設けられている。その名から一目瞭然だが、数多くのケヤキが立ち並んだ広場だ。新緑が色濃くなっていく季節、初夏の青空を背景にしたケヤキの緑がたいへんに美しい。
「桜尾根」の北端部、「小峰ビジターセンター」の裏手に八坂神社が鎮座している。創立の年代は不詳だという。江戸時代以前には牛頭天王社で、留原村の総鎮守として信仰されていた。明治以降、八坂大神、稲荷明神、第六天神社を合祀している。現在の社殿は1950年(昭和25年)に新築されたものという。社殿は素朴な印象を受けるが、村の鎮守として人々の信仰を受けてきた神社としての風格を漂わせている。
八坂神社の境内地から北へ眺望が開けており、木立の向こうに留原地区の風景を見下ろしている。長閑で美しい風景だ。この眺めも楽しんでおこう。
神社の境内地は当然のことながら公園の一部ではないはずだが、公園を成す丘陵の一部として一体化している印象だ。ぜひ立ち寄って参拝しておきたい。
小峰公園は昔ながらの里山風景と、鬱蒼と木々の茂る丘陵が魅力的な公園だ。春の桜や新緑、秋の紅葉など、四季折々に楽しめる。お弁当を持ってピクニック感覚で訪れても楽しめるし、気軽なハイキングを楽しむにもお勧めだ。
小峰公園は「多摩の里山見本園」をコンセプトにして、里地・里山の管理を実践しているという。「小峰ビジターセンター」ではさまざまな体験プログラムを実施し、地域の文化や自然に対する学びの場を提供している。興味のある人は参加してみるのも楽しいだろう。