東京都あきる野市、武蔵五日市駅前から都道33号上野原あきる野線が西へ延びている。このうち、駅前付近から「小中野」交差点までの、五日市の町中を抜ける約2kmの区間、都道33号は百日紅の並木だ。夏になれば白い百日紅や濃いピンクの百日紅が沿道を彩り、素晴らしい景観を見せてくれる。百日紅の好きな人ならぜひ訪ねてみるべきところだと言っていい。暑さの厳しい時期だが、百日紅の花を楽しみながらの散策が楽しい。見事な夏景色が楽しめる。
武蔵五日市駅を南へ出ると大きな丁字路の交差点がある。「武蔵五日市駅前」交差点だ。交差点から西へ都道33号上野原あきる野線が延び、東側へ都道7号杉並あきる野線が、北東側へは都道31号青梅あきる野線が延びている。この辺りから、西へ2kmほど、「小中野」交差点まで、都道33号上野原あきる野線は百日紅の並木だ。
百日紅の並木は、駅前から都道31号を400mほど東へ辿った辺り、五日市線の線路が都道31号を跨ぐ辺りから始まっている。線路脇で見上げれば夏空を背景に橋梁のアーチと百日紅とが興趣のある景観を見せる。ぜひこの風景も見ておきたい。
「武蔵五日市駅前」交差点から都道33号を西へ向かえば、すぐに八王子から延びてきた都道32号八王子五日市線(秋川街道)の上を越えていく。秋川街道は都道33号の下をくぐり、北側でUターンして「東町」交差点で都道33号に繋がっている。橋の上では視界が開け、爽快な眺望が楽しめる。そこに百日紅が夏の色を添える。美しい夏景色だ。
「武蔵五日市駅前」交差点から300mほどで「東町」交差点だ。都道33号に都道32号(秋川街道)が繋がる。「東町」交差点から西、都道33号は「檜原街道」と呼ばれる。檜原街道はここから西へ延び、檜原村の中心部を抜けて奥多摩周遊道路へと辿る。奥多摩周遊道路の檜原村側料金所跡が檜原街道の終点である。
「東町」交差点から西へ150mほど行った辺り、街道の南側に「五日市ひろば」という広場が設けられている。半月形の敷地に広場を設けたもので、2000平方メートルほどの面積だが、トイレが設置されているので休憩などに利用できる。この「五日市ひろば」にも百日紅が植えられている。広場の西側外縁部に真っ直ぐに並ぶ百日紅がなかなか美しい。
「五日市ひろば」の入り口脇に「五日市の石神様」が祀られている。横手に簡単な解説を記した案内パネルが設けられている。それによれば、五日市の市の始まりは定かではないということだが、中世末期の文書に「五日市」の文字が見られるという。石神様は自然石をそのまま用いたもので、かつては市の中心に祀られていた。都道の拡幅の際に阿伎留神社の境内に移されていたが、「五日市ひろば」整備の際に現在地に移されたものという。
「東町」交差点から西へ、檜原街道沿いは市街地だ。かつての五日市町の中心市街だったところだ(五日市町は1995年(平成7年)に秋川市と合併、あきる野市が発足した)。街道沿いにはさまざまな店舗も建ち並び、いかにも地域の中心地という佇まいだ。その中を抜けていく檜原街道を、百日紅の並木が夏色に彩っている。
五日市の市街地を抜ける檜原街道は緩やかなカーヴを描いている。そのカーヴによって百日紅の並木も優美な弧を描き、遠景と近景とが美しい景観を織りなす。望遠系のレンズを使えば圧縮効果によって印象的な写真を撮影することができるだろう。
歴史の古い町だけあって、五日市の市街地には古そうな建物も残っている。“昭和レトロ”を感じさせる店舗などもあって、町歩きそのものも楽しい。その町の風情と百日紅並木が相乗効果で生み出す興趣を楽しみたい。
五日市の百日紅並木は紅い花、白い花、ピンクの花の百日紅が取り混ぜて植えられている。歩道を歩きながら視線を上げればそれぞれの色の百日紅の花が重なり合うように視界に収まる。その光景もたいへんに美しい。
百日紅の咲く風景を楽しみながら檜原街道を西へ辿り、やがて真っ直ぐに伸びる街道が緩やかに下り坂に向かうと、「小中野」交差点が近い。「小中野」交差点で道は二股に分かれている。檜原街道の本道から左手に逸れているのは旧道だ。百日紅並木は「小中野」交差点で終わる。
「小中野」交差点の南西側歩道から東を見ると、真っ直ぐに伸びる檜原街道をほぼ正面から見ることができる。緩やかな坂を伴った檜原街道に沿って百日紅が並ぶ風景が美しい。五日市の百日紅並木の撮影ポイントのひとつと言っていい。
武蔵五日市駅前から「小中野」交差点まで歩いた後は、往路とは反対側の歩道を歩いて帰路を辿るのもお勧めだ。往路とはまだ違った表情の百日紅並木が楽しめる。夏の暑い盛りだから、体力に余裕がなければ帰路はバスを使ってもいい。「小中野」交差点から400mほど武蔵五日市駅方面に戻ったところに「西小中野」バス停がある。
武蔵五日市駅から900mほど西、「上町」交差点のすぐ西側に「洋食キッチン シオン」という洋食店がある。1976年(昭和51年)創業の店で、五日市で初めての洋食店だったそうだ。これまでも何度か利用したことがあったが、今回も遅いランチに立ち寄った。
「洋食キッチン シオン」のメニューはいかにも“町の洋食屋”的な、奇をてらったところのない、シンプルなものだ。それがいい。今回はハンバーグとカニクリームコロッケのセットのランチを注文した。古くから地元で愛されている店らしい、安心できる美味しさである。
百日紅の並木というものは特に珍しいものではなく全国各地にあるが、その中でも五日市の百日紅並木は散策の楽しい並木のひとつと言っていい。歴史の古い町を抜ける道であり、町散歩としても楽しい。視線を上げれば周囲には緑の山々が横たわり、その景観も美しい。お勧めの百日紅並木である。