東京都昭島市の北東部、住宅街の中を「中神引込線通り」という通りが南北に抜けている。かつての立川基地引込線の線路跡を道路として転用したものだ。穏やかな天候に恵まれた十一月上旬、中神引込線通りを訪ねた。
中神引込線通り
東京都昭島市の北東部、国営昭和記念公園の西側に広がる住宅街の中を、「中神引込線通り」という名の道路が南北に抜けている。この道路はかつて青梅線中神駅から立川基地内に敷設されていた引込線の廃線跡である。

今は静かな住宅街の中を抜ける生活道路という様相だが、地図を見ればそのルートに線路跡であることを推測することができる。通りの途中には引込線跡を示すモニュメントも設置され、往時の面影を探すことができる。
中神引込線通り
この引込線が敷設されたのは1943年(昭和18年)のことだと言われている。1940年(昭和15年)に設置された航空工廠への資材運搬用路線として青梅線(当時は青梅電気鉄道)中神駅から引き込まれた路線だった。航空工廠は当時陸軍唯一の飛行機製造部門として設置されたもので、現在の国営昭和記念公園や国際法務センター周辺の広大な敷地を有していた。引込線には特に路線名などはなかったようだが、工廠線などと呼ばれていたという。
中神引込線通り
1945年(昭和20年)に太平洋戦争が終結すると、立川飛行場と航空工廠一帯は米軍に接収されて立川基地となった。引込線も米軍専用線として使用され、航空燃料や重油などの運輸に用いられた。その立川基地が全面返還されたのは1977年(昭和52年)のことで、その翌年に引込線も廃線となっている。全面返還に先立つ1969年(昭和44年)には基地機能が横田飛行場に移転されたのに伴い、立川基地の飛行場としての運用が停止され、引込線の運用も終了していたという。
中神引込線通り
引込線跡はその後もしばらくはそのまま残されていたようだ。1990年代の終わり頃までは住宅街の中に線路の跡がそのまま残されていたらしい。その廃線跡も1999年度(平成11年度)に昭島市によって整備が行われ、引込線跡が道路へ転用されたというわけだ。それが現在の「中神引込線通り」だ。通りを辿って丹念に見ていけば、かつて線路だった名残を見つけることもできる。
中神引込線通り
JR青梅線の東中神駅と中神駅との中間辺り、昭和郷踏切という踏切がある。この踏切横から北へ延びる道路が「中神引込線通り」だ。通りの周辺は住宅街で、戸建ての住宅が建ち並ぶ中に関東財務局昭島住宅の敷地も広がっている。
中神引込線通り
「昭島公務員住宅前」交差点を過ぎると、通りはほぼ真っ直ぐに北北東の方角へ延びていく。通りは片側一車線で、両脇に歩道が設けられている。ほとんど車は通らない。200mほど西側には交通量の多い「多摩大橋通り」が南北に抜けているはずだが、車の音は届かない。静かなものだ。車道と歩道の間に百日紅の並木が施されている。夏になれば美しい花を咲かせてくれることだろう。
中神引込線通り
線路際から600mほど行ったところに交差点がある。それほど大きな交差点ではないが、東西に抜ける道路をときどき車が行き過ぎる。交差点の先、中神引込線通りに平行して別の道路が並んでいる。ちょっと不思議な風景だが、向かって右側(東側)がかつての引込線の線路跡を転用した道路で、左手(西側)はその線路に平行して通っていた、元からあった道路だ。かつてここを線路が通っていたことを実感する風景だ。
中神引込線通り
線路跡を転用した道路の方が「中神引込線通り」だ。車両の通行も可能なようだが、車が通り抜けることはほとんどないようだ。この二本の道路が併走する区間は100mと少し、ほんの短い区間だ。北へ行くに従って、西側に併走する道路は広い歩道のような様相になって、やがて終わる。その先は線路跡を転用した「中神引込線通り」が住宅街の中を延びていく。
中神引込線通り
さきほどの交差点から300mほど辿ったところで、道路が二股に分かれる。かつて引込線もここで分岐していた。左(西)へ分岐した線路は大きく北へ回り込んで、航空工廠(立川基地)の最北端部から内部に引き込まれていた。そのまま真っ直ぐに延びていく方は、そのやや南側で内部に引き込まれていた。
中神引込線通り
線路の分岐点跡に、「立川基地引込線跡」である旨を示すモニュメントが設置されている。分岐点横の歩道にスペースを設け、ポイント部分の転轍機とレールが置かれている。その傍らには「立川基地引込線跡」の概略を記した案内板も設置されているから、予備知識無しで訪れても楽しめるだろう。
中神引込線通り
左手(西側)に逸れる道路をまず辿ってみよう。分岐点跡から200mほどは真っ直ぐに進み、それから大きく緩やかに右手(東側)に向かって曲がっていく。かつて鉄道の線路が通っていたことをうかがわせる曲線だ。
中神引込線通り
緩やかな弧を描く線路跡の道路を辿っていくと、やがて交差点に出る。東中神駅のやや西側から北に延びてきた「富士見通り」の北端部だ。かつては富士見通りの先が立川基地だった。今は交差点の角には病院が建っている。その向こうに昭島市立の「むさしの公園」という公園があり、その園内にもかつての引込線の跡が残されている。
中神引込線通り
富士見通りを200mほど南に下った辺りに交差点がある。中神引込線通りの分岐跡から左に逸れずに真っ直ぐに辿った道路が、ここで富士見通りに出てくるのだ。南側の引込線はここから立川基地に引き込まれていたわけだ。
中神引込線通り
立川基地引込線跡は鉄道ファン、特に廃線跡を訪ねるのが好きな人にはよく知られたところだ。廃線跡にフォーカスを当てての散策なら、中神引込線通りから昭島市立むさしの公園へと訪ねるのがお勧めだろう。廃線跡を転用した道路が住宅街の中を抜けていく風景には他に無い興趣があり、町歩きの好きな人も楽しめる。関東財務局昭島住宅の建物の姿もなかなか魅力的で、団地好きの人にもお勧めだ。花の好きな人なら夏の百日紅並木を訪ねてみたい。地味だが、いろいろと楽しい中神引込線通りである。
中神引込線通り
中神引込線通り
中神引込線通り
参考情報
交通
鉄道で訪れる場合は、JR青梅線中神駅や東中神駅が近い。中神駅からは線路の北側の道を東進、東中神駅からは西進し、昭和郷踏切から北へ進んでいけば中神引込線通りだ。双方とも駅から昭和郷踏切まで500m足らずだ。

車で訪れる場合は駅周辺に点在するコインパーキングを利用すればいい。

遠方から車で訪れる場合は中央自動車道八王子ICが近い

飲食
中神駅や東中神駅の周辺に飲食店が点在している。北口側より南口側に多いようだ。

周辺
廃線跡に興味のある人なら富士見通りを東側に渡って昭島市立むさしの公園へも足を延ばそう。

当然のことながら昭和記念公園も遠くない。東中神駅から公園の昭島口ゲートまで数百メートルの距離だ。時間と体力に余裕があれば訪ねてみるといい。
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