飫肥の町からさらに国道222号を西へ進むと、山間の
酒谷地区へと達する。国道に沿うように酒谷川が流れている。やがて酒谷小学校の傍らを過ぎてしばらくすると眼前にダムが現れる。「日南ダム」という。全国的な水準から言えば特筆するほど巨大なダムというわけではないのだが、のどかな山間の風景の中に突然現れるコンクリートの構造物の姿はやはり独特の存在感を放っている。ダムを見ながら国道を進んでカーヴを曲がると、左手に堤体の上側へと至る道路がある。ダムの横手に管理事務所があり、その敷地内には小さいものだが資料室も設けられ、日南ダムに関する資料を展示している。
日南ダムは1979年(昭和54年)に着工、1985年(昭和60年)3月に竣工している。着工前の調査段階も含めると総工期は17年に及び、総経費は115億円という。「重力式コンクリートダム」と呼ばれる構造のダムで、底面を広くとった堤体自体の重量によって水の圧力を支えている。日南ダムは「治水ダム」で、大雨時に下流域を洪水の被害から防ぐ目的で造られたものだ。日南ダムを紹介するパンフレットによれば、日南ダム完成以前、昭和36年の台風による氾濫ではその被害は床上浸水300戸、床下浸水1700戸以上に及んだという。日南ダムの水量調整は「自然調節式」というもので、水位調節ゲートなどは設けられていないという。パンフレットにはわかりやすい例として穴の空いたバケツを示し、水量が増えても出てゆく水は一定の少量に保たれる旨の説明がなされている。
ダムの堤上は車の通行も可能で、渡ってゆくと山の斜面に沿った細道がうねうねと奧へと辿っている。ところどころに駐車スペースもあり、車を停めてダム湖の姿を眺めるのもいい。緑濃い山々に抱かれるように満々と水を湛える湖の姿はやはり美しい。細道を辿っていった先の駐車スペースに車を停め、傍らの舗道を降りてゆくと公園のように設えられた湖畔に出ることができる。湖畔から眺める湖面が緑の山々と青い空と白い雲を映す様子はのどかで美しいが、あまり訪れる人の姿もないように思える。
日南ダムはダム湖の佇まいが美しいとは言っても、「観光名所」としてお勧めできるような場所とは言えない。日南ダムを過ぎてさらに上流部へと進むと「道の駅」酒谷をはじめ、
小布瀬の滝や
坂元棚田などの、近年「名所」として知られるようになった場所も近い。それらを訪ねた際に時間が許せば、この日南ダムに立ち寄ってみてもよいかもしれない。