日南市の市街地から国道222号を西進して
酒谷地区に入り、やがて
日南ダムを過ぎると道は山肌に沿って登ってゆく。「道の駅」酒谷を過ぎると道は緩やかに下り、再び川に沿うのだが、その左手の河川敷に河川プールがあるのに気づく。夏であれば地元の子どもたちのはしゃぐ声が聞こえるかもしれない。そこから少し行くと「酒谷キャンプ場」を示す案内がある。案内に従って細い斜路を下ると酒谷キャンプ場だ。
酒谷キャンプ場はなかなか設備が充実しており、四棟のバンガローの他、敷地内には体育館やプールの他、会議室や研修室、体育館を含んだコミュニティセンターも併設している。もちろん用具類の持ち込みも可能だが、テントの他に鍋やまな板といった調理用具や毛布などの貸し出しも行っている。利用を考えている人は詳細を訊ねてみるとよいだろう。
酒谷キャンプ場の敷地は、以前「上酒谷小学校」のあったところで、廃校になった跡地をキャンプ場として整備活用しているものだ。そのため敷地内にはかつて学校があった名残がさまざまに残っている。駐車場横の原っぱはおそらく校庭の跡だろう。その川側の脇には校旗の掲揚台らしいものも残っている。敷地の片隅に、上酒谷小学校の沿革を刻んだ石碑がある。それによれば学校の歴史は1882年(明治15年)にまで遡る。以後さまざまに変遷を重ね、戦後の1947年(昭和22年)に「上酒谷小学校」の名となり、1955年(昭和30年)に現在地に校舎を新築して移転したという。1956年(昭和31年)には酒谷村は日南市に合併され、日南市立上酒谷小学校となった。やがて1979年(昭和54年)4月1日、児童数の減少などといった背景があったのだろうか、上酒谷小学校は酒谷小学校に併合、廃校となってその歴史を終えている。明治42年度以降の卒業生は2263名を数えるそうである。ここに学校が在った頃のことを思いながら歩いていると、涼やかな風の中にもかつてこの学校に通った子どもたちの声が聞こえてくるような気がしてくる。そんなふうに散策を楽しむのもいい。
酒谷キャンプ場は河畔の立地で、すぐ横を酒谷川が流れている。川は自然のままの姿で水も澄んでいる。キャンプ場脇はうまく流れが緩やかになって天然のプールのような様相となっており、夏は川遊びの場所となって子どもたちの歓声が響く。この川遊びの目的で酒谷キャンプ場を訪れる地元の家族連れも少なくない。川に入って遊ぶ子どもたちを、親たちは河岸の木陰で見守っている。のんびりと穏やかな夏休みのひとときだ。
キャンプ場脇から河岸を下流側に少し歩くと、河川敷を利用して造られた河川プールがある。国道から見える河川プールだ。車で訪れた場合には国道から測道へ逸れてプールの横手までそのまま入ってくることができる。このプールは酒谷川の水を引き込んだもので、言い換えれば強引に支流を造ってそこをプールにしたようなものだ。曲線で構成されたプールの形は「プール」というより「池」というのが相応しいかもしれない。人工的なものではあるが穏やかな形状の印象が緑溢れる周囲の景観に似合っている。利用するには少しばかりの料金が必要だが、シャワーも完備しており、ここを利用する家族連れも多い。管理員も常駐し、小さな子どもたちを遊ばせるときには目も届き、安心感があるのだろう。
酒谷キャンプ場は河畔の立地と緑濃い山々に囲まれた静かな印象が魅力的なところだ。キャンプ場は一年を通して利用できるが、夏であれば河川プールや川遊びの目的で訪れても充分に楽しい。酒谷キャンプ場から少し上流側へ行くと「
小布瀬の滝」があり、キャンプ場脇の吊り橋を渡って対岸の遊歩道を辿って行くこともできる。「小布瀬の滝」の近くには「大谷石橋」と呼ばれる明治期の石橋も残っており、
酒谷地区の中でも見所の多いところだ。キャンプ目的でなくても、ひととき河畔の散策を楽しむために訪れても充分に魅力のあるところだと言えるだろう。