横浜市中区根岸台〜簑沢
根岸森林公園
Visited in May 2008
横浜市中区の南西部、根岸台の丘の上に根岸森林公園が横たわっている。公園はなだらかな起伏を伴った芝生広場を木々が取り囲み、緑濃く穏やかな佇まいが魅力だ。観光地性格はそれほど強くないが、日本初の洋式競馬場の跡地を利用して整備された公園としても知られ、競馬場時代の名残を感じさせる馬見所の遺構も残されている。園内の一角には「根岸競馬記念公苑」も併設されており、それらを訪ねる観光客も少なくない。約18haほどの面積を有する公園は規模の点でも大きく、横浜を代表する公園のひとつとして愛されている。
根岸森林公園の本園部分はほぼ楕円形の形状で根岸台の丘に横たわっている。その形状はかつて馬場だったことを物語るものか。この公園は日本で初の洋式競馬が行われた場所だ。1867年(慶応3年)のことだという。外国人クラブの主催で始まった競馬は1880年(明治13年)に日本競馬クラブの運営に引き継がれ、以後1943年(昭和18年)に日本海軍に接収されて閉鎖されるまで、日本の洋式競馬の発展を担って大いに賑わったという。戦後は米軍に接収され、ゴルフ場などに使用されていたが、1969年(昭和44年)に一部を除いて接収解除され、跡地を横浜市が公園として整備、1977年(昭和52年)10月、根岸森林公園として開園している。
公園中央部にはなだらかな起伏を伴って芝生広場が広がっている。その広場を樹林が取り囲み、その緑濃い佇まいは「森林公園」という名に恥じないものだ。芝生広場は広々として開放感があり、景観としてもとても美しい。ゆったりと波打つような起伏は、かえってその広さを際だたせ、単調になりがちな景観に表情を与えてくれる。この芝生広場とその周囲の樹林を望む景観は、まさに根岸森林公園の魅力と性格を象徴するものと言っていい。初夏の根岸森林公園は新緑も美しく、多くの人たちが訪れて賑わう。平日のお昼時は遠足で訪れた子どもたちでいっぱいだ。芝生広場の北端部分には小さな池がある。周囲からは少し低くなって落ち着いた佇まいだ。池は修景目的のもので、水遊びができないのは子どもたちにとって少し残念なところか。
芝生広場の北端から西へ道路を渡ると簑沢の町に位置する区画がある。米軍の根岸住宅が間にあるために公園の本園部分とは分離された形だ。この区画は円形の広場や草はらのスロープ、遊具類を置いた広場などから成り、遠足で訪れた子どもたちが遊んでいる。円形の広場は眺望が良く、北方にはランドマークタワーなどのみなとみらい地区の高層ビル群が間近に見える。公園の本園部分は周囲に木立が茂っているために眺望はあまり良いとは言えないから、この区画からの眺望はなかなか魅力的だ。
この簑沢側の区画には根岸森林公園がかつて競馬場だった頃の遺構として一等馬見所の建物が残されている。競馬場だった頃には下見所、二等馬見所もあったらしいが、それらは取り壊され、こうして一等馬見所だけが残されたものという。この建物はJ.H.モーガンの設計によるものだ。J.H.モーガンは米国ニューヨーク州生まれの建築家で、1920年(大正9年)に来日、特に横浜では多くの作品を手がけている。横浜山手に残る
ベーリックホールや
山手111番館もモーガンの設計によるものだ。
この一等馬見所の建物は利用方法を検討中であるとのことでフェンスで囲まれており立ち入りはできないが(2008年5月現在)、建物の外観は間近に見ることができる。真下には広場スペースが設けられてかつての競馬場についての解説などが設置されている。真下から見上げる一等馬見所の建物はなかなか大きく、堂々としている。壁には蔦が絡まり、時の流れを封じ込めたような、いかにも遺構という佇まいだが、見る者を圧倒するような威厳を保っている。当然のことながら競馬場を見るための建物だったわけだから、こちらから見る建物はその裏側に当たる。正面からの姿や、できれば内部なども見学してみたいものだ。
公園本園部分の北東側の端には根岸競馬記念公苑が併設されており、「馬の博物館」や「ポニーセンター」などの施設が設けられている。公苑内は庭園風に設えられ、木々に包まれてひっそりとしている。季節の花なども楽しめるから特に馬に興味の無い人でも散策を楽しめるだろう。訪れた時にはサツキやバラ、シャクナゲ、カルミアといった花を見ることができた。昔、馬を繋ぐために用いられたという「馬繋石(うまつなぎいし)」など、苑内には馬に関するさまざまなものが展示されており、そうしたものを見て歩くのも楽しい。馬に興味のある人なら、迷わず「馬の博物館」も見学してゆこう。
根岸競馬記念公苑の奥まったところには「ポニーセンター」がある。その名が示すようにポニーやミニチュアホースなどさまざまな品種の馬を飼育し、それらの馬の様子を間近に見ることができる。訪れた時にもポニーをすぐ近くで見ることができた。柵の向こうに首を伸ばして草を食べる姿がなかなか可愛い。横手の馬場では白い馬が寝ころんでいる。係の人の話によれば、かつては有名な競走馬だったという。もう20歳になるそうだ。競走馬を引退した後、ここでのんびりと余生を送っているのだろう。「ポニーセンター」では乗馬体験など、馬とのイベントが随時開催されているようだから、興味のある人は予定を調べて訪ねてみるといい。
根岸森林公園は木々の茂る緑濃い様相と開放感のある芝生広場が何よりの魅力だ。陽気の良い季節であればお弁当を持ってピクニック気分で楽しめるだろう。遊具類は簑沢側の区画に少しあるだけで特筆するほど充実しているわけではないが、起伏を伴った芝生広場が子どもたちにとっては何よりの遊び場だろう。また梅や桜の名所としても知られ、それらの季節には多くの花見客を集める。初めて訪れる人ならやはり一等馬見所の建物も見ておきたい。動物好きの人や子ども連れなら根岸競馬記念公苑に立ち寄るのもお薦めだ。規模も大きく、横浜を代表する公園のひとつではあるが、観光地的な喧噪とは無縁で、静かで穏やかな表情の公園だ。
公園東側の道路沿いに二ヶ所の有料駐車場が設けられており、合計で200台ほどが駐車可能だ。駐車場近くに売店があり、ドリンク類などを販売している。園内にはレストランなどはなく、公園周辺にもほとんどない。家族連れなどでのんびりと訪れる時にはお弁当持参がいい。