横浜線沿線散歩公園探訪
多摩市連光寺
桜ヶ丘公園
Visited in April 2024
桜ヶ丘公園
多摩市連光寺五丁目のほとんどを占めるように広大な雑木林を抱える公園がある。都立の桜ヶ丘公園だ。南西側に接する多摩ニュータウンの聖ヶ丘の街から見ると、整然と造成されたニュータウンの向こうに昔ながらの多摩丘陵がそのままに残っているように緑濃い丘が横たわっている。その名の通り桜の名所として有名な公園だが、多摩丘陵の自然の保全という目的も持っており、園内のほとんどはかつての里山の自然を彷彿とさせる雑木林が占めている。雑木林の中を散策路が辿り、野鳥の声を聞きながらの木立の中の散策は心和むものだ。
桜ヶ丘公園 都立桜ヶ丘公園は1984年(昭和54年)に開園した公園で、2022年(令和4年)4月現在で34haほどの面積を有する広大な公園だ。公園はほぼ西側が低く、東側が高い。公園西端部は谷戸の地形で、南北に延びる低地に園路が辿り、園路脇にはせせらぎが流れている。園路脇にはスロープを伴った草地の広場も設けられ、その西側は聖ヶ丘の街だ。

西側低地部分のほぼ中央部には公園西中央口が設けられ、その南側には聖ヶ丘口、さらにその南には公園管理所口が設けられ、聖ヶ丘の街へと開かれている。南端部には公園サービスセンターも置かれており、管理所付近から西中央口の辺りまでが桜ヶ丘公園のメインエントランスと考えてよさそうだ。

桜ヶ丘公園 西側の低地部分は東側には丘陵が横たわり、西側には聖ヶ丘の街が広がる立地だ。低地であるために開放感は乏しいが、木々の緑に包まれて穏やかな空気感に満たされている。公園西側には道路が沿っているが、交通量は多くはなく、公園内もいたって静かだ。

低地部分には園路に沿うようにスロープを伴った草地の広場が設けられ、ベンチやパーゴラなども設置されている。のんびりと散策を楽しんだり、シートを広げて“青空ランチ”を楽しむにも好適なところだ。

桜ヶ丘公園 西側低地部分を辿る園路を北へ辿っていくと、やがて多摩市立の大谷戸公園に至る。園路を歩いて行けばいつの間にか大谷戸公園に入っているという印象で、両公園の間に明確な境はない。よく知らなければ大谷戸公園も桜ヶ丘公園の一部だと思ってしまうかもしれない。

大谷戸公園は広場を中心にした公園だが、キャンプ練習場を併設しており、アウトドア好きの人たちに親しまれている。広場横には大型の複合遊具も設置されているから、家族連れにも人気の公園だ。
桜ヶ丘公園 公園南端部の公園サービスセンター脇から「お花見坂」という園路が東側の丘へと登っている。その名の通り、園路脇には桜が数多く植えられており、春には美しい景観が楽しめる。「お花見坂」は「あじさいの道」や「ひぐらし坂」へと繋がり、そのまま登っていくと丘の上に出る。

この辺りは連光寺五丁目の南東端で、多摩市立の連光寺公園が設けられている。連光寺公園は広場やテニスコートなどを有する公園だが、面積の多くを雑木林が占めている。公園の敷地はフェンスで囲まれているが、桜ヶ丘公園との出入りは可能だ。
桜ヶ丘公園 公園のほぼ中央部、西側の公園西中央口付近から東の丘へ登る園路が設けられている。小さな谷戸筋に設けられた園路は舗装されていて広い。東へ登っていけばやがて東端部に設けられた記念館口へ至る。記念館口という名は、そこから丘の上を西に入り込んだところに旧多摩聖蹟記念館が設けられているからだ。

西側低地部分のサービスセンター付近から公園西中央口付近、そして東へ丘を登って旧多摩聖蹟記念館の辺りまでが桜ヶ丘公園の中心部分だ。記念館口の近くには来園者用駐車場も設けられているから、車で来園する人にとっては記念館口周辺が公園のメインエントランスだと言っていい。

桜ヶ丘公園 記念館口から丘の上の園路を西へ200mほど入り込んだところに旧多摩聖蹟記念館がある。かつて1880年代、明治天皇が兎狩りなどの目的で四回ほど多摩連光寺を訪れており、園内にもその際の「明治天皇御野立所」の碑が残っている。「聖蹟」とはこうした天皇の行幸の地を指し、この記念館は1930年(昭和5年)に明治天皇の顕彰を目的に「多摩聖蹟記念館」として田中光顕によって建てられたものだ。

田中光顕は1843年(天保3年)土佐に生まれた維新の志士のひとりで、幕末には薩長同盟実現に尽力、明治新政府のもとでは警視総監や貴族院議員などの要職を歴任、1898年(明治31年)からの12年ほどの間は宮内大臣を務めた。田中光顕は多摩聖蹟記念館の他、佐川町立青山文庫などを創立(「青山」は田中光顕の号である)し、文化的事業の功労でも知られている。

記念館は財団法人多摩聖蹟記念会が管理運営していたが、やがて建物は老朽化し、一時は取り壊しも検討されたという。昭和初期の建築物として評価の高かった記念館は取り壊しを惜しむ声も多く、多摩市が1986年(昭和61年)に有形文化財に指定し、改修を経て管理運営を引き継ぐことになった。以来、記念館はその文化財としての建物の保存と公園来訪者のための憩いの場に目的を変え、「旧多摩聖蹟記念館」と、「旧」の文字を付加して呼ばれることになった。だから都立公園の中だが、旧多摩聖蹟記念館は多摩市の管理下にある。

旧多摩聖蹟記念館のホール中央には渡辺長男作の明治天皇騎馬像が置かれ、その周囲に田中光顕が収集したという幕末の志士たちの遺墨などが展示されている。記念館の収蔵資料は松下村塾関連、薩長同盟関連、明治新政府関連など200点余りに及ぶという。この他、園内をはじめとした多摩市内で見られる植物の写真なども展示、「多摩市植物友の会」の協力の下に自然観察会なども実施しており、公園の自然に触れるための拠点としても記念館は機能している。記念館の概要、収蔵資料の詳細、ギャラリーとしての利用方法や企画展示の案内など、記念館のパンフレットや「雑木林」という名の会報に詳しい。
桜ヶ丘公園 旧多摩聖蹟記念館の建つ辺りは桜ヶ丘公園内では最も高所の丘の上で、この丘は「大松山」というらしい。旧多摩聖蹟記念館の傍らには「丘の上広場」と名付けられた広場があり、ベンチや四阿などが置かれている。

「丘の上広場」周辺は春の桜秋の紅葉の名所で、それらの見頃の季節には訪れる人で大いに賑わう。新緑に染まる季節も味わいがあって、のんびりと風に吹かれて野鳥の声を聞きながら一休みするのもいい。

桜ヶ丘公園 「丘の上広場」の周辺には「ちょうの道」や「あざみの道」、「どんぐりの道」、「うぐいすの道」などとと名付けられた園路が雑木林の中を縫うように辿っている。それらの園路は未舗装の小径で、“山道”と言ってもいいような様相だ。

林の中の小径を辿れば存分に雑木林散策の醍醐味を味わうことができる。「ちょうの道」の途中には「兎平」と名付けられた広場がある。「兎平」とは昔からの地名なのかもしれない。「兎平」にはベンチが設けられている。ベンチに腰を下ろしてしばらく時を過ごすのもお勧めだ。

桜ヶ丘公園 「丘の上広場」から「ちょうの道」を辿って北側の低地に降りていけば、「とんぼの広場」と名付けられた広場に抜け出る。広場は湿地を抱え、周囲を木立に囲まれてひっそりとしている。北側は連光寺三丁目の町が広がっているが静かな住宅地といった印象で喧噪感はまったく感じない。

湿地の水は沢を成して流れ出ているが、流れていく先は大谷戸公園の「大谷戸の池」である。「とんぼの広場」は大谷戸公園のすぐ東側に位置しており、西側の木立を抜ければ行き来することができる。
桜ヶ丘公園 記念館口の北、「記念館通り」という名の道路に沿うように、桜ヶ丘公園の区域が北へ延びている。公園の中心部分とは国立研究開発法人森林総合研究所多摩試験地の敷地によって隔てられているために、分園であるかのような印象もある。

記念館口に近い辺りの一角には「遊びの広場」と名付けられた広場があり、その名の通り、大型の複合遊具をはじめ、各種の遊具が設置されている。特に小さな子どものいるファミリーには魅力的なところだろう。

桜ヶ丘公園 「遊びの広場」からさらに北へ辿れば「ゆうひの丘」と名付けられた場所がある。「ゆうひの丘」の周辺は北へ降りる斜面の地形を活かして造られている。北側斜面は木々が取り払われて草地のスロープになっているため、北に視界が開け、眺望を楽しむことができる。

「ゆうひの丘」に立てば眼下に連光寺三丁目の町を見下ろし、その向こうには京王線聖蹟桜ヶ丘駅周辺の街並みから多摩川河畔の街並みも見える。さらに向こうに見えるのは府中市西部の街並みだろうか。素晴らしい眺望だ。風に吹かれて眺望を楽しんでいると時の経つのを忘れる。この眺望を目的に桜ヶ丘公園を訪ねても後悔しないだろう。

桜ヶ丘公園 「ゆうひの丘」から降りた北側には「わき水の広場」と名付けられた低地がある。住宅地の中にぽっかりと緑地が残ったという様相で、周囲を住宅に囲まれている。川崎街道が近いが、広場の中は意外にひっそりとした印象だ。広場はその名が示すように湧き水による湿地を抱え、こうした環境を好む植物が繁茂している。

「ゆうひの丘」の西側、記念館通りを挟んで田んぼが残されたところがある。この田んぼも桜ヶ丘公園の区域内のようだ。今では周辺はすっかり住宅地だが、昔はこうした長閑な風景が広がっていたのだろう。田んぼを眺めながら昔日の風景に思いを馳せるのも楽しい。
桜ヶ丘公園
緑豊かな桜ヶ丘公園は雑木林散策の楽しみを存分に味わうことのできる公園だ。特に大松山を巡る散策路がいい。公園西中央口から大松山の南側を登る「おもいでの道」などはお薦めと言っていいだろう。腰を下ろしてのんびりとくつろぐときなどには、西側の谷戸部分の芝生の広場も穏やかな雰囲気に包まれていて良い場所だ。主要な園路は舗装されているからベビーカーや車椅子の利用にも特に不便を感じることはないだろう。

園内には飲食店や売店などはない。のんびりと訪れるならお弁当持参がお勧めだ。来園者駐車場も用意されているから車での来園にも便利だが、駐車台数はそれほど多くなく、行楽シーズンには混雑する。駐車場の場所や利用時間、その他詳細については東京都公園協会のサイト(頁末「関連する外部ウェブサイト」欄のリンク先)を参照されたい。
桜ヶ丘公園
桜ヶ丘公園
桜ヶ丘公園
桜ヶ丘公園
桜ヶ丘公園
桜ヶ丘公園
桜ヶ丘公園