八王子市長房町
武蔵野陵
Visited in November 1998
甲州街道のイチョウ並木が黄金色に染まる季節、八王子市長房町の武蔵野陵墓地を訪ねてみた。かつては「多摩御陵」と呼ばれていたが、昭和天皇陵が造営されて後は「武蔵野陵墓地」というのが正式な名称のようだ。それでも交差点の名称や交番の名称などに今でも「多摩御陵」の名は残り、地元の人々は親しみを込めて「多摩御陵」と呼ぶ。
高くそびえるキタヤマスギの並木は壮大ささえ感じるほどだ。このキタヤマスギは大正天皇陵造営の際に高尾から移植されたものであるという。ゆっくりと歩いていると、ときおり林の中から鳥の声が聞こえてくる。まれに風に乗って遠くで車の走る音が聞こえてくることもあるが、辺りは静寂そのもの。玉砂利を踏む足音が妙に大きく聞こえる。
やがて参道の奥、緩やかな丘陵に抱かれて三つの陵が現れる。参道を真っ直ぐに進んだところに大正天皇の「多摩陵」、貞明皇后の「多摩東陵」がある。そこへ進むわずかに手前、右手に参道が別れてその奥に昭和天皇陵の「武蔵野陵」がある。
大鳥居と石段のさらに向こうに上円下方の陵の姿を拝することができる。「武蔵野陵」は造営から10年ほどしか経っていないが、すでに古(いにしえ)の時の流れの中にとけ込んでしまっているかのようだ。陵そのものの大きさ、その前に広く取られた空間など、荘厳さを感じさせて訪れる者にその威容を見せる。静寂と安息という言葉の相応しい、厳かな場所である。
参道はキタヤマスギの並木だがその奥は林になっており、モミジの樹もあるようだった。訪れた日にはまだきれいに染まった紅葉を見ることはできなかったが、総門から入ってすぐ右手の池のあたりなどはすでに秋の色だった。紅葉が目当てなのか、三脚とカメラを携えた人の姿も少なくない。林の中のモミジが赤く染まる頃、杉の木立の隙間から差し込む木漏れ日に浮かび上がる紅葉は素晴らしいものであろうと思われた。