「多賀神社」という神社は伊弉諾尊(いさなぎのみこと)と伊弉冉尊(いざなみのみこと、八王子の多賀神社では「伊弉冊尊」の字で書かれている)の二柱の神を祀る神社で、滋賀県犬上郡多賀町の多賀大社を総本社としている。「多賀神社」という名の神社は全国に数多く存在するが、八王子の多賀神社もそのうちのひとつだ。御由緒によれば、938年(天慶元年)に武蔵介を任ぜられた源経基が国土豊穣などを願って滋賀の多賀大社から分祀、勧請したものというから、すでに千年以上の歴史を持つ古社である。
多賀神社は八王子市元本郷町四丁目の住宅街の中に位置している。八王子市役所前の道路を300メートルほど南へ辿ると、西側の住宅街の奥に多賀神社の鳥居が見える。八王子の町は1945年(昭和20年)8月2日未明の「八王子空襲」によって市街地の大半が焼失したが、多賀神社境内と周辺は戦火を免れたという。戦前にはここから1kmほど東に離れた市立第二小学校の裏手に一の鳥居が建っていたそうだが、これは戦災により倒壊してしまっている。現在の社殿は1937年(昭和12年)に改築再建されたものという。
神社は南浅川の流れを背負って東に向いて建っている。神社の周囲は住宅街で、その住宅街に溶け込むように境内地がある。戦災を免れた古社らしく、境内には樹齢400年ともいう御神木のイチョウをはじめ、数々の大木が葉を茂らせているが、あまり鬱蒼として感じはなく、開放感のある境内だ。周囲から隔絶した感じがないのはそのせいかもしれない。かつて織物業が盛んだった八王子の神社らしく、境内には機守(はたもり)神社も建っており、織物業に従事する人々の信仰が篤かったという。
例大祭は毎年八月第一週の金曜日、土曜日、日曜日に執り行われるが、これは「八王子まつり」の開催日に敢えて合わせたものなのだろう。例大祭では神社の大御輿の渡御が行われるが、多賀神社の大御輿は「千貫みこし」と通称され、「千貫」の名が示すように約4トンの重量があるという。この「千貫みこし」が大勢の担ぎ手によって甲州街道を往く様子はまさに圧巻、八幡八雲神社の御輿渡御とともに「八王子まつり」の見所のひとつとなっている。「千貫みこし」は1882年(明治15年)に浅草で造られたものだそうだ。
初詣や七五三などの行事の際には多くの参拝客が訪れるそうだが、普段の多賀神社は境内にほとんど人の姿もなく、地元の人がときおり参拝に訪れる程度だ。人の姿のない神社でゆっくりと時間をかけて参拝するのもなかなか良いものだ。
多賀神社はJR中央線西八王子駅から徒歩で15分ほどだ。八王子市役所方面へ向かえばわかりやすい。千人町の町並みを散策しつつ訪れるのがお勧めだ。多賀神社のすぐ西側には南浅川が流れている。参拝のついでに河岸の散策を楽しむのも悪くない。