相模原市中央区水郷田名
初秋の水郷田名
Visited in October 2010
水郷田名の堤防道、桜並木は高田橋の袂から上流側へと続いているが、彼岸花の咲くのは高田橋から少し上流側へ行った、ちょうど相模川の堰のある辺りだ。高田橋から堤防道を上流側へと辿ってゆくと、河川敷に設けられた広場と堤防道との間のスロープにぽつりぽつりと彼岸花の姿が見つかる。“群生”しているというには少し物足りないが、端正に整備された河岸のスロープに咲く彼岸花はなかなか美しい。堤防道から見下ろすのもよく、下に降りて緑濃い桜並木と初秋の青空を背景に見上げる景色もいい。河岸の開放感もあって、素敵な景観が楽しめる。
さらに上流側へと辿ってゆくと、堤防道が未舗装の小径になる。分岐した舗道が河川敷の方にも辿っているのだが、彼岸花の咲いているのは未舗装の小径の方だ。この辺りもまだ桜並木が続いているが、その並木の根方に彼岸花の咲く姿がある。初めは少ししか咲いていなかったが、上流側へと進むにつれて数が多くなった。緑濃い風景の中に彼岸花の赤が映えて美しい景観を見せてくれる。回りをよく見てみると、すでに花期の終わった彼岸花もあるようだ。今咲いているのは遅咲きの株なのだろう。
桜並木が終わると相模川の流れが近くなる。その先にはもう彼岸花は咲いていないようだが、もう少し先まで歩いてみよう。河岸に数人、人の姿がある。見ると皆、それぞれに三脚を立てて川の方を見ている。三脚に据えられているのはカメラや双眼鏡などだ。野鳥観察の趣味の人たちなのだろう。さらに歩いて行くと、河岸の道は上り坂となった。やがて河岸側に視界の開けた場所を通りかかった。道の河側にはコンクリート製の背の低い“ガードレール”があるだけで、その向こうは崖になって相模川の流れに落ちている。けっこうな高みだ。際に立つと拠り所がなく、脚がすくむ思いがする。川を覗き込んでうっかりバランスを崩すとたいへんなことになりそうだ。
このままこの道を進むと水郷田名から離れていってしまう。この辺りで引き返すことにしよう。河岸の道を少し戻り、水郷田名の住宅地の中の道へ進もう。水郷田名一丁目の町の中を辿ってゆく。道脇や民家の入口横などにも彼岸花の咲く姿がある。時節柄、キンモクセイの咲く姿もあり、香しい匂いが漂ってくる。歩いていると、住宅地の中に残る田圃に出会った。田圃では稲穂が黄金に色づいて刈り取りを待っている。今ではすっかり住宅地に姿を変えてしまったが、かつては相模川の河岸に広がる水田地帯だった。住宅地の中に残る小さな田圃は、昔の名残なのだろう。
住宅地の中の道を辿ってゆくと
田名八幡宮の横に出た。田名八幡宮は798年(延暦17年)に天地大明神を勧請したのが始まりという古社だ。11月の七五三を控えて、「祝 七五三参り」と書かれた幟が立てられている。お参りしてゆこうと社殿を前にして、社殿が新しいことに気付いた。建て替えたのだろうか。社殿の横手に「田名八幡宮神殿落成記念碑」が「田名八幡宮建設委員会」の名で建てられている。「平成21年9月吉日」と日付があるから、その頃に新社殿が落成したのだろう。どうやら以前の社殿が老朽化したための建て替えだったようで、神殿、社務所、宮司住宅を建設したとのことだ。その経緯が「田名八幡宮神殿落成記念碑」に記されている。この建て替えも、やがて田名八幡宮の歴史のひとこまとなってゆくのだろう。
田名八幡宮を後して、新堀用水の岸辺に設けられた木道を辿ってゆこう。木道脇にもところどころで彼岸花が咲いている。数は少ないが白い彼岸花の姿もあった。新堀用水に沿って歩いて行くと、やがて相模川の河岸、高田橋の袂に出る。
相模川の河岸をもう少し歩いてみよう。相模川では鮎釣りの人の姿がある。鮎漁期も10月半ばで終了のはずで、最後の鮎釣りを楽しんでおられるのだろう。その様子をしばらく眺めて、今回の初秋の水郷田名散歩も終わることにしよう。
水郷田名は“彼岸花の名所”とは言い難いが、のどかな風景の中に彼岸花や金木犀が咲き、稲穂の実る田圃の風景があり、今期最後の鮎釣りを楽しむ人の姿があり、初秋の風情を充分に楽しむことのできた散策だった。田名八幡宮が建て替えられたことは知らなかったので、新しい社殿にお参りできたのは良かった。