長野県松本市の中心市街には数多くの湧水がある。松本城周辺の丸の内の町にもいくつかの湧水が点在しており、それらを巡る散策も楽しい。夏の暑さの残る九月上旬、松本市丸の内の町を訪ねた。
長野県松本市の中心市街は湧水の町である。市街地のあちこちに湧水があり、それらは「まつもと城下町湧水群」として環境省が2008年(平成20年)6月に選定した「平成の名水百選」にも名を連ねている。松本市は多くの観光名所があるが、市街地に点在する湧水を巡る散策も楽しいものだ。湧水のすべてを巡ってみるのは時間的にも体力的にも簡単ではないが、一部だけを巡ってみるだけでも充分に“松本の湧水巡り”を楽しむことができる。
松本城とその北側から東側にかけて「丸の内」の町が広がっている。「丸の内」の名が意味するようにかつては松本城の城郭内だったところで、現在は松本市役所など官公庁が集まる地区である。松本城の外に出ればあまり観光客も姿も無く、静かな景観の街並みである。この「丸の内」にもいくつかの湧水が点在している。それらの湧水を辿りながらの“丸の内散歩”もなかなか楽しい。
松本城の北側に松本神社が鎮座している。その松本神社脇の「松本神社前」交差点に面した角に、「松本神社前井戸」がある。松本市の「水めぐりの井戸整備事業」によって2009年度(平成21年度)に整備されたものだ。端正な印象で整備が施されており、松本神社や周辺の街並みの景観にうまく調和している。湧水は弱アルカリ性の軟水だそうである。
「松本神社前井戸」から通りを200mほど東へ辿ると、松本城の二の丸裏御門橋の近くから細道が北へ抜けている。細道に入り込むと、途中に「葵の井戸」がある。「葵」は「葵の馬場」が由来らしい。1600年代の初め、戸田氏が馬場の土手に葵を植えたことから「葵の馬場」と呼ばれたという。「葵の井戸」には金属製のカップが備えられているが、残念ながら水は飲料には適さないようである。
「葵の井戸」から北へ抜け出て丁字路を東へ折れて少し進むと、道の南側に「北馬場柳の井戸」がある。この辺りは騎馬修練が行われていたところで、かつては「北馬場町」と呼ばれていた。松本城総堀が埋め立てられた後、そこに自噴していた井戸を北馬場の人たちが整備して井戸にしたものという。傍らに大きな柳があることから、この名がある。
「北馬場柳の井戸」から東へ150mほど辿ったところにあるのが「北門大井戸」だ。「北門大井戸」も松本城総堀の埋め立て地に湧き出た井戸である。この辺りにかつて松本城の北門馬出があったことから、「北門大井戸」と呼ばれているものだ。井戸は脇の道路から一段下がった場所にあり、井戸には屋根も設けられている。井戸の脇は周囲は広場で、遊具類も設置されていて子どもたちの遊び場でもあるようだ。
「北門大井戸」から数十メートル東へ辿り、丁字路となった交差点を南へ折れて辿っていこう。この道は丸の内の町と城東の町の境になっており、西側が丸の内、東側が城東だ。道の右手(西側)にかつての堀が残っている。松本城の総堀がほとんどが埋め立てられてしまい、この一角だけが往時の面影を今に伝えている。
松本市中心市街の湧水井戸は市が管理するものだけでも20ヶ所を数え、丸の内の町には他に「地蔵清水の井戸」や「市役所前庭の井戸」がある。市が管理していないものも含めるとさらに数多くの湧水が点在しているのだろう。道脇の店先などに湧水らしいものを見つけることもある。湧水巡りをメインにした松本観光、町散歩の好きな人にはお勧めである。
「松本神社前井戸」も「北門大井戸」も松本駅(JR中央本線、アルピコ交通上高地線)の「お城口(東口)」からほぼ1.5km前後、ルートにもよるが徒歩で20分強といったところか。松本城観光の際に足を延ばすなら、二の丸裏御門橋から北へ抜け出ると近い。
松本観光を楽しむなら、市街地を巡る周遊バス「タウンスニーカー」を利用するのもお勧めだ。「北コース」の「池上百竹亭」バス停が「松本神社前井戸」や「北馬場柳の井戸」に近い。
車で訪れる場合は、長野自動車道松本ICから国道158号を西進して松本市街を目指そう。松本ICから松本市街中心部まで2〜3km、道路状況にもよるが10分ほどで着く。松本城周辺の観光用駐車場を利用しよう。
丸の内の町には飲食店は少ない。食事を楽しむなら駅周辺や中町通り周辺へ移動して店を探すのが賢明だ。
松本観光に訪れたらまずは松本城を見ておきたい。国宝に指定された名城だ。丸の内の湧水巡りとセットで楽しむといい。
北へ辿れば、これも国宝の
旧開智学校
がある。旧開智学校も松本観光で欠かせない。旧開智学校の横手に建つ
旧司祭館
にも立ち寄っておきたい。
松本城から数百メートル南、女鳥羽川に沿って北側には
縄手通り
が、南側には
中町通り
が東西に延びている。どちらも風趣に富んだ景観の通りで、多くの観光客で賑わっている。のんびりと散策を楽しむのがお勧めだ。町歩きの好きな人なら縄手通りの東端から北へ延びる
上土通り
にも足を延ばしておきたい。中町通り近辺には「
松本市はかり資料館
」や「
松本市時計博物館
」などが建っている。興味があれば、これも立ち寄っておこう。
中町通りから東へ1kmと少し辿れば旧松本高校だ。
旧松本高校の校舎
が残されている。近代建築に興味ある人なら見逃せない。
松本市街地の観光名所を巡るなら周遊バス「タウンスニーカー」を利用するのがお勧めだ。一日乗車券を購入しておき、コースマップをもらっておこう。車で松本を訪れたときも、車を駐車場に置き、「タウンスニーカー」と徒歩を組み合わせて松本観光を楽しむのがお勧めだ。
新まつもと物語(松本市公式)
旧開智学校
松本市旧司祭館
松本市時計博物館
松本 中町通り
松本市はかり資料館
松本 縄手通り
松本 上土通り
旧松本高等学校