長野県松本市の「松本市時計博物館」は和洋の貴重な古時計を展示する施設だ。動いている状態で展示された古時計の数々はマニアならずとも興味深く見学できる。九月初旬、松本市時計博物館を訪ねた。
松本市時計博物館
長野県松本市は「松本まるごと博物館」構想のもと、松本市域を「屋根のない博物館」として環境そのものを博物館とする活動を行っている。施設中心の考え方から脱却し、より広いネットワークで博物館活動を行おうということだ。もちろんその活動には拠点となる博物館施設も存在する。その「松本まるごと博物館」構想のもとで建設された初めてのテーマ拠点博物館が、「松本市時計博物館」だという。開館したのは2002年(平成14年)9月のことで、松本市立博物館の附属施設としては8館目の博物館である。
松本市時計博物館
松本市時計博物館
松本市時計博物館はその名が示すように洋の東西を問わずさまざまな古時計を展示する博物館だ。展示されている古時計コレクションは、古時計の研究者であり、技術者であり、無類のコレクターだった本田親蔵(1896〜1985)という人物が生涯をかけて蒐集したコレクションが中心になっているという。本田親蔵氏は1974年(昭和49年)、“人びとに永く親しんでもらいたい”との思いからに自身のコレクションを松本市に寄贈、以後、松本市立博物館の人気コーナーとして親しまれてきた。その“本田コレクション”を中心に、さらに市民から寄贈された古時計も加えて、松本市立博物館の分館として造られたのが松本市時計博物館である。
松本市時計博物館
松本市時計博物館
松本市時計博物館は4階建て、1階と2階に常設展示室が設けられ、3階は企画展開催時のみ開場される企画展示室、4階はホールになっている。

1階の展示室には古代から中世の“時計”なども展示され、人類がどのように時の経過を知ろうとしてきたのかということに思いが及ぶようなテーマになっている。

2階の展示室は“本田コレクション”のさまざまな時計を中心にした展示で、一角には蓄音機の展示もあり、土・日・祝日にはSPレコードのミニコンサートも行われている。館内には約110点の時計と関連資料がテーマに沿って展示されているが、本来の“本田コレクション”の総数は300点余に及び、随時展示替えが行われているという。
松本市時計博物館
見応えのあるのは、やはり2階展示室に展示された時計の数々である。松本市時計博物館の特徴と言えるのが、展示されている時計がすべて動いているということだ。こうした博物館や資料館ではすでに動かなくなった器機を展示しているものも往々にしてあるが、松本市時計博物館の時計はすべて今も時を刻み続けている。そのためには日頃の保守が大切だが、いろいろと苦労もあるだろうことを思うと感服せざるを得ない。
松本市時計博物館
昔の時計は単に時刻を刻んで知らせる道具ではなく、一種の装飾品でもあった。デザインそのものが美しく、鑑賞に値するものと言っていい。大正期の日本で造られた時計の中には振り子ではなく別の可動部分を持つものも少なくない。象の鼻の上に時計本体が乗って時計本体が振り子になっているものや、ブランコに乗った子どもの人形がバネで吊されて上下し時を刻むものなど、その動きに目を奪われてしまう。
松本市時計博物館
動いている時計たちは、当然のことだが毎正時にさまざまな方法で時を告げる。鐘を鳴らすものはもちろんだが、いわゆる“鳩時計”など、施された仕掛けが動き出すものなど、さまざまである。訪れるときには来館中に正時になる時間帯を選ぶといい。ただし、すべての時計の“時を告げる姿”を見ることは時間的に不可能だ。館内で1時間以上を過ごせば、少なくとも2回のチャンスがあるわけだが、それぞれの興味と熱意次第というところか。
松本市時計博物館
松本市時計博物館
松本市時計博物館には売店も併設されており、オリジナルのTシャツやミニタオル、ポストカードやトートバッグなどが販売されている。時計の博物館だけあってオリジナルの懐中時計や腕時計も販売されており、なかなかの人気商品であるらしい。来館記念のお土産に何か買い求めるのも楽しい。

時計というものにマニアックな興味を持つ人は当然、そうでない人でも充分に楽しめる博物館だと言っていい。マニアな人なら何度でも訪ねたくなるだろうし、「特に時計に興味はない」と思っている人でも、楽しく見学できる博物館だ。見事なコレクションである。
参考情報
松本市時計博物館は入館料が必要だ。入館料や開館日など、詳細は公式サイト(頁末「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)を参照されたい。

交通
松本市時計博物館は松本駅(JR中央本線、アルピコ交通上高地線)の「お城口(東口)」から600mほど、徒歩で10分かからずに着く。

松本市街地は周遊バス「タウンスニーカー」が巡っているので、これを使うと便利だ。「北コース」の「大手門駐車場」バス停からや「東コース」の「大手門駐車場」バス停などが近い。どちらもバス停から300m足らずで、徒歩5分ほどで着く。

車で訪れる場合は周辺に点在する有料駐車場を利用するといい。予め調べておくと利用しやすいだろう。

遠方から車で訪れる場合は、長野自動車道松本ICから国道158号を西進すればいい。松本ICから松本市中心部まで3km足らず、道路状況にもよるが10分ほどで着く。

飲食
松本市時計博物館の周辺は松本市の中心市街で、周辺にさまざまな飲食店やカフェが点在する。特に中町通りや縄手通りに歩を進めればお洒落なカフェや老舗の洋食レストランなどもある。気に入った店を見つけてランチを楽しもう。

周辺
松本市時計博物館から東へ、本町通りを越えれば女鳥羽川の南側を東に延びる中町通りだ。中町通りはかつての善光寺街道の宿場だ。明治期に建てられたなまこ壁の土蔵などが風情ある景観を見せる。松本市はかり資料館や中町・蔵シック館(松本市中町蔵の会館)にも立ち寄っておきたい。

女鳥羽川の北を東へ延びるのは縄手通りだ。長屋風の店舗が建ち並び、これも良い風情の商店街だ。併せて散策を楽しむのがお勧めだ

松本市時計博物館から本町通りを北へ向かい、千歳橋で女鳥羽川を渡って大名町通りをさらに北へ向かえば松本城だ。松本市時計博物館から松本城まで400mほどしかない。松本を訪れたら松本城は必ず訪ねておきたい。

松本城公園を北へ通り抜けてさらに数百メートル北へ辿れば旧開智学校がある。開智学校は2019年に国宝に指定されている。隣接して建っている旧司祭館と併せて、ぜひ見学していこう。

松本市は湧水に恵まれた土地柄で、市街地には数多くの湧水がある。「平成の名水百選」にも選定されている「まつもと城下町湧水群」だ。のんびりとそれらの湧水を巡ってみるのも楽しい。

松本城や開智学校、旧松本高校などを効率良く巡るなら、周遊バス「タウンスニーカー」を利用するのが便利だ。松本城や開智学校は「北コース」、中町通りは「東コース」が辿っている。「東コース」を使えば旧松本高校を訪れるのも便利だ。観光で訪れた際には一日乗車券を購入しておくとお得だ。車で松本を訪れたときも、車を駐車場に置き、「タウンスニーカー」と徒歩を組み合わせて巡るのがお勧めだ。
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