長野県上田市は上田城の城下町として栄えたところだ。市内には上田城跡公園があり、市街地には城下町の面影を伝える風景が数多く残っている。夏の暑さが残る九月の初旬、信州上田の町を訪ねた。
信州上田/歴史が薫る城下町
信州上田/歴史が薫る城下町
長野県上田市は、かつて上田城の城下町として栄えたところだ。上田城は戦国時代、武田氏滅亡の後に真田昌幸が築城した。上田の城下町もこの時に原型が造られたという。「関ヶ原の戦い」では真田昌幸と次男の信繁(幸村)が西軍、長男信幸が東軍と、分かれることになった。徳川の治世になって上田藩は信之(「関ヶ原の戦い」後に信幸から改名)が治めたが、信之はすぐに松代藩に移封となり、上田藩には小諸藩から仙石忠政が入封した。上田城は「関ヶ原の戦い」の後にいったん廃城となっていたが、仙石氏がこれを復興、現在まで残る上田城の遺構は仙石氏によって復興された後のものだという。その仙石氏も1706年(宝永3年)に出石藩へと移封となり、上田藩には松平忠周が入封、以後、松平氏の治めるところとなって明治維新を迎えている。
信州上田/歴史が薫る城下町
信州上田/歴史が薫る城下町
上田の町は千曲川を南に見下ろす台地に広がっている。市街地と千曲川の間を長野新幹線としなの鉄道が走り、その「上田駅」が現在の上田の町の中心と言っていい。上田駅の北方、市街地の西寄りに上田市役所があり、さらにその西にかつての上田城の遺構を残した上田城跡公園がある。かつては上田城を中心に、その周辺に侍町が造られ、さらにその外側に商人町が造られた。上田駅のやや北方には原町、海野町という地区がある(現在の上田市中央二丁目、三丁目の辺り)が、ここがかつての商人町の中心だったところだそうだ。海野郷(現在の東御市)と真田氏のかつての居館があった原之郷から人々を移住させて城下町が造られたのだという。
信州上田/歴史が薫る城下町
信州上田/歴史が薫る城下町
上田の城下町は江戸時代には北國街道の上田宿として栄えた。北國街道と上州街道との分岐もあり、交通の要衝だったのだ。町中を抜ける旧北國街道の沿道には往時の面影を伝える町並みが今も残る。東側に位置する「常田の通り」や北側の「柳町の通り」、紺屋町の土蔵群、さらに西へ市街地からは少し離れて「塩尻の通り」など、旧北國街道に沿っての散策は上田城跡公園と並ぶ上田観光の醍醐味だろう。また現在の上田高校はかつての上田藩主居館の跡で、現在も表門や濠などが残っている。これもぜひ立ち寄っておきたい。他にもさまざまな記念碑や寺社などの見所が点在している。のんびりと時間をかけて散策し、城下町の面影を探しながらの観光がお勧めだ。
上田城跡
上田観光に欠かせないのが上田城跡だ。上田を訪れたなら、まずは上田城跡を訪ねておかなくてはいけない。

上田城跡は今は「上田城跡公園」という公園として整備されている。陸上競技場や野球場、体育館、市民会館、市立博物館なども設けられた広い公園だが、園内には復元された東虎口櫓門や仙石氏が復興した際に建てられた姿のままに残る西櫓、真田昌幸、信繁(幸村)親子や仙石氏、松平氏の歴代藩主を祀った真田神社などがあり、観光の対象としても見応え充分だ。時間をかけてゆっくりと見学しておきたい。

東虎口櫓門は観覧料を支払えば内部の見学も可能で、内部に展示された資料の数々を見学することができる。戦国時代の歴史に興味のある人、特に真田氏の歴史に興味のある人なら見逃せないものだろう。
信州上田/上田城跡
信州上田/上田城跡
上田藩主居館跡
上田城跡公園の二の丸橋から東へ200mほど行くと道路の南側に上田市役所が建っている。上田市役所の南側は上田高校だ。この上田高校の敷地に、かつて上田藩主の居館が建っていた。もちろん居館そのものはすでに無いが、藩主居館時代の表門や土塀、土塁、濠などが残されており、往時の面影を今に伝えている。

「関ヶ原の戦い」の後、上田藩は真田信之が治めたが、上田城は破却されて廃城となったため、この地に居館を構えて藩政を行ったという。真田信之が松代藩に移封となった後、仙石氏、松平氏と藩主が代わっても藩主の居館は移されることなくこの地にあり、そのまま明治維新を迎えている。
信州上田/上田藩主居館跡
信州上田/上田藩主居館跡
表門は薬医門と呼ばれる形式の門で、1790年(寛政2年)、当時の藩主だった松平忠済が前年に火災で焼失した居館と共に再建したものという。長野県下最大級の薬医門だそうだ。両脇の土塀は江戸後期に造られたものらしいが、濠と土塁は真田氏時代の面影を残しているという。保存のための改修も行われているようで、土塀下部と濠の周囲の石積みは崩落防止のために最近になって施工されたものとのことだ。濠の幅も道路の拡張に伴って往時より狭められているそうだ。

細部が改修されているとは言え、表門と土塀、濠の見せる景観は充分に往時の佇まいを今に伝えている。今は「長野縣上田燗剱{校」と記した表札が架けられた表門の前に立ち、その奥に上田藩主の居館があった時代へ思いを馳せるのも一興だろう。
信州上田/上田藩主居館跡
信州上田/上田藩主居館跡
柳町
上田藩主居館跡の北方、国道141号の西側に柳町と呼ばれる地区がある。この地区を南北に抜ける通りは旧北國街道で、格子作りの家並みが往時を偲ばせる。通り沿いに並ぶ二階建て平入りの町屋は江戸末期から明治期にかけて建てられたものだそうだ。それぞれの建物は屋根や軒の高低差が少なく、高さの揃った整然とした美しさも見所のひとつという。二階には「親付き切り子格子」と呼ばれる格子が取り付けられている。この格子がこれほど集中して見られるのは上田市中心部では柳町だけだそうだ。
信州上田/柳町
通りを歩いていると造酒屋の軒に杉玉が提げられているのに気付く。杉玉が提げられているのは岡崎酒造(屋号は「小堺屋」というそうだ)、1665年(寛文5年)創業の蔵元という。日本酒の好きな人は立ち寄ってみるといい。

美しい家並みの通りには白壁の土蔵なども建っており、町並みの佇まいを味わいながらの散策は楽しく、観光客の姿も少なくない。「柳町」という名のように、道沿いには柳の木が枝を垂れていて良い風情だ。通りの一角には茶房なども店を構えている。どこかで一休みするのもよいかもしれない。
信州上田/柳町
信州上田/柳町
保名水
柳町の通りの北端、交差点の南東側の角に「保名水」と呼ばれる用水施設がある。傍らには「保名水について」と題した解説が柳町自治会の名で設置されている。それによれば、「保名水」は1881年(明治14年)、新田の海禅寺境内に湧き出ていた清水を木管で引き、町の人々の生活用水としたものだそうだ。1922年(大正11年)に上田市に上水道が開設されるまで、この「保名水」は町の人々のみならず、街道を往来する人たちにも利用され、喜ばれていたという。
信州上田/保名水
1949年(昭和24年)夏に水道事故によって上田市全域が断水した際、この「保名水」が水源として利用され、大きな功績を上げたというエピソードも解説には記されている。現在では利用されることも少なくなり、水源の水圧も減ってしまったらしい。当初は町の北と南に二ヶ所設けられた石組みの井も、今ではここが残るのみ、現在のものは1967年(昭和42年)、明治百年を記念して大改修が行われた後のものという。
信州上田/保名水
紺屋町
「保名水」の角から旧北國街道は西へ折れる。そのまま西へ辿れば紺屋町、真田昌幸が上田城を築城した後、真田氏と縁の深い海野郷(現在の東御市)から紺屋(染物屋)を移して造った町だそうだ。街道脇に設けられた解説板によれば、1706年(宝永3年)には十軒の紺屋があったという。紺屋町は後に上紺屋町と下紺屋町に分かれ、東側が上紺屋町、西側が下紺屋町となっている。
信州上田/紺屋町
「保名水」のある辺り、柳町の北側から紺屋町にかけて街道沿いには多くの土蔵が建ち並んでいる。この景観も上田市観光の見所のひとつと言っていい。街道の北側を流れる矢出沢川沿いにも土蔵が建ち並び、興趣のある景観を見せる。旧北國街道から横道へ逸れ、矢出沢川に架かる橋の上から河岸に建つ土蔵を眺めてみるのもお勧めだ。
信州上田/紺屋町/矢出沢川
紺屋町は1826年(文政9年)に大火があったという。大火の後、上田藩が職人町再建のために海野宿から移設したという「泉屋」の建物が今も残っている。建物には「紺屋町歴史研究会」の名で解説板が設置されている。それによれば、泉屋では小泉弥重が藩士の裃用などの型付け藍染め工房を開いていたという。廃藩後は蚕種の製造販売を始め、後には養蚕指導員の派遣なども行っていたらしい。
信州上田/紺屋町/泉屋
柳町から離れてゆくと旧北國街道は基本的には静かな住宅街だ。ところどころに白壁の土蔵が建ち、泉屋などの古い建物が残ってはいるが、観光地的な雰囲気はほとんどない。地元の人々の暮らしが静かに息づく町の佇まいは、町歩きの好きな人にはかえって魅力的かもしれない。
信州上田/紺屋町/泉屋
参考情報
上田城跡公園の東側、「二の丸橋」の道路向かいには上田市観光会館が建っている。駐車場があり、中には観光案内所や休憩所、売店、喫茶コーナーなどがある。観光案内リーフレットや観光用マップなども用意されているから、上田観光の際にはまず立ち寄っておくことをお勧めする。

交通
上田市へは長野新幹線やしなの鉄道の上田駅を利用するとよい。

車で訪れる際には上信越自動車道を利用するのがわかりやすく便利だ。上田菅平ICで降りて国道144号を西進すれば上田市街に入って行ける。

駐車場は観光会館の駐車場や駅周辺の市営駐車場、市街地に点在する民間駐車場を利用するといい。駐車場の場所については上田市観光情報サイト(「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)を参照されたい。

飲食
駅北側の市街地中心部には飲食店が多いので、食事は駅周辺で楽しむのがよいだろう。駅から離れるに従って飲食店も少なくなるようだ。駅西側(線路の南側)に建つ大型ショッピングモール「Ario上田」内のレストランを利用するのも一案だ。

陽気の良い季節であれば、駅周辺でテイクアウトのものを買っておき、上田城跡公園でアウトドアランチを楽しむのも一興かもしれない。

周辺
市街地から少し離れるが、国道144号を北へ向かえば真田氏が上田城を築城する以前の居館跡がある。真田氏の歴史に興味のある人なら訪ねてみたい。

上田市中心部から南西へ10kmほど行った山裾には別所温泉がある。別所温泉は歴史の古い温泉で、有名な北向観音をはじめ、さまざまな古刹が点在し「信州の鎌倉」とも呼ばれるところだ。車でも近いが、鉄道ファンなら上田電鉄別所線を利用してみたいところだろう。

町歩きの好きな人なら上田市東側の東御市に位置する海野宿を訪ねてみるのがお勧めだ。旧北國街道の宿場町で国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されたところだ。

また、上田はアニメ映画「サマーウォーズ」の舞台になったところとしても知られる。「サマーウォーズ」を見たことのある人なら劇中に登場した風景を訪ねてみるのも楽しい。
町散歩
長野散歩