埼玉県ときがわ町の北部に「日影」という地区がある。山々に囲まれた谷戸の地形で、長閑な里山風景の広がるところだ。春には桜やミツバツツジが風景を彩る。桜が盛りの四月初旬、日影地区を訪ねた。
春の日影
埼玉県ときがわ町の北部、小川町に接して「日影」という地区がある。山々に囲まれて雀川の流域に平地が横たわる谷戸の地形で、長閑で美しい田園風景の広がるところだ。雀川の源流域には「雀川砂防ダム公園」があり、紫陽花の名所として知られている。「日影」という地名は、その地形から容易に推測できるが、周囲を山々に囲まれてその影になることが由来のようだ。

日影地区は縄文期から人の暮らしがあったところらしい。江戸時代以前から「日影」の名があるようで、なかなか歴史の古い土地である。小川町に近いこともあってか、かつては和紙の生産も盛んだったようだ。1889年(明治22年)に町村制が施行された際に玉川村の一部となり、さらに2006年(平成18年)には玉川村と都幾川村が合併し、ときがわ町が誕生、現在の日影はその一部である。

春、四月初旬にもなれば日影地区の里山風景が春色に染まる。桜やミツバツツジ、菜の花、ハナモモといった花々が美しい田園風景をさらに美しく染め上げる。交通量の多い道路からは距離があり、車の騒音も届かない。麗かな春の陽射しを浴びて、辺りは静かで穏やかな空気に満ちている。その中をのんびりと歩くのは至福のひとときと言っていい。
春の日影
春の日影地区を訪ねたなら、まずは雀川砂防ダム公園に立ち寄っておきたい。紫陽花の名所として知られる公園だが、桜の咲く風景も美しく、のんびりと静かなお花見が楽しめる。桜と渓流、桜と砂防ダムといった取り合わせが興趣に富み、高所からの眺望も素晴らしい。桜の咲く風景を楽しみながらの青空ランチにも好適なところだ。
春の日影
雀川砂防ダム公園から日影地区の中央部へ下りてゆくと、南側の丘裾に家々が集まった集落がある。そこに印象的に一本の桜が咲いている。日影神社の前辺りから眺めれば耕作前の水田を前景に、背景には新緑に萌える山々が見えて、陽光に浮かび上がる桜が一幅の絵画のように美しい。雀川の河岸に建つ家々はこの辺りからは屋根だけが見えていて、それが風景のアクセントになっている。素晴らしい春景色だ。
春の日影
さらに道を東へ下りてゆくと、南側の集落の様子がよく見えるようになる。さきほどの桜とは別の桜が集落へ通じる道の脇に咲いている。その背後、小高い丘の上にミツバツツジが数多く咲いて日を浴びて輝いている。鮮やかなピンクが春の田園風景を艶やかに染め上げる。もっと近くから見てみたいと思ったが、どうやら集落の家の“裏山”で、近づくことはできなかった。遠景で見る美しさを堪能しておくことにしよう。
春の日影
北側の丘裾を辿る道脇に、桜が並んで美しい景観を見せるところがある。順光を浴びた桜が林の新緑と共に美しい春景色を織り成し、丘の裾を辿る道との取り合わせも長閑な興趣を漂わせている。
春の日影
北側の丘に近づいてみれば、丘裾を辿る道とその道脇に並ぶ桜、丘の下に横たわる畑地などが織り成す美しい春景色を堪能できる。道を辿ってゆけば、場所によって景観の印象は変わっていき、それぞれに美しい春の田園風景を見ることができる。このような景色に出会えるのが春の田園散歩の醍醐味と言っていい。素晴らしい春景色を楽しめる。
春の日影
丘裾の道を歩いていると、スノーフレークやヒメオドリコソウといった春の花が足元に咲いているのを見つけることができる。桜の時期には桜ばかりに目を奪われがちだが、こうした小さな花々に目を向けるのも春散歩の楽しみのひとつだ。
春の日影
北側の丘裾の道を東へ辿っていくと、一本のハナモモに出会った。丘の麓に建つ民家の敷地脇、丘へ登る道脇にポツリと立っている。鮮やかなピンクの花が緑濃い風景の中、春の青空を背景に日を浴びて輝いている。美しい風景だ。構図を変えつつ、何度もカメラを向けてしまう。
春の日影
北側の丘裾の道をそのまま辿ってゆくと、中央部を抜ける道へと戻る。雀川が道脇を流れている。少し東へ行くと日影分館が建っている。入口の両脇にまるで門のように桜が並んでいる。傍らには小公園が設けられており、滑り台などの遊具がある。それらと桜との取り合わせも良い風情だ。
春の日影
日影分館から300mほど東へ進むと県道30号との交差点だ。日影分館と交差点との間、道脇に「日影地区案内図」が設けられている。案内図によれば、日影地区の中央部を貫くように東西に延びる道には「花と緑の遊歩道」の名があり、地元の方々によって花壇が整備されているという。確かに道が少し広くなった場所には道脇に花壇が設けられている。花壇には、今は春の花が咲いている。花壇の花を楽しみながら、雀川砂防ダム公園へと戻っていこう。
春の日影
道脇の畑地の隅では菜の花が咲いている。菜の花も春を象徴する花のひとつだ。辺り一面を染め上げるような菜の花畑の景観は素晴らしいものだが、こうして田園風景の中で畑の隅に咲く菜の花には素朴な美しさが感じられて素敵だ。
春の日影
北側の丘裾の桜も、南側の集落の桜やミツバツツジも、時刻が移って日射しの向きが変われば景観の印象が微妙に変わる。その変化を楽しみながら田園風景の中を歩いていこう。
春の日影
日影地区は雀川流域の平地とそれを囲む山々とが織り成す風景が美しく、田園散歩の好きな人にはお勧めの場所だと言っていい。その田園風景を桜が彩る季節は訪ねるのによい時期だ。雀川砂防ダム公園の桜と併せて、春の花見散歩を楽しむのがお勧めだろう。

田園風景の中を散策する際には私有地(農地含む)に立ち入らないように注意し、写真を撮る際には地元の方々のプライバシーに留意するなど、地元の方々のご迷惑にならないようにくれぐれも配慮を怠らないようにしたい。
春の日影
春の日影
春の日影
春の日影
春の日影
参考情報
交通
日影地区の鉄道の最寄り駅はJR八高線明覚駅だが、4kmほどの距離があり、駅から徒歩で訪ねるのは少しつらい。駅から「ときがわ町路線バス」を利用するといい。小川町方面へ向かう路線を利用し、「日影」バス停や「東光寺入口」バス停、「雀川ダム入口」バス停などで下車すればいい。ただし、便数は少なく、あまり便利とは言えない。

日影地区は特に観光地ではないので、観光用駐車場などはなく、コインパーキングなどもない。車で訪れる場合は雀川砂防ダム公園の駐車場を利用し、雀川砂防ダム公園の散策と共に楽しむといい。

日影地区はときがわ町の北部、県道30号の西側に位置している。越生町方面からは県道30号を北上、小川町方面からは県道30号を南下すればよい。ときがわ町役場方面からは県道171号を西進、そのまま県道30号へと辿ればいい。遠方の人は関越自動車道の東松山ICや嵐山小川ICが最寄りのICだが、どちらからも少しばかり距離がある。県道から公園へと逸れるところは信号のない交差点だが、雀川砂防ダム公園を指し示す案内標識を目印にするといい。

飲食
県道30号沿いに蕎麦屋が一軒建っているが、他に日影地区に飲食店はない。飲食店を探すならときがわ町中心部や小川町中心部へ移動した方がいい。

お弁当持参で訪れて、雀川砂防ダム公園で青空ランチを楽しむのもお勧めだ。気軽なピクニック感覚で楽しめる。

周辺
日影地区の散策を楽しむなら雀川砂防ダム公園と併せて楽しむのがお勧めだ。自然溢れる公園で、紫陽花の名所としても知られる。桜の時期や新緑の時期などもお勧めだ。

ときがわ町の役場の裏手には「ときがわ花菖蒲園」がある。花期の六月には訪ねてみたい。雀川砂防ダム公園から5kmほどの距離だ。

県道30号を北へ辿れば小川町にも近い。小川町の中心部まで、これも5kmほどの距離しかない。町を散策したり、「道の駅おがわまち」を訪ねて埼玉伝統工芸会館などを見学するのもいい。小川町南東部の丘の上には「仙元山見晴らしの丘公園」という公園があり、眺望が素晴らしいそうだ。
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