埼玉県ときがわ町の北部に雀川砂防ダム公園という公園がある。町民の憩いの場として親しまれ、紫陽花の名所としても知られている。紫陽花が見頃を迎えた六月下旬、雀川砂防ダム公園を訪ねた。
雀川砂防ダム公園
埼玉県ときがわ町の北部、日影地区に「雀川砂防ダム公園」という公園がある。その名を見ればどのような公園なのかは一目瞭然、雀川という河川に設けられた砂防ダムの周辺を公園として整備したものだ。
雀川砂防ダム公園
雀川砂防ダム公園
公園のある辺りは雀川の源流域に当たる。雷電山をはじめとした周辺の山々から流れてきた沢が集まって雀川となり、旧玉川村の区域を東に6kmほど流れて都幾川に注ぐ。古くから人々の暮らしを支えてきた雀川だが、ひとたび洪水が起これば甚大な被害をもたらした。流域の都市化が進むと土砂災害防止のための大型の砂防ダム建設も必須となり、それを受ける形で計画されたのが雀川砂防ダムだ。着工は1980年(昭和55年)、完成は1988年(昭和63年)のことという。

砂防ダムの完成後、自然保護を目的に周辺が公園として整備され、1991年(平成3年)に雀川砂防ダム公園が開園した。当時はこの辺りはまだ埼玉県比企郡玉川村だった(2006年(平成18年)に比企郡玉川村と比企郡都幾川村が合併、比企郡ときがわ町が発足した)。雀川砂防ダム公園の整備は玉川村制施行百周年事業でもあり(玉川村は1889年(明治22年)に周辺の村々が合併して発足した)、玉川村で最初の公園だったそうである。
雀川砂防ダム公園
雀川砂防ダム公園
雀川砂防ダム公園は砂防ダム下流側に設けられた「お花見・イベント広場」、砂防ダム堤体北側に設けられた「展望広場」、そして砂防ダム上流側に設けられた「渓流広場」の三つのエリアで構成される形になっている。それぞれのエリアを結んで園路が整備され、砂防ダムの周囲を一回りするように巡ることもできる。周辺は山深く、緑濃い風景が広がっている。のんびりと園路を巡れば、ひととき町の喧噪を忘れて散策が楽しめる。
雀川砂防ダム
公園内に足を踏み入れてまず目を奪われるのは何と言っても砂防ダムの威容である。雀川砂防ダムは高さ17m、堤頂長約111m、計画貯砂量43000立方メートルの重力式砂防ダムだ。砂防ダムとしては大きな部類に入るのではないか。あくまで砂防ダムだが、堤体の上流側には満々と水を湛えたダム湖が生じ、その様子は「展望広場」から一望することができる。

下流側の「お花見・イベント広場」から眺めると、堤体は圧倒的な存在感を放ち、自然溢れる景観の中に存在する巨大な人工物としての違和感が独特の興趣を生む。堤体上部に設けられた水通しからは滝となって水が流れ落ちる。本堤の下流側には高さ6mほどの副堤が設けられており、二段の滝となった水の流れがその音を園内に響かせている。六月、下流側流路脇には紫陽花が咲き誇り、景観に潤いを与えている。沢沿いの園路を辿れば堤体のすぐ下まで行くことができる。真下から見上げる堤体の姿はなかなかの迫力である。
雀川砂防ダム公園
雀川砂防ダム公園
雀川砂防ダム公園
お花見・イベント広場
砂防ダムの下流側に整備された「お花見・イベント広場」が雀川砂防ダム公園のメインとなるエリアだと言っていい。砂防ダムからの流れに北側から流れてきた沢が合流し、その合流点を中心に、二つの流れに挟まれる形で広場が設けられている。北側から流れてくる沢には長久保川の名があり、長久保橋が架けられて沢の両岸を繋いでいる。砂防ダムからの流路には雀川ダム下橋という名の橋が架けられている。この沢にも名があると思うのだが、川の名を記した銘板を見つけることができなかった。この沢が雀川の本川ということなのかもしれない。
雀川砂防ダム公園
広場は端正に整備されており、のんびりとくつろいだひとときを過ごすことができる。周辺には桜の木も植栽され、その名のように春にはお花見が楽しめるのだろう。山側には野外ステージも設けられている。「イベント広場」の名の通り、種々のイベント会場として使用されることがあるらしい。
雀川砂防ダム公園
二つの流れの合流点は階段状に沢に降りてゆけるように整備され、沢遊びの可能な親水空間を成している。六月、本格的な夏の到来はまだだが、沢遊びを楽しむ子どもたちの姿があった。自然溢れる公園での沢遊びは楽しいに違いない。
雀川砂防ダム公園
「お花見・イベント広場」の北側部分、長久保川の左岸部には四阿が設けられ、その横には人工的な小川が造られている。長久保川の水を引き入れて造られたものか。この小川も夏になれば水遊びの子どもたちで賑わうのだろう。
雀川砂防ダム公園
その横の広場脇、様々な動物を象ったオブジェが置かれていた。パンダやゴリラ、カバ、ラッコ、コアラといった動物たちのオブジェだが、小さな子どもたちのための遊具として使われることを前提としたものだろうか。可愛らしくデフォルメしてもよさそうに思うのだが、妙にリアルな造形がシュールだ。
雀川砂防ダム公園
展望広場
「お花見・イベント広場」の野外ステージの裏手から斜面を園路が登っている。登っていった先が「展望広場」だ。砂防ダムを下から見上げる「お花見・イベント広場」から、上から見下ろす「展望広場」まで、20mほどの高低差を登らなくてはならない。「展望広場」へは一般路も通じており、車で上ってくることも可能だから、「展望広場」が目的地という場合には車で「展望広場」まで来る方法もあるだろう。

「展望広場」は砂防ダムの堤体を北側から見下ろす位置に設けられ、その名のように爽快な展望が楽しめる。眼下に砂防ダムとダム湖を一望し、東に目を向ければ山々の向こうにときがわ町の平地部を望む。四阿や藤棚も設けられているから、景観を楽しみつつ、のんびりと時を過ごすのもいい。
雀川砂防ダム公園
雀川砂防ダム公園
渓流広場
「展望広場」から左にダム湖を見下ろしながら一般路をそのまま奥へと辿ってゆけば「渓流広場」へ至る。あるいは「お花見・ステージ広場」から雀川ダム下橋を渡って公園南側外縁部に沿った園路を西へ上っていってもいい。どちらかを往路に、他方を復路に選んで散策を楽しむのがお勧めだ。

「渓流広場」は砂防ダムの築かれた沢の上流部を親水エリアとして整備したものだ。「渓流広場」の名の通り、山深い谷を流れる渓流の興趣を存分に味わうことができる。かつては谷間を流れる素朴な沢だったのだろうと思うが、今は流路もその周辺も親水空間として整備されており、沢沿いの散策を気軽に楽しむことができるのが嬉しい。石組みの水路は階段状に水が流れる構造に造られ、幾重にも連なる小さな滝の姿が涼やかだ。

安全な公園設備として整備を施すことと野趣溢れる自然のままの姿を残すこととは両立が難しいが、ここではバランス良く調和しているように思える。整備された沢の姿は少しばかり野趣には欠けるが、安心して水遊びや散策を楽しむことができる。この流れも夏には水遊びの子どもたちの歓声が響くのだろう。
雀川砂防ダム公園
雀川砂防ダム公園
雀川砂防ダム公園
雀川砂防ダム公園
紫陽花
雀川砂防ダム公園には随所に紫陽花が植栽され、“紫陽花の名所”として知られている。この紫陽花は自然環境の整備保全と観光客誘致を目的に、玉川村商工会婦人部が計画したものという。公園に設けられた石碑に記された内容によれば、1988年(昭和63年)に越生町麦原地区から紫陽花の穂木を譲り受け、挿し木をして増やし、畑に植え替えて育て、1991年(平成3年)から公園への植樹を始めたのだそうだ。碑文は「平成11年」の日付で、約2000本の紫陽花が植えられていると記している。今はもっと多いのかもしれない。
雀川砂防ダム公園
雀川砂防ダム公園
紫陽花は砂防ダム下流側の水路脇、長久保川の合流点付近の河岸、「渓流広場」脇の斜面などで見ることができる。植えられた場所によっては間近から観賞できない紫陽花もあるが、緑濃い風景の中に鮮やかな色彩を加えて風趣に富む景観を織りなしている。沢の岸辺に咲く紫陽花は良い風情があり、紫陽花の背景に砂防ダムを見る景観もおもしろい。

「渓流広場」の紫陽花も興趣に富んで美しい。特に「渓流広場」と南側の少し高みとなった園路との間の斜面に植えられた紫陽花が見事だ。「渓流広場」の水辺から見上げる景観も美しく、園路側から見下ろすのもいい。やがて歳月を経てさらに紫陽花が増えれば、斜面を覆い尽くすほどになって素晴らしい景観を見せてくれることだろう。

雀川砂防ダム公園の紫陽花は緑濃い山間の風景の中に咲き誇る野趣に富んだ姿が印象的だ。山々が間近に迫る中、清らかな水の流れと共に見る紫陽花には何とも言えない風趣がある。梅雨空の続く季節だが、雨の中を傘をさしての散策もまた風情のあるものである。
雀川砂防ダム公園
雀川砂防ダム公園
雀川砂防ダム公園
雀川砂防ダム公園
雀川砂防ダム公園
雀川砂防ダム公園は、山間の立地を活かした魅力的な公園だ。公園として整備されてはいるが、野趣を損なうことなく、うまくバランスがとられている。自然溢れる景観の中にあって砂防ダムはひときわ存在感を放っているが、それもひとつの興趣というものだろう。家族連れや友人同士で訪れても、一人で散策に訪れても充分に楽しめる。園路を辿ってのんびりと園内を巡った後は「お花見・イベント広場」でお弁当を広げてランチタイムを楽しむのがお勧めだ。涼やかな水音をBGMに、日々の喧噪を忘れることができる。

園内に紫陽花が多く植えられ、紫陽花の名所として知られているが、春の桜や新緑、秋の紅葉も美しいだろう。初夏から夏にかけては沢遊びが魅力的だ。四季折々に訪ねてみたい雀川砂防ダム公園である。
雀川砂防ダム公園
参考情報
交通
雀川砂防ダム公園へ公共の交通機関で訪れるには、ときがわ町路線バスの「小川町駅」と「せせらぎバスセンター」を繋ぐ路線を利用し、「雀川ダム入口」バス停で降りるのが近い。バス停から公園まで徒歩15分ほどか。ただし、バス便は平日で1時間に1本ほど、土日祝日には2時間に1本ほどと少なく、あまり便利とは言えない。

雀川砂防ダム公園には無料駐車場が用意されており、車での来園が便利だ。駐車場は3ヶ所あり、全部で二十数台分の駐車スペースが用意されている。

雀川砂防ダム公園は、ときがわ町の北部、県道30号から西へ入り込んだところに位置している。越生町方面からは県道30号を北上、小川町方面からは県道30号を南下すればよい。ときがわ町役場方面からは県道171号を西進、そのまま県道30号へと辿ればいい。遠方の人は関越自動車道の東松山ICや嵐山小川ICが最寄りのICだが、どちらからも少しばかり距離がある。県道から公園へと逸れるところは信号のない交差点だが、公園を指し示す案内標識がある。

飲食
公園内にも周辺にも飲食店や売店などはない。お昼時を公園で過ごすならお弁当持参が必須だ。広場にシートを広げたり、四阿を利用するなどして、快適なアウトドアランチが楽しめるだろう。

県道30号沿いには飲食店が点在しているようだが、数は少ない。ときがわ町の中心部へ移動すれば飲食店も増えるが、小川町へ移動した方が飲食店は多い。

周辺
雀川砂防ダム公園の位置するときがわ町日影地区は長閑な田園風景の広がるところだ。公園から散策の足を延ばしてみのも楽しい。

ときがわ町の役場の裏手には「ときがわ花菖蒲園」がある。花期の六月には訪ねてみたい。雀川砂防ダム公園から5kmほどの距離だ。

県道30号を北へ辿れば小川町にも近い。小川町の中心部まで、これも5kmほどの距離しかない。町を散策したり、「道の駅おがわまち」を訪ねて埼玉伝統工芸会館などを見学するのもいい。小川町南東部の丘の上には「仙元山見晴らしの丘公園」という公園があり、眺望が素晴らしいそうだ。
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