まず、甌穴というものについて少し説明しておきたい。「甌穴(おうけつ)」は河床の岩盤に水の流れと礫や小石によって穿たれた丸い穴のことだ。
溶結凝灰岩などの堅い岩盤の河床を持つ河川で、水の流れの浸食によって生じた河床の窪みに流れてきた小石や礫が入り込むと、窪みからなかなか出て行かず、渦を巻く水流によって窪みの中で回転を続けてしまう状態になることがある。回り続ける小石や礫は、河床の窪みを削り続け、窪みはやがて深みを増して穴になり、そこへさらに小石が入り込む。入り込んだ小石はさらに穴を抉り、次第に穴は大きく深く成長していくことになる。そうして河床に生じた穴が「甌穴」である。もちろん「甌穴」が生まれるには人の営みの尺度からは想像できないほどの長い年月を要する。悠久の時の流れの中で自然の営みが生み出した造形である。甌穴の中には底に小石が残っているものもあり、そうしたものは今も浸食が進行中ということだ。
甌穴はそれほど珍しいものではない。全国各地にそれぞれに特徴的な甌穴が存在し、国や地方自治体の天然記念物に指定されているものも少なくない。近年では「ポットホール(pot hole)」と呼ばれることもある。