東京都文京区の小石川後楽園は江戸時代初期に水戸徳川家の庭園として築造された、美しい回遊式築山泉水庭園だ。園内には花菖蒲田があり、初夏には見事な景観を見せる。花菖蒲が見頃を迎えた五月の末、小石川後楽園を訪ねた。
東京都文京区の小石川後楽園は江戸時代初期の1629年(寛永6年)に水戸徳川家初代藩主徳川頼房が築造した江戸中屋敷の庭園として造られたものだ。大泉水を中心に築山や田園などを設けた園内はたいへんに美しく、四季を問わず大勢の来園者を迎えている。園内には花菖蒲田が設けられている。花菖蒲は例年五月の下旬から六月中旬にかけて花期を迎え、風雅な庭園に日本情緒を漂わせて咲き誇る。
花菖蒲田は大泉水の北側、松原の北に東西に細長く横たわっている。育成されている花菖蒲は約660株(2023年現在)だという。花が見頃の時期には花菖蒲田の脇に観賞用の木道が設置され、花菖蒲を比較的近くに観賞できるよう工夫されている。菖蒲田脇にはベンチ(縁台と言うべきか)も設けられているから、腰を下ろしてのんびりと花菖蒲田の景観を眺めるのもお勧めだ。
木道を辿れば咲き誇る花菖蒲を間近に観賞することができる。花菖蒲は特に品種毎に分けられているわけではなく、品種名を記したプレートなども設置されていない。品種毎の花菖蒲の美しさを愛でるより、“花菖蒲の咲く景観”としての魅力を味わうのが小石川後楽園の花菖蒲田の楽しみ方だろう。風雅な庭園内に咲き誇る花菖蒲は、ただそれだけで風趣に富んだ景色だ。背景に藤棚や愛宕坂周辺の石段が見えるのもいい。花菖蒲の咲く庭園美を存分に堪能できる。
観賞用の木道は花菖蒲田の南側に設けられているだけだが、東側から稲田越しに眺めてみたり、西側から眺めてみたり、場所を変えて観賞すれば“花菖蒲の咲く景観”のさまざまな表情を楽しめる。西側から花菖蒲田越しに九八屋の建物を見る景観などは特に風趣に富んでいる。ゆっくりと花菖蒲田の周囲を巡りながら、美しい景観を探してみるのも楽しい。
小石川後楽園の花菖蒲田は特筆するほど規模の大きなものではない。約660株という数もそれほど多いものではない。しかし風雅な庭園の中に咲き誇る花菖蒲はたいへんに美しく、庭園そのものの美しさとの相俟って魅力が倍加しているように感じる。美しい庭園の中に咲く花菖蒲というものの魅力を存分に堪能することのできる花菖蒲田だ。花菖蒲の名所としての知名度に恥じない素晴らしさだと言っていい。
花菖蒲田が咲き誇る季節、園内の木々の緑は日増しに深くなり、梅雨空の下でしっとりとした風情を漂わせている。花菖蒲の観賞した後は園内をのんびりと巡り、庭園そのものの美しさを楽しんでおきたい。
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小石川後楽園は入園料が必要だ。園内は広いので、入園時にリーフレットをもらって園内マップを参照しながら巡るのがお勧めだ。入園料金や開園時間、その他の注意事項については東京都公園協会サイト(「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)を参照されたい。
小石川後楽園へは都営地下鉄大江戸線飯田橋駅、JR中央線飯田橋駅、JR中央線水道橋駅、東京メトロ東西線・有楽町線・南北線の飯田橋駅、東京メトロ丸の内線・南北線の後楽園駅などが近い。都合の良い路線を選べばいい。
小石川後楽園には駐車場はなく、車で来訪する場合は近辺の民間駐車場を利用しなくてはならない。規模の大きなものから小さなものまでさまざまだが、周辺に数多くの民間駐車場が点在している。
西門入口横に涵徳亭(かんとくてい)という名の集会施設があり、「びいどろ茶寮」というお休み処が営業している。ランチや喫茶が利用できる。詳細は東京都公園協会サイト(「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)を参照されたい。
飯田橋駅周辺、水道橋駅周辺を中心に、近辺には多くの飲食店がある。気に入ったお店を見つけて食事を楽しむといい。
小石川後楽園内へのお弁当の持ち込みは可能だが、シートを敷くことはできないため、園内に設けられた縁台を利用しなくてはならない。縁台が空いていれば、美しい庭園を眺めながらのランチタイムも素敵なひとときに違いない。
小石川後楽園入口から東へ1kmほど行くと、本郷二丁目に東京水道歴史館が建っている。横には
本郷給水所公苑
という小公園があり、初夏のバラが美しい。
東京水道歴史館から北へ辿れば数百メートルで「本郷三丁目」交差点だ。
菊坂辺り
へと散策の足を延ばすのも楽しい。
梅の季節に訪れたならば小石川後楽園の北西側に位置する「
牛天神
」も訪ねてみるといい。梅の名所として知られている。
桜の季節なら飯田橋駅から
外濠公園
へと散策の足を延ばすのがお勧めだ。
小石川後楽園(東京都公園協会)
小石川後楽園
早春の小石川後楽園
本郷給水所公苑
本郷 菊坂界隈
牛天神
春の外濠公園