「牛天神」は北野神社であり、“天神様”であるから、当然のことながら菅原道真を祀っている。境内に設置された御由緒書によれば1184年(寿永3年、平安時代末期)、源頼朝が東国追討のためにこの地に立ち寄った際、牛に乗った菅原道真が夢に現れ、「二つの幸」があるだろうと告げられたという。夢から覚めると、ひとつの岩石があり、夢の中で菅原道真が乗っていた牛に似ていたという。夢の中の菅原道真のお告げ通り、その年、頼家が誕生、翌年には平家を滅ぼして国を平定する。源頼朝は報賽としてこの地に菅原道真の御霊を勧請して社を建立した。それが「牛天神」の始まりであるという。
「牛天神」の境内は決して広くはないが、樹齢百年という御神木のモッコクや水戸光圀から奉納されたうちの一本という桜の木、中島歌子の歌碑や筆塚などがあり、天鈿女命と猿田彦命を祀る太田神社と高木神社も建っている。のんびりと巡ってみるのも楽しい。今では周囲にビルの建ち並ぶ市街地だが、古社らしい風格が漂っている。ひとときのんびりと時を過ごし、源頼朝の夢に現れた菅原道真の姿に思いを馳せてみるのも一興かもしれない。
件の“牛に似た岩石”は現在も境内にあり、「撫で牛(ねがい牛)」と呼ばれている。撫でると願いが叶うという。撫で方にもそれなりの作法があるようだ。菅原道真を祀る天神社は学業成就の御利益で知られる。参拝したときは「撫で牛」を撫でて願掛けをしておくとよいかもしれない。