東京都墨田区の向島百花園は「文化文政期」に江戸の商人によって造られた庭園だ。四季折々の花々が楽しめる庭園として人気だが、元々は梅園として始まっている。梅が見頃の二月下旬、向島百花園を訪ねた。
東京都墨田区東向島に「向島百花園」という都立の庭園がある。1800年代初期、町人文化が花開いた「文化文政期」に、骨董商だった佐原鞠塢(さはらきくう)によって、当時活躍していた文人墨客の協力を得て造られた庭園だ。四季折々に美しい花々が楽しめる庭園として人気を集めるが、そもそもは360本の梅を植えて梅園として造られたものだったという。
そのことを物語るように、向島百花園では今も梅の花を楽しむことができる。本数は70本ほどと物足りない気もするが、品種の数は約20種と多く、数は少ないながらもさまざまな梅が楽しめるというのは庭園の魅力にも合致しているように思える。
向島百花園は、江戸町人の美意識に基づいて作庭された庭園だと言っていい。庭園の景観はどこをとっても風趣に富んで“粋”である。緑の美しい季節はもちろん、冬枯れを残す頃でも、その冬枯れの様子がまた風情があって“粋”である。その中に、鮮やかに梅が咲き誇る。主役は梅の咲く庭園の味わいである。
梅が見頃の時期、まだ寒さの残る頃だが、庭園の味わいを感じながら、その中に咲く梅を愛でながら、のんびりと園内を巡るのは楽しい。梅には早咲き遅咲きがあるから、すべてが同時に咲き揃うわけではないが、盛りとばかりに咲き誇る様子やようやくほころびかけた姿など、それぞれに美しい姿を見せる。見慣れた白加賀や唐梅といった品種はもちろん、見慣れない品種の梅もあって変化に富んで飽きることがない。
この季節、庭園内の松には“雪吊り”の施されたものもあり、これも季節の興趣というものだろう。うまく場所を選んでカメラを向ければ、“雪吊り”と東京スカイツリーとのコラボレーションを写真に収めることもできる。もちろん、梅の花と東京スカイツリーとのコラボレーションの写真を狙ってみるのもお勧めだ。
梅の木の数という点では少しもの足りなさもあるが、その“もの足りなさ”も逆に魅力かもしれない。重ねて言うが、早春の向島百花園の魅力は“梅の咲く庭園の味わい”である。そもそも数を誇るものではない。その味わいに於いて、やはり向島百花園は“梅の名所”と言っていい。
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向島百花園は入園料が必要だ。ペット連れの入園はできない。その他、休園日や開園時間など、詳細については東京都公園協会のサイト(「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)を参照されたい。
向島百花園へは東武伊勢崎線(東武スカイツリーライン)東向島駅が近い。駅から西へ徒歩で10分足らずだ。また東武伊勢崎線(東武スカイツリーライン)曳舟駅や京成電鉄押上線京成曳舟駅などからも徒歩15分ほどで行ける。
車で来訪する場合は首都高速6号向島線の向島出口で降りると向島百花園に近いが、向島百花園には駐車場が設けられていないため、周辺の民間駐車場を利用しなくてはならない。向島百花園西側の墨堤通り沿いや東側の明治通り沿いに民間駐車場が点在しているようだが規模の小さなものが少なくない。2010年10月に訪れたときには墨堤通り西側、首都高出口のすぐ近くにある駐車場を利用したが、ここは比較的規模の大きな駐車場だった。また向島百花園の南東側、明治通りと国道6号との交差点付近にも大きな駐車場があるようだ。
向島百花園の中には売店はあるが飲食店などはない。四阿やベンチは設置されているが、広場などはないため、のんびりとお弁当を広げるには不向きだ。食事は他で楽しもう。
向島百花園の近辺にはあまり飲食店がないが、東向島駅や曳舟駅周辺、国道6号沿いなどにさまざまな飲食店が点在している。
向島百花園の西方、墨堤通り沿いに白髭神社が建っている。寺社巡りの好きな人は立ち寄っておきたい。そのまま北へ向かえば隅田川河岸に東白髭公園がある。公園散策好きの人は訪ねてみるといい。隅田川の河岸をさらに北へ向かえば、東武伊勢崎線(東武スカイツリーライン)鐘ヶ淵駅の駅名の由来となった
鐘ヶ淵
だ。周辺の町散歩と共に隅田川河岸散策を楽しむのもお勧めだ。
向島百花園から南へ向かうと、料亭の建ち並ぶ向島の街だ。さらに曳舟駅の東方に歩を進めると「
京島
」という町がある。古い町並みの残るところだ。街歩き趣味の人なら足を延ばして訪ねてみるといい。
向島百花園(東京都公園協会)
向島百花園
六月の向島百花園
鐘ヶ淵
京島