日南市域のほぼ中央部の海岸側、広渡川の北側には長閑な田園風景が広がっている。この辺りは日南市が誕生する以前には南那珂郡東郷村だったところだ。1950年(昭和25年)、飫肥町、吾田町、油津町、東郷村の三町一村が合併して日南市が誕生した。現在は行政上の住所に「東郷」の名はないが、学校の名などには残っており、地元の人は今でもこの地域を東郷と呼び慣わしている。
県道28号と県道434号との交差点には「東郷」の名がある。そのことが示すように、この交差点から県道28号を300メートルほど北へ行ったところがかつての東郷村の中心地だった。役場があったのもこの辺りだが、今はもちろん役場はない。周辺には東郷中学校や東郷小学校、JA、郵便局などの施設が点在し、かつて地域の中心地だったことを窺わせるが、今では田園風景の中の小集落といった佇まいだ。
かつての東郷町の中心部の辺り、東郷小学校の北側、東郷中学校の東側に位置して大宮神社という神社が鎮座している。この大宮神社の境内には「東郷のクス」の名で呼ばれるクスノキの巨木が立っている。この「東郷のクス」は「みやざきの巨樹百選」のひとつであり、国指定天然記念物でもある。
日南市教育委員会が設置した解説によれば、樹齢は700年超、2002年(平成14年)に樹形調査が実施され、樹高18.4m、根周り13.9m、胸高での幹周り8.9m、地上5mで幹が三つに分かれ、枝張りは東に7.8m、西に13.0m、南に12.2m、北に8.3mだったそうだ。この解説には、平部嶠南が著した「日向地誌」に“社地内に老楠が二株あり、どちらも樹齢600〜700年の老木である”との旨の記述があるあることから、かつては2本のクスノキの巨木が存在していたようだと添えられている。現在は1本のみで、もう1本がいつ頃姿を消したものか、よくわからないようだ。近年、害虫などによって樹勢の衰えも見られ、その回復が図られているという。
学校や郵便局などの集まる集落中心部を少し離れると、水田の広がる長閑な田園風景だ。関東地方では6月初旬に田植え、10月初旬に稲刈りを行うのが通常だが、宮崎県南地域では3月下旬から4月上旬に田植えを行い、7月下旬から8月上旬に稲刈りを行う。暑さの盛り、夏空の下の稲刈り風景も、この辺りの風物詩のひとつと言っていいかもしれない。
このWEBページは「
日南海岸散歩」内「
日南海岸風景」カテゴリーのコンテンツです。
ページ内の写真は2008年夏、2010年夏、2012年夏、2014年夏に撮影したものです。本文は2014年10月に作成しました。