日南海岸風景
杉村金物本店
杉村金物本店
油津一丁目の国道220号沿いに杉村金物本店が建っている。杉村金物本店は1892年(明治25年)創業の老舗で、三階建ての美しい建物は1932年(昭和7年)に建築されたものという。一階が金物や漁具、船具などを商う店舗で、二階三階は住居となっている。建物は現在もほぼ建築時の外観を残しているといい、昭和初期における木造3階建て住宅として極めて貴重なものという。この主屋と裏手に建つ赤レンガ造りの倉庫は1998年(平成10年)、文化庁の登録有形文化財に登録されている。
杉村金物本店
杉村金物本店
2018年(平成30年)夏、杉村金物本店の店内を見学させていただいた。1階の店内にはさまざまな商品がところ狭しと並べられている。壁面の棚にもあらゆる商品が並べられている。漁具か船具だろうか、漁業に携わらない身では何に使うのかわからない道具もある。壁面の上部に掲げられた古い看板はかつての仕入先、取引先のものだろうか。右から左へ横書きされた看板が時代を物語る。店内のありとあらゆるものに興味を覚え、見ていると時の経つのを忘れる。
杉村金物本店
杉村金物本店 杉村金物本店
杉村金物本店
しかし、今では“金物店”としての本業はほとんど客はないらしい。「ほとんど趣味のようなお店ですよ」と笑いながらおっしゃっていた。貴重な建築物だが、さすがに時を経て老朽化は免れず、台風などの大雨の時には雨漏りに悩まされるという。2階、3階の住居部分も今は使っておらず、普段は奥の別棟で過ごされているらしい。曜日に関係なく、昼間でもお店の雨戸が閉め切られたままのことも多いのだが、雨戸の開け閉めが大変であるため、体調が優れないときなどには店を開けないこともあるのだと、教えていただいた。
杉村金物本店
貴重な建築物として広く知られるようになり、ときおり観光客が訪れることもあるという。年配の方は「懐かしさを感じますね」などと言いながら見学していかれるそうだ。中には公立の資料館と勘違いされているのか、無言のままに入ってきて、一通り見てゆくと、また無言のままに出て行かれる人もあると、苦笑いを交えておっしゃっていた。ここで敢えて言っておきたい。杉村金物本店は「公立の資料館」ではない。個人商店である。見学させていただくときの、最低限の礼儀はわきまえておこう。
杉村金物本店
現在まで残る杉村金物本店の建物が建てられたのは1932年(昭和7年)、油津港に於けるクロマグロの水揚げがピークを迎えていた頃だ。油津港にはマグロ漁船がひしめきあうように並び、油津の町はマグロの豊漁に湧いた。日本のマグロ相場は油津によって決まるとも言われた、世に言う「マグロ景気」である。漁具や船具を扱う杉村金物本店も大きな需要があって好景気を謳歌していたのに違いない。あれからすいぶんの時が過ぎた。その頃の姿を残して国道脇に建つ杉村金物本店が、往時の賑わいを今に伝えている。
杉村金物本店
杉村金物本店
INFORMATION
杉村金物本店
【所】日南市油津一丁目
【問】日南市観光協会
このWEBページは「日南海岸散歩」内「日南海岸風景」カテゴリーのコンテンツです。
ページ内の写真は2017年夏、2018年夏に撮影したものです。本文は2019年12月に作成しました。