唐木田駅から目指す尾根道への入口までは少々距離がある。
唐木田の住宅街の中を西に進み、尾根幹線沿いの三菱自動車のある交差点で尾根幹線を横切って南へ向かう。大和証券研修センターと大妻女子大との間を南へ入り込んでゆくと、やがて道路は目の前の雑木林に行く手を遮られているように見える。道はそこから車一台がようやく通れるほどの幅になって右に折れる。左に雑木林や畑を見ながら、右には造成中の殺風景な景色を見ながら進むと、道は唐突に左に折れて林の中へと分け入ってゆく。木立の中を抜けてゆく道の両脇には、残念なことに不法投棄された廃棄物が散乱している。
しばらく歩くと左手に視界が開けてくる。緩やかな起伏の丘陵に畑の広がる美しい風景だ。道は少し下り坂になり、右手の谷戸に降りる道が分かれている。これも車一台がようやく通れるほどの幅で、道の行く手には緑の丘に抱かれるようにして何軒かの民家が建っている。この道は尾根から谷戸へと降りて正山寺の傍らを過ぎて
小山田のバス折り返し場付近へと抜け出る。道幅は狭いが小山田から唐木田への抜け道として通り抜ける車もある。
この分かれ道の付近は尾根がちょうど鞍の形をしていて、尾根の起伏に沿って延びる道の様子がとてもいい。分かれ道の傍らには一本の樹木が印象的に立っていて、これも景観のアクセントになって美しい。道の東側は林が切り開かれて畑が広がっている。畑は緩やかに東の谷戸に向かって降りてゆく。その風景がとても美しい。
尾根道を少し南へ行ったところに、畑の中へと降りてゆく道が分かれている。風景を楽しみつつ、その道へと歩を進めると、農作業に来ていた地元の人に「行き止まりですよ」と忠告された。どこかへ抜ける道であればさらに楽しいのだが、行き止まりになる道もそれはそれでまた楽しい。道は優雅な曲線を描いて丘を降りてゆく。道は間もなく畑の真ん中で行き止まりになった。「行き止まり」と言っても、町中のそれのように塀などによって行く手を塞がれるというのではない。道は畑の中でその役割を終えて、そのままさり気なく消えてしまうのだ。目の前には茄子やエンドウマメなどの育つ畑が道の延長のように広がり、その向こうに雑木林の丘が横たわっている。
道の終点に立って周囲を見渡すと、四方は丘に囲まれている。初夏の澄み渡る空を背景に緑濃くなってゆく樹影が美しく、ときおり丘に沿って吹き渡ってくる風も爽やかだ。町中の喧噪とはまるで無縁の、時の流れまで違うようなこの場所は、小山田の奥庭とでも言いたいような、郷愁に満ちた穏やかさに包まれている。かつて古の時代には林が広がるばかりの山中だったのだろう。林が切り開かれ、耕作地として使われるようになったのはいつのことだったのだろうか。それから代々、この地に暮らす人々に受け継がれてきた畑なのだろう。いつまでそうして受け継がれてゆくのだろう。重なる尾根の稜線を見上げながら、ふとそんなことを思ってみる。
尾根道に戻ってさらに南へ向かうと道は正山寺の墓所の上を抜けてゆく。道脇には住宅が立っていたりする。やがて道は緩やかに下り坂となって、鶴見川沿いの県道へと降りてゆく。同じ道を唐木田へと戻ってもよいのだが、今回は県道を東へ辿り、「山ノ端」バス停のあたりから北へ入り込む道に逸れる。道なりに進めば舗装された道路を
唐木田へと抜けるが、
小山田緑地の大久保分園へと辿り、そこから唐木田への帰路を選ぶ方が散策は楽しい。少々時間は早いが、大久保分園のベンチでランチにするのもいいように思えた。
唐木田を起点に小山田を散策するコースでは、大妻女子大の東側から散策路を辿るのが一般的だろう。小田急線の操車場を右に見ながら大妻女子大の入口前を過ぎると、南へ降りてゆく道が分かれていて、その道をほんの少し降りたところから左の雑木林の中へ小径が延びている。よく見ると
小山田緑地の案内板があるので迷うことはないだろう。このコースは唐木田からゴルフコースの端を辿って小山田緑地へ至るルートとしてよく知られており、散策を楽しむ人の姿も多い。このルートと今回歩いた上小山田の尾根道とは尾根ひとつ隔てているといった観があるが、上小山田から
下小山田にかけては緑多い里山の風景が美しく、散策は楽しい。四季折々に訪ねて、時には足を延ばしてみるのもよいだろう。