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町田市
下小山田町
Visited in July 1998
下小山田
現在の町田市下小山田町のあたりは平安時代から鎌倉時代にかけて、かつて鎌倉武士の小山田有重が開いて領主として支配した小山田荘の中心であった場所であるらしい。鎌倉時代の町田はほとんどがこの小山田荘の領内であったという。その居城があったところが現在の大泉寺で、深い木立に囲まれた寺の風情に往時を偲ぶことができる。小山田氏は13世紀頃には没落したということだが、その名が現在の町名に残されているのだろう。現在の小山田は多摩ニュータウンのすぐ南にあって今もなお自然をよく残しており、その一部分は都立の公園「小山田緑地」として保存されつつある。公園の周囲も多摩丘陵の原風景とも言えるのどかな田園風景が広がり、軽いハイキングを兼ねた散策には最適のロケーションだと言ってよいだろう。梅雨も明けた七月の末、小山田緑地の分園巡りを中心に下小山田の里を歩いてみた。
大泉寺
小山田行きのバスをその名も「大泉寺」のバス停で降り、山側へと入り込んでゆくと桜並木の長い参道があり、その奥に曹洞宗大泉寺の立派な山門が見える。大泉寺の建つ場所は、もともとはかつてこの地を開いて支配した鎌倉武士、小山田有重の居城跡であるらしい。寺の歴史は、小山田有重が1227年に家督を有重の子である行重に譲った際、居城の西に隠棲した真言宗高昌寺に始まるのだという。やがて小山田氏没落の後、15世紀頃に無極慧徹の開山によって大泉寺が建立され、かつての高昌寺が曹洞宗に改宗されてこの地に移ったのだということなのだろう。

山門は実に堂々としたもので、その階上には十六羅漢像が安置されているらしい。山門の周囲は杉の木立で、町田市名木百選に選ばれた大木もある。寺の周囲は深い林で、境内は静けさに包まれている。日常を忘れて、しばし古(いにしえ)の興亡の歴史に想いを馳せるのもよいものだろう。参道は桜並木で、春は見事な景観となる。
小山田の牧
大泉寺前の道をさらに辿ると小山田緑地本園の入口がある。小山田緑地は上小山田町から下小山田町にかけて広がる里山と谷戸の自然をそのままに残した都立の公園で、この本園部分と周辺の分園から構成されている。管理所横手の入口から舗道を辿って行くとふいに視界が開けて山間に広場が横たわっている。「小山田の牧」と名付けられたこの広場は12世紀頃の牧場の跡であるらしい。小山田氏がこの地を治めていた頃に馬の放牧を行っていたのだろう。「小山田の牧」の西側に小高く「みはらし広場」がある。「みはらし広場」からは遠く丹沢の山並みも望める。なかなか爽快な気分だ。「みはらし広場」から西へ下りてゆく小道がある。小道は畑地の間を辿り、やがて大泉寺入口付近へと抜け出ることができる。この小道を下りてゆく。
畑地
畑の中の小道を歩いていると農作業をしていた地元のおじさんに呼び止められた。軽い挨拶を交わして世間話などしていると、突然おじさんが「メロン、持っていくかい」と言うのだ。作物を入れた籠からメロンを取り出すおじさんに「はぁ」と戸惑いつつ応え、メロンを受け取った。メロンの種類はよくわからないのだが、「メロン」というより「瓜」と呼ぶのが相応しい素朴なものだった。「袋か何か持ってるか」とおじさんが言うので、リュックに常備してあるビニル製の袋を取り出してメロンを入れた。その様子を見ていたおじさんは「まだ入りそうだな」と言いつつ、籠の中から今度は茄子を何本も取り出して渡してくれるのだった。数種類の茄子をひとつひとつ種類の名を教えながら渡してくれるおじさん。受け取っては袋に入れてゆくとすぐにいっぱいになった。礼を述べてその場を去った。歩きながら振り返ると、おじさんはこちらには何の関心もないように農作業に戻っているのだった。メロンも茄子も、とても美味しかったことは言うまでもない。
梅木窪分園の木道
再び小山田緑地本園入口付近へと戻り、予め小山田緑地管理所で貰っておいたイラストマップを頼りに梅木窪分園へと向かう。敢えて雑木林の中の尾根を辿る散策路を往くコースを選んでみた。入口はちょっとわかりにくいかもしれないが標識が出ているのでよく見れば迷うことはないだろう。ただし山道というべき小道なので滑りやすいところもあり、できればトレッキング・シューズなどで出かけたい。

散策路の途中には休憩所なども設けられているし、木道なども整備されており、けっこう楽しい。建築中だった吊り橋も木立の間から見ることができた。やはりこうした雑木林の中を野鳥の声を聞きながら歩くというのは気分の良いものだ。途中、ゴルフ場のコースをすぐ横を通ったりもするが、やがて視界が開けてきてアサザ池へと降りることができる。途中、アサザ池への順路を示す標識がしっかり備えられているので迷うことはないだろう。
水田
アサザ池で水辺の植物などを眺めながらしばらく休憩した後、さらに奥へと進んでみた。この辺りは水田が並び、この季節、青々と稲が育っている。道路は車一台がようやく通れるほどの狭い道で、やがて未舗装となってますます狭くなり、そのまま進めば山中分園を経て唐木田駅付近へも辿れるのだが今回はそこで引き返すことにした。

アサザ池まで戻った後は、今度は雑木林の散策路には向かわずそのまま舗装路を小山田緑地本園方面へと戻る。途中、東京電力の高圧線が上方を横切る場所のあたりでゴルフ場のコースの中を横切って小山田緑地の大久保分園方面へと向かう道があるのでそこへ入ってゆくことにする。小山田緑地の管理所で説明を受けた時にも注意箇所として教えられたのだが、この場所はゴルフコースのティーショットの目前を横切る形なのだ。もちろん互いに意識して譲り合うわけだが、充分な注意は必要だろう。ゴルフを楽しむ方々には失礼だが、こうして散策を楽しむ側から見ればこの小山田の地に人工的に造られたゴルフ場の姿は無粋に見えてしまう。
大久保分園トンボ池
ゴルフコースの真っ直中を横切る形で尾根の上まで登り切ると、そこは小山田緑地の大久保分園だ。尾根を辿る散策路には「小山田の道」と記された標識も立っている。眼下の里の風景を眺めながら尾根伝いに歩き、竹林の横などを抜けて下へ降りると、そこがトンボ池だ。なるほどその名の通りトンボの姿が多い。池の中程まで出てゆける木道も設置されているので、のんびりとトンボ池の周りを歩いてみる。ここも水辺の植物など興味のある人にとっては楽しいだろう。

トンボ池を後にして、そのまま西方へと出てゆくとやがてバス通り(といっても広い道路ではないが)に出る。「山ノ端」バス停が近いのでここからバスに乗ってもよいし、またのんびりと歩いて大泉寺付近まで戻ってもよいだろう。
トンボ池のトンボアサザ池のアサザ
小山田緑地の本園・分園巡りを中心とした下小山田の散策では、お弁当を持ち、時間にも余裕を持って出かけたい。初めての人ならまずは小山田緑地の管理所に立ち寄り、イラストマップを貰い、係の人に周辺の様子やコースの概要を教えてもらうのがよいだろう。小山田緑地は1998年夏現在も整備が進行中なのでしばらく経つと分園が増えたり、広くなったりもするだろう。自然の中の散策が好きな人には、飽きることのない、魅力的な場所であることは間違いない。
小山田緑地