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相模原市緑区城山〜太井
城山ダムと津久井湖記念館
Visited in Ocotober 2023
城山ダムと津久井湖記念館
ようやく秋らしくなった十月半ば、城山ダムに出かけた。津久井湖城山公園「水の苑地」から「花の苑地」へ、堰堤上を通る国道を歩いたり、左岸側に設けられた展望所からダムを眺めたり、城山ダムにフォーカスを当てた散策を楽しんでみたいと思ったのだ。少し雲の多い空模様だが、晴れ間ものぞき、まずまずのお天気だ。
城山ダムと津久井湖記念館 城山ダムは県内三番目のダムとして1965年(昭和40年)に完成した。高度経済成長によって急増する水需要に対応する目的で造られたものだ。

城山ダムは相模川本川に築かれたダムで、右岸側は相模原市緑区太井、左岸側は相模原市緑区城山に位置している。かつては右岸側は神奈川県津久井郡津久井町、左岸側は神奈川県津久井郡城山町だったが、津久井町は2006年(平成18年)に、城山町は翌2007年(平成19年)に相模原市と合併している。2010年(平成22年)には相模原市が政令指定都市に移行、現在は相模原市緑区の一部だ。

城山ダムと津久井湖記念館 城山ダムは重力式コンクリートダムと呼ばれる形式のダムで、堤高75m、堤頂長260mという規模だ。天端(堤体の上部の部分)には国道413号が通っており、「城山大橋」と呼ばれたりもする。ダムの天端はたいてい道路や遊歩道になっているものだが、国道が通っているのは珍しいようである。

この国道413号、普段からたいへんに交通量が多い。休日ともなると相模湖方面へと行き来する行楽客の車で渋滞が発生することもしばしばだ。城山ダムの天端は、今やこの地域の重要な交通インフラを担っている。
城山ダムと津久井湖記念館 城山ダムの貯水池(城山貯水池)は津久井湖の名で呼ばれ、総貯水容量は62,300,000立方メートルだという。神奈川県営水道や横浜、川崎、横須賀の市営水道の水源を担っている他、本沢ダムの貯水池に送られて揚水発電にも用いられている。

城山ダムの建設によって当時の城山町、津久井町、相模湖町の一部が湖に沈んだ。280戸の世帯、さらに小学校や寺などが水没した。ダム建設に際して水没地域住民の反対の声は大きく、1953年(昭和28年)に発表された城山ダム建造計画から1961年(昭和36年)の工事着手までに実に八年以上の期間を費やしている。城山ダムは水道用水や電力の供給など多大な恩恵を神奈川県民に与えることにはなったが、代々受け継いできた土地が湖水の下に沈むことになった人々の思いは想像を超えるものがあったに違いない。

城山ダムと津久井湖記念館 津久井湖の左岸側、「水の苑地」の傍らに津久井湖記念館という建物が建っている。ダム完成から一年後の1966年(昭和41年)に建てられたものだ。水没地域の生活再建補償として1961年(昭和36年)2月に県から提示された「城山ダム建設に伴う総合施策要項」に基づき、水没地域住民の共済事業とともにこの記念館がスタートしたのだという。

記念館の完成とほぼ同時に設立された財団法人神奈川県津久井湖協会(現在の一般財団法人神奈川県津久井湖協会)が今も記念館の運営と水没地域住民の共済事業を担っている。

城山ダムと津久井湖記念館 記念館内部には津久井湖記念館資料室が設けられ、水没地域の人々から収集された生活用具や往時の風景を伝える写真などが展示されている。中でも特に水没以前の様子を捉えた写真の数々はぜひ見ておきたい。湖の底に沈んでしまった地区の、失われた風景である。

ダム完成からすでに半世紀以上が経過し、ダム建設以前の風景を知る人も次第に少なくなっていくが、静かに水を湛える津久井湖を眺めながら、その湖底にかつて人々の暮らしがあったことに思いを馳せておきたい。
城山ダムと津久井湖記念館 津久井湖を望む湖岸は昔から風光明媚な景勝地として知られていた。そもそも城山ダムが建造される以前から風景の美しいところとして有名なところだったらしい。現在は右岸側に神奈川県立津久井湖城山公園「花の苑地」、左岸側には津久井湖城山公園「水の苑地」が設けられて季節を問わず多くの来園者で賑わっている。

津久井湖城山公園は1999年(平成11年)に開園したが、この「花の苑地」と「水の苑地」はそれ以前から存在し、津久井湖を望む景勝地として人気を集めていた。それが津久井湖城山公園の一部として再整備されて集約されたという形だ。

城山ダムと津久井湖記念館 「花の苑地」からも「水の苑地」からも津久井湖や城山ダムがよく見える。静かに横たわる津久井湖と周囲の山々が美しい風景を織りなしている。

「花の苑地」から「水の苑地」まで、城山ダムを渡って数百メートルに距離しかない。津久井湖の姿を眺めながらのんびりと歩いてみるのもお勧めだ。城山ダムの天端を抜ける国道413号の歩道には、途中、展望所のようなスペースも設けられている。ダム上から見る津久井湖は「花の苑地」や「水の苑地」から見る津久井湖とは少しだけ印象も違って見える。
城山ダムと津久井湖記念館 城山ダムの左岸、ダムの(すなわち国道413号の)南側にダムを見下ろす展望所が設けられている。展望所は小公園のように整備されており、段差を設けて広場が用意されている。最も低い(すなわち最もダムに近い)広場からはかなり近い距離で城山ダムの姿を見ることができる。

展望所からは城山ダムを下流側から見ることになる。谷間に築かれて川の流れを堰き止め、その上流に大きな湖を出現させた構築物の姿は圧倒的な存在感だ。ダムの上流側に水を湛える津久井湖の姿と下流部分の渓谷の風景とのギャップには言い知れぬ畏怖のようなものも感じる。
城山ダムと津久井湖記念館 ところで、この城山ダムによる城山貯水池は津久井湖の通称で親しまれていることは前述した。「城山湖」ではない。実は「城山湖」は別に存在する。津久井湖の北方、相模原市緑区川尻に位置する本沢ダムの貯水池が「城山湖」だ。ちょっと紛らわしい。

本沢ダムは1965年(昭和40年)に完成、津久井湖の水を夜間電力によって揚水して貯水し、発電に用いられている。これも高度経済成長によって急増した電力需要に対応するためだった。城山ダムから城山湖展望台まで約4km、車なら10分程度で着く。興味のある人は併せて訪ねてみるといい。
城山ダムと津久井湖記念館
城山ダムの周辺、特に津久井湖城山公園「水の苑地」「花の苑地」には何度も訪れたことがあるが、城山ダムの天端(いわゆる「城山大橋」)を歩いてみたことはなかった。車で走り抜けるときとは違う景色が楽しかった。美しい湖の景色は景勝地としての知名度に恥じないものだが、ダムに建設によって湖底に沈んだ人々の暮らしがあったことは忘れてはなるまい。

城山ダムに訪れるには橋本駅北口から三ヶ木行きなどのバス路線を利用し、「城山高校前」バス停や「津久井湖観光センター前」バス停で降りるのが便利だ。城山ダムの東側、国道413号沿いに広い駐車帯があり、短時間なら車を駐めておくこともできる。津久井湖城山公園「水の苑地」「花の苑地」を利用するなら、それぞれ来園者用無料駐車場が設けられている。
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