横浜線沿線散歩公園探訪
横浜市中区元町
元町公園
May 2003
元町公園
元町商店街の東端のあたりから元町一丁目の住宅街の奧へ入り込んでゆくと元町公園がある。というより、外国人墓地の西に隣接し、山手本通りに面していると言った方が、一般にはわかりやすいかもしれない。尾根の間に入り込んだ、いわゆる「谷戸」の地形の立地で、低地となった公園中央部にはプールや弓道場などが置かれ、その周囲を木々に覆われた斜面が囲んでいる。木々の間を縫って散策路が辿り、木漏れ日を浴びながらの散策が楽しい。春の桜の名所としても知られ、山手本通りに面する敷地内にはエリスマン邸が建ち、横浜山手の観光名所のひとつにも数えられている。1930年(昭和5年)の公開というから歴史もなかなか古い。
元町公園−ウォーターガーデン
プールの北側の、元町商店街に面した部分は老朽化に伴うリニューアルの整備が平成10年度から平成12年度にかけて行われ、現在は「ウォーターガーデン」として新しい表情を見せている。「ウォーターガーデン」の名が意味するように、壁泉やカスケードといった、水の流れをメインに据えた施設で構成されているが、その水は毎分180リットルという湧き水を利用したものという。以前は子ども用のプールがあった場所には小さな池が設けられているが、これは夏季には子どもたちの水遊び用の「ジャブジャブ池」としても使用するものという。この一角は山手本通りから離れているためか、普段はあまり観光客の姿も無いように思えるが、端正に仕立てられた庭園風の造りは景観も美しく、ひっそりと静かな印象が魅力的だ。
元町公園−ジェラールの貯水槽
この付近は明治の初めにフランス人の実業家ジェラールが船舶給水業を営んだ場所としても知られている。湧き水を簡易水道で引き、外国船に飲料水として売ったのだという。ジェラールが使用した貯水槽は現存し、「ウォーターガーデン」部分からさらに北側の住宅街の中に残されている。今もなお豊富な水が湧き出しているという。またジェラールはこの地で西洋瓦とレンガの製造も手がけている。現在のプール管理棟の屋根の一部に、この西洋瓦が用いられているという。プール管理棟の傍らに、「ジェラール水屋敷」と「ジェラールの瓦とレンガ」に関する解説板が設置されており、ジェラールの水は「インド洋に行っても腐らない」と明治期の船乗りたちの間で評判になったといったことが記されている。ジェラールの工場跡地は大正活映の撮影所などに用いられた後、関東大震災後に横浜市が公園として整備した。これが現在の元町公園で、公開は1930年(昭和5年)のことだった。
元町公園−山手80番館遺跡
公園西側の小径を山手本通りへ向かって登ると、山手80番館遺跡がある。かつては鉄筋補強のレンガ造りによる三階建ての建物であったらしいが、関東大震災で倒壊、現在残っているのはその地下室部分であるらしい。今ではまさに「廃墟」のような有様だが、公園の木立に囲まれてひっそりと横たわり、往時の面影を伝えている。遺跡の傍らを辿る散策路から張り出すように展望デッキが設けられ、緑多い公園内部を見下ろしている。そこに立ってひととき静かに時を過ごせば、かつてこの付近が外国人居留地として賑わっていた頃の、ここに住まった人々の暮らしぶりが何となく感じられるような気もする。
元町公園−エリスマン邸
山手80番館遺跡から山手本通りへと出ると、エリスマン邸が建っている。関東大震災後の1926年(大正15年)、スイス人貿易商エリスマンの私邸としてレーモンドが設計したものだという。その後は所有者が転々としたということだが、戦災も免れ、1989年(平成元年)に元町公園の敷地内に移築復元され、「エリスマン邸」として公開、山手本通りに並ぶ洋館のひとつとして観光客を集めている。

元町公園−ベーリックホール
エリスマン邸の西側には路地を挟んでベーリックホールが建っている。ベリック商会の経営者、英国人貿易商のB.R.ベリックの私邸として建てられたもので、設計はJ.H.モーガンによる。戦後はセントジョセフ・インターナショナル・スクールの寄宿舎として使われていたものだが、スクールの閉校に伴って横浜市が取得して整備、元町公園の一部として2002年(平成14年)夏に一般公開されたものだ。スパニッシュ風様式の建物はなかなか大きく堂々としている。内部も自由に見学することができる。

元町公園−山手234番館
山手本通りを挟んだエリスマン邸の斜向かいには、これも元町公園の一部として山手234番館が建っている。昭和の初めに外国人向けの共同住宅として建てられたものという。山手本通りに面した部分の建物の意匠が往時を偲ばせるが、内部は現在では主としてパネル展示や会議室などとして使われており、他の洋館群とは少々趣が異なっている。

エリスマン邸の建つあたりから東へ、山手本通りに面する部分は広場のように整備されており、一休みする人の姿に混じってスケッチを楽しむグループの姿を見ることも少なくない。山手本通りを挟んだ向かい側には山手234番館や「えの木てい」、横浜山手聖公会などが並び、山手本通りの中で最も魅力的な一角であるかもしれない。
元町公園−プール元町公園−「塗装発祥の地」碑
外国人墓地に隣接し、山手本通りに面する元町公園は、独立した公園としての存在感は薄く、横浜の観光名所としての山手界隈を構成する一角としての役割を担っているように見える。特にエリスマン邸や山手80番館遺跡などは山手の「洋館巡り」などの散策では欠かすことのできないスポットであるだろう。下へ降りた「ウォーターガーデン」の辺りでは観光客の姿は少ないようだが、「ジェラールの水屋敷」などを訪ねるのも「穴場」的な観光として楽しい。「塗装発祥の地」碑など、さまざまな事物を顕彰する碑を公園内に探してみるのもいい。

地元の人たちにとっても素敵な憩いの場であることと思われるが、山手観光に訪れた観光客の立場であっても、緑濃い公園での一休みはゆったりとしたひとときが過ごせるに違いない。
元町公園