江戸時代から“上野のお山”は桜の名所だったという。寛永寺を建立した天海僧正が桜が好きで、奈良の吉野山から移植したのだという。江戸時代の寺の境内は庶民の集う行楽地としての役割も担っていたわけだが、その歴史を今も受け継いでいるということなのだろう。現在の上野恩賜公園には約1200本の桜があるという。ソメイヨシノが中心だがエドヒガンやオオシマザクラ、ヤマザクラ、ヤエベニシダレなど、約40種が植えられているとのことだ。大きく枝を張った桜が咲き誇って園内を染め上げる景観は素晴らしく、その知名度に恥じないものだ。
上野恩賜公園の桜は園内の随所で見ることができるが、中心となるのは公園南東端に位置する袴腰広場から東京国立博物館正面に位置する噴水広場へと至る大きなプロムナードだ。プロムナードには「桜通り」との名があるようだが、その名が示すようにプロムナードの両脇に桜が並び、圧巻の景観を見せてくれる。清水観音堂下から見上げると桜と観音堂の建物との取り合わせも良い風情だ。もちろん観音堂から見下ろす景観も見事だ。袴腰広場から噴水広場の方へと向かうと噴水広場に近づくほどに桜が見事な枝振りとなって頭上を覆い、まさに“桜のトンネル”と化す。その桜の天蓋の隙間から春の青空を見上げれば、春爛漫を実感する。