東京都あきる野市、秋川渓谷は紅葉の名所でもある。中でも十里木交差点近く、石舟橋の周辺は特に紅葉の見事さが知られる。川辺の木々が紅葉に染まった十一月中旬、秋川を訪ねた。
東京都あきる野市、JR五日市線武蔵五日市駅前から檜原街道(都道33号)を西へ4kmほど辿ったところで、養沢へと向かう都道201号が檜原街道から岐れ、三叉路を成している。三叉路には「十里木」と地名が記されている。この三叉路の付近は秋川が大きく蛇行するところで、秋川渓谷の美しい景観が楽しめる。河原を利用したバーベキュー場やキャンプ場などもあり、初夏から夏にかけての行楽シーズンにはたいへんに賑わうところだ。
三叉路横、檜原街道に設けられたバス停から200メートルほど西へ向かうと、秋川を跨いで石舟橋という人道橋が架かっている。石舟橋を渡った対岸には「秋川渓谷 瀬音の湯」という温泉施設があり、石舟橋そのものもバス停から「秋川渓谷 瀬音の湯」に向かう客の利便のために設けられたものらしい。石舟橋の上からは秋川の流れを見下ろし、見事な渓谷美を楽しむことができるが、晩秋になると周辺の河岸の木々が紅葉に染まり、その美しさが“紅葉の名所”として広く知られるようになった。
檜原街道側の石舟橋袂には秋川を見下ろす展望デッキが設けられている。展望デッキからは大きく蛇行しながら流れてゆく秋川と、そこに架けられた石舟橋の姿を一望できる。夏には緑濃く秋川の流れも涼やかだが、11月も下旬を迎える頃には河岸の木々が紅葉に染まり、すっかり晩秋の装いだ。
河岸に大きく枝を広げる落葉樹が黄葉し、秋の日を浴びて輝く様子がとても美しい。石舟橋の少し上流側の右岸(すなわち檜原街道側)にはモミジの木があって真っ赤に染まっているが、山陰になって陽光が届かず、目立たないのが惜しい。視線を上げれば遠くの山々が視界に入る。緑のままの山肌は杉の林だろうか。緑の中にパッチワークのように黄葉の木々が混じる様子もなかなか美しい。
石舟橋は橋そのものの意匠も良い風情で、秋川の流れと石舟橋と、その周辺の黄葉とが織り成す風景がとてもフォトジェニックだ。
石舟橋を渡れば、橋上からの風景は河岸から見る風景とはまた違った表情を見せてくれる。橋を進むにつれて見える景色も変わり、陽光の角度が変わるためか、黄葉の色彩さえ違って見える。橋を渡って対岸から振り返ってみれば、河岸の黄葉は逆光を浴びて輝いている。その様子がとても美しい。
石舟橋を渡った先の秋川左岸は「秋川渓谷 瀬音の湯」の敷地だ。石舟橋の袂から施設の建物が建つ場所まで林の中を縫って散策路が辿っている。その散策路脇でもさまざまな木々が紅葉に染まっている。散策路を歩きながらときおり立ち止まったり、振り返ったりしながら、紅葉の景観を探してみるのも楽しい。
「秋川渓谷 瀬音の湯」の建物のある一角は、さらに見事な紅葉が楽しめる。「瀬音の湯」が建てられたときに植栽された木々と、山肌に自生していた木々と、さまざまな木々の紅葉が織り成す錦秋の風景が見事だ。特に敷地北側の外縁部から尾根の斜面にかけて、大きなモミジが真っ赤に染まって圧巻の景観を見せる。クヌギやコナラといった落葉樹の黄葉が日差しを浴びて輝く様子も素晴らしい。見上げれば赤や黄金に染まった木々と真っ青な秋空とが鮮やかなコントラストを描く。下から見上げるのもいいが、尾根の斜面を辿る小径に歩を進めれば紅葉の木々越しに「瀬音の湯」の建物を見下ろし、その景観も興趣に富んでいる。場所によってさまざまに変わる紅葉の表情を楽しんでいると飽きることがなく、ついつい何度もカメラのレンズを向けてしまう。見事な景観である。
「秋川渓谷 瀬音の湯」敷地の紅葉を堪能した後は、長岳橋で養沢川を渡り、落合バス停方面へと辿ろう。長岳橋下の民間キャンプ場は利用客もなく、落ち葉が降り積もっている。集落の中の道を辿ってバス通りへと出る。落合バス停脇に見事な赤に染まったモミジの木があった。民家の敷地内に植えられているものだろうか。晩秋を迎えた山間の集落の、郷愁を誘うような風情がいい。
落合橋下の秋川河原へも降りてみよう。上流側へ視線を向けると蛇行する秋川の河岸の木々が紅葉に染まって美しい。崖上に連なる紅葉の木々は「瀬音の湯」の敷地内の木々だろう。逆光の中、日差しに輝く紅葉の木々が一幅の絵画のような風景を描いている。初夏から夏にかけてはバーベキューや川遊びの人、鮎釣りの人などで賑わう河原だが、今は人の姿もなく、静かに深まってゆく季節の色彩に染まっている。
秋川渓谷はそもそも紅葉の美しいところとして有名だが、その中でも石舟橋周辺が“名所”として知られるようになった。橋の上から見る河岸の紅葉も美しく、さらに「瀬音の湯」敷地内の紅葉も見事で、評判に違わぬ景観が楽しめる。晩秋の一日、錦秋の景観を求めての散策に好適なところだと言っていい。秋の色に彩られた渓流美を楽しみながら、のんびりと巡りたい。
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十里木の辺りに電車で訪れる場合はJR五日市線を利用し、終点の武蔵五日市駅で下車、駅からバスを利用し、「十里木」バス停や「落合橋」バス停で降りれば良い。武蔵五日市駅から十里木バス停まで15分ほどだろうか。
車で訪れる場合には圏央道あきる野ICから都道7号へと入って西進してJR武蔵五日市駅前を経由、都道33号をさらに西進するのがわかりやすいだろう。あきる野ICから十里木の交差点まで10kmほどだ。他の方面から来る場合もまずJR五日市線武蔵五日市駅を目指し、そこから都道33号を檜原方面へと西進すればよい。武蔵五日市駅前から十里木交差点まで4kmほどだ。
十里木の三叉路と落合橋との間に東京都営の無料駐車場が用意されている。また落合橋近辺には民間のバーベキュー場などが運営する駐車場がある。季節が限られるが、バーベキュー目的で訪れるならバーベキュー場の駐車場を利用するのがよいだろう。
「瀬音の湯」に直接車で向かう場合は十里木の三叉路をそのまま檜原方面へと向かい、1kmほど走ると「瀬音の湯」を指し示す案内板があるので、それに従って右折、突き当たりの丁字路を右折して、秋川の左岸側を引き返すように東へ辿れば「瀬音の湯」に着く。「瀬音の湯」は人気があり、行楽シーズンの週末などにはたいへんに混雑する。駐車待ちの列ができることもあるので余裕を持って訪れた方がいい。
十里木の辺りにはあまり飲食店がなく、食事の場所の選択肢が少ない。「瀬音の湯」に設けられた食事処を利用するのもいいし、あるいは五日市の町へ戻るのもいいだろう。五日市の町にはさまざまな飲食店がある。
秋川渓谷と言えば初夏から夏にかけてはバーベキューで賑わうところだ。その季節であれば民間のバーベキュー場などを利用し、バーベキューを楽しむのもお勧めだ。バーベキュー場の利用方法などはバーベキュー場に問い合わせして確認されたい。
十里木周辺以外にも秋川渓谷には景観の美しいところが数多く点在している。河畔の集落も良い風情があり、のんびりと散策してみるのもお勧めだ。早春には養沢川の上流に建つ
徳雲院
を訪ねてみたい。境内に数多くの梅が植えられており、見事な景観が楽しめる。桜の季節には「
乙津花の里
」をぜひ訪ねてみたい。シダレザクラやミツバツツジの咲き誇り、圧巻の風景だ。
十里木から都道33号(檜原街道)を西へ辿れば檜原村、
払沢の滝
へも6kmほどだ。車で十数分といったところか。車で訪れた人は足を延ばしてみるのもいいかもしれない。
町歩きの好きな人なら五日市の町散歩を楽しむのもお勧めだ。五日市の町を抜ける
檜原街道は百日紅の並木
で、夏には美しい景観になる。夏の散策もいいものだ。
秋川渓谷(あきる野市観光協会)
秋川渓谷 瀬音の湯
秋川渓谷 十里木
梅香る徳雲院
乙津花の里
早春の乙津花の里
払沢の滝
晩秋の払沢の滝
檜原街道 百日紅並木