東京都あきる野市の西端部、山間の川沿いに龍化山徳雲院という寺がある。五日市町史によれば、開山は戸倉の光厳寺二十一世雲英台禅師で、1500年代中頃に開かれたものらしい。境内地内には数多くの梅が植えられており、早春になると美しい景観を見せてくれる。また寺は養沢川河岸の立地で、初夏には蛍も見られるという。そうしたことから「徳雲院周辺」として「あきる野百景」のひとつにも選ばれている。山間に佇む静かな寺である。
都道33号の「十里木」交差点から都道207号へと逸れ、秋川を渡ってさらに進んでいくと、やがて緩やかな上り坂となった道の左手、養沢川の河岸に徳雲院が見えてくる。早春、徳雲院の境内地は梅の花に覆われ、冬枯れの風景の中にそこだけが一足早い春の色だ。都道から見下ろすこの景色はたいへんに美しく、訪れた際にはぜひ見ておきたいものだ。
降りていけば庭から駐車場の周辺にも梅が咲き誇り、圧巻の風景を見せる。場所によって梅の咲く風景は表情を変え、飽きることなく楽しめる。早春の青空を背景に梅の花を見上げるのもいい。中には一本の木に白い花と紅い花の付ける「思いのまま」の品種の梅もある。時間をかけてゆっくりと見学させていただこう。
梅の林はさらに養沢河岸にも広く設けられ、河岸の小径を辿って楽しむのもお勧めだ。養沢川の流れと梅の花との取り合わせが風趣に富んだ風景を見せてくれる。山々に囲まれた谷筋の地形だから、広々とした公園の梅林なとどはまったく違った興趣があって楽しい。養沢川は細い渓流のような川で、せせらぎの音を聞きながらの観梅は心安らぐひとときだ。
徳雲院では梅の花だけでなく他にもさまざまな早春の花を見ることができる。庭の一角には水仙や沈丁花が植えられ、墓所の脇ではミツマタやサンシュユ、ロウバイなども見ることができる。河岸の小径脇などではホトケノザやヒメオドリコソウ、オオイヌノフグリといった花々も見つけることができる。梅を楽しみながら、それらの花々も探してみればより楽しむことができるだろう。
都道207号は交通量は少なく、辺りは静かなものだ。その静かさが何よりの魅力かもしれない。養沢川の流れの音や鳥の声などが響く中、春の訪れを感じながらのんびりと観梅散歩が楽しめる。観梅の名所と言って差し支えない。山間部に位置するからか、梅の開花は市街地より遅い。訪れる際はタイミングを見極めよう。