内海からさらに国道220号を南下し、
野島の地区を経て海岸に沿って走ると、やがて宮崎市の最南端、日南市との市境の岬に至る。この岬を「いるか岬」という。かつてはこの岬から沖をゆくいるかの群がよく見られたことからこの名があるという。今でも幸運に恵まれればその姿を見ることができるようだ。
海岸に沿う国道220号は急なカーヴを描いてこの岬をまわってゆく。昔、海岸に沿う道路が造られた時には、当然のことながら狭い未舗装の道路だった。「日南海岸ロードパーク」構想によって道路の改良が進み、このあたりの舗装工事が終了したのは1964年(昭和39年)頃のことだ。宮崎と日南海岸が新婚旅行先として人気を集め、宮崎が空前の観光ブームに湧く、まさにその前夜の時期だった。あれからすでに半世紀年以上が経ち、国道220号は整備が進んで日南市街と宮崎市街とを一時間半ほどで結ぶが、いるか岬は宮崎と日南との市境であることもあって、両市街を行き来する時にはちょうどその中間点のような印象がある。
岬には数台が駐車可能なスペースが設けられ、車を停めてひと休みする人の姿を見かけることも多い。車を降りて岬の突端部分に立って海を眺める人の中には観光に訪れた人もあるのだろう。しかし岬周辺にはお店などはもちろん観光地的施設は何もなく、駐車スペースの前方に展望所のような緑地スペースがわずかに設けられているだけだ。緑地スペースの脇の方には「いるか岬」の名を記した柱がぽつりと立っている。緑地スペースの中央部にはビロー樹が植えられて風に吹かれている。以前はフェニックスが植えられていたのだが、聞いた話によれば外来の害虫によって立ち枯れてしまったともいう。
海を見下ろす突端部分に立てば、眼前に広々とした海原が広がる。岬はそれほどの高所ではなく、高みから見下ろす景観の雄大さという点には欠けるが、視点が海に近いぶんだけ、また別の魅力を感じることができる。南方で大きく海に突き出した岬はかつて
サボテンハーブ園があった岬で、北側に見える島影は
野島地区の巾着島だ。巾着島との間の海岸には汐が引くと広く「鬼の洗濯板」が現れ、岬に植栽されたビロー樹やハイビスカスなどとともにそれらの景観が視界に収まる様子はなかなか美しい。
気付かなければそのまま通り過ぎてしまうような岬だが、ひと休みを兼ねて車を停め、雄大な景観を楽しむのもよいものだろう。沖に目を凝らして、いるかの姿を探してみるのも一興かもしれない。